コロナ禍におけるラト・ヤートラー

7月12日はオリッサ州のプリーのジャガンナート寺院の大祭で、巨大な山車が引きまわされる「ラト・ヤートラー」が行なわれた。

コロナ禍での開催ということで、山車をけん引するコロナ検査陰性の者以外は参加不可とのことで、当日は外出禁止令が敷かれたため、一般の参拝客の姿はない。

各ニュース番組等のメディアで中継されていたが、次の映像は国営放送ドゥールダルシャンの映像でYoutube配信されたもの。昨日はライブ配信であったが、現在は録画されたものを閲覧できるようになっている。

寺院内では、それなりに密な感じだが、敷地外の誰もいない大通りで山車が引かれる様子は異様だ。来年は、従前と同じ環境で実施することが可能になっていることを祈りたい。

以下の映像は2019年のものだ。今年のそれが、いかに例年と異なるものになっているかが、よくわかることだろう。

金メダルをインドにもたらすか? 東京五輪出場のヴィカース・クリシャン

インドから3度目の五輪出場となるヴィカース・クリシャン・ヤーダヴ。インドのボクシング界の至宝と呼ばれ、メダルへの期待が大きい選手。インドの男子ボクシングといえば、ハリヤーナー州のビワーニー地区が有名だが、やはりこの人もそこで強くなったそうだ。

特徴的なのは、「明日のジョー」みたいな具合で頭角を現すボクサーが多いインドで、この人の出身は中流家庭で物質的な不足はなく、経済的に恵まれた環境に育ったらしい。裕福な男子が早いうちから高いレベルのトレーニングを積んで、世界レベルで闘うというエリートコースがすでにインドのボクシング界でも出来上がりつつあるのかもしれない。

ヴィカースが、東京五輪でもっとも良い色のメダルを得て表彰台の頂点に立ち、ジャナガナマナが流れる様子をテレビで観たいものだ。

 

スシール・クマールの転落

先月、インドの有名レスラー、スシール・クマールの逮捕のニュースが流れたときは、心底びっくりするとともに、ともに警官の息子という共通点、兄弟子、弟弟子という先輩・後輩の関係にある23歳の若いレスラーを殺害したとあって、よほど深い確執というか、怨恨があったのかと暗い気持ちになった。

だが、「THE WEEK」の最新号によると、実はそんなものではなくて、ともに対立し合うギャングに所属していて、そのギャング組織同士の抗争によるもので、銃器を使用しての殺害であったとのことで、本当に驚いた。

インド政府から国民的な大活躍をしたスポーツ選手に与えられる「ケール・ラトナ」、加えてアルジュナ賞、パドマ・シュリーといったインドで一流の表彰を受け、今は後進の指導に当たるだけではなく、学生スポーツの振興に当たる団体のトップも務めているというのに、そんな彼がギャングの一味で、その抗争で殺人まで犯したとは!

国外的には、レスリングで北京五輪の銅メダリスト、ロンドン五輪での銀メダリストと言ったほうがわかりやすいかもしれないが、一流のレスラーであり、オリンピアンであり、これまたインドでもトップクラスのアスリート出身の名士のはずだったのに。

記事を読んだ後、どうしようもなく陰鬱な気分になってしまった。

 

Sushil Kumar’s road to perdition (THE WEEK)

映画「ブータン 山の教室」

コロナ禍ですっかり映画館から足が遠のいていおり、今年度初めてのシネマホール。「ブータン 山の教室」のあらすじはリンク先のとおりだが、結論から言って、ひさびさに映画館で観る上映作品として選択したのは正解であった。

秀逸なストーリーもさることながら、インドのスィッキム州からすぐ近くにあるブータン王国のティンプーの風景、そこに暮らす若者が教師として赴任する、最寄りの町から徒歩1週間のところにある寒村とその地域の風景。どちらもインドの山岳地域のチベット文化圏を思わせる風情と眺めも興味深かった。緑あふれる美しい山の景色、清冽な水の流れる渓谷、神々しい雪山の眺めをずっと目にしていたくなる。

GNH(国民総幸福量)とかなんとかいう、いかにも白々しいブータンの官製プロパガンダとは違う角度から描かれた幸せのひとつの形。日本のそれとたいして変わらない都市生活。スマホでいつでもどこでも仲間たちや外国の情報に触れる都市育ちの若者と、電気すらなく村内以外との接触が片田舎の同世代の人たちとの意識の乖離を描きつつ、不便と不満から村人たちに失礼を働きながらも、何もないところに赴任してきてくれる若い教員を尊重して温かく接してくれる村人たちとの信頼関係を築くことができて、任期を終えて後ろ髪引かれながら村を後にする主人公。

学級委員役のいかにも利発そうな女の子はブータンの有名な子役かと思いきや、そうではなく普通の村の子ということに衝撃のようなものを感じる。生徒たちの前で先生が英語でしばらく話をするシーンもあり、そこはやっばりのインドアクセントであるところが、いかにもブータンらしい。1970年代以降、近代化を目指したブータンの教育仲介言語は英語だが、導入時に「英語人材」を欠いていたブータンに対して、大勢の教員を送り込んでバックアップしたのは、面倒見の良い「兄貴 インド」であったからだ。

The Endの後のクレジットには、制作陣に香港のメディアグループがあることになるほどと感じるとともに、技術系のスタッフのところにインド人の名前がいくつも並び、おそらくブータン映画産業に携わるインドの業界人は少なくないのだろうとも想像する。

そういえばブータンで最初にテレビ放送が始まったときもインドによる丸抱えの援助であった。画面にインド人はひとりも出てこないのだが、ブータンとインドの絆が見え隠れするところもまた興味深い作品である。

ブータン 山の教室」(公式サイト)

東京五輪で金メダルなるか?ミドル級女子選手、プージャー・ラーニー

プージャー・ラーニー選手

インドの女子ボクシングといえば、これまで各種大会で華々しい成績を挙げてきたフライ級のレジェンド、メアリー・コム選手のおそらく花道となるであろう東京五輪。メアリーの活躍が期待されるところで、ぜひ良い色のメダルを持ち帰って欲しいところだ。同じくメダルが期待されているミドル級のプージャー・ラーニー選手。こちらはインド女子選手ながら重量級というのも頼もしい。

こちらの動画は本日までUAEで開催されていたアジアボクシング連盟のチャンピオンシップの決勝戦の様子。プージャーはウズベキスタン選手に判定勝ちして優勝。女子の分野でもウズベキスタン、カザフスタンというボクシング大国の選手たちが大勢上位入賞している中、そうした強豪を倒して見事優勝してみせるとは大したもの。相手のリードパンチをかいくぐり、距離を詰めてインファイトで勝負するのが彼女のスタイルらしい。良いコンディションを維持して、ぜひとも東京五輪に臨んでもらいたいものだ。

2021 ASBC Finals (W75kg) MAVLUDA MOVLONOVA (UZB) vs POOJA RANI (IND) (YOUTUBE)

この選手についても、先述のメアリー・コム選手と同様、ボクシングという競技を始めたとき、そしてキャリアを続けていくには、いろいろな曲折があったそうだ。ハリヤーナー州のビワーニー地区出身。デリー首都圏に近いエリアではあるとはいえ、保守的な地方の田舎の村の出。「ビワーニー」といえば、国際大会で活躍するボクサーを輩出してきた土地柄だが、それでも女子がこれを目指すとなると、また別の話であることは想像に難くない。

こんなときに五輪?と思うし、そもそも東京への招致活動の段階から「日本でやらなくたって・・・」と思っていたし、それは今でも変わらないのだが、すでに開幕まで本日6月5日時点で、あと48日。実際に始まったらしっかり楽しむつもりでいる。