印・バ関係の今後

当分の間はインドとの良い関係は期待できないバングラデシュ。前政権下でシェイク・ハスィーナーの存在はインドにとってとても好都合なものであったが、亡命を受け入れたことでこれが大きな重荷に。

またバングラデシュにおけるヒンドゥー教徒への攻撃が大きく報道されるなど、インド側にとっても国民感情的な側面からもバングラデシュに厳しく対応せずにはいられない。

先日はデリーでバングラデシュの高等弁務官がインド政府に呼び出されて同国内における治安悪化等に関する懸念について懸念を伝えられていたが、まさにこうなることへの心配があったのだろう。

 

ちなみにインドとバングラデシュが相互に置いているのは大使館ではなく高等弁務官事務所。ともに英連邦の加盟国であるためだ。そのため大使に相当するのが高等弁務官となる。

来年2月に総選挙が予定されているが、こうした騒擾はしばらく続くのだろうか。無事に国民の審判を得て、安定した政権が樹立することを願いたいが、今回の選挙には、BNP(バングラデシュ民族主義党)と並ぶ2大政党のひとつ、アワミリーグは暫定政権から政治活動を禁止されているため参加できない。

そのため同国内では新政権樹立後もいろいろ起きそうだが、親インドのアワミリーグを追い出してのBNP政権スタートとなると、インドにとって扱いにくい隣国政権となることは必至だ。

Overnight unrest in Bangladesh : Anti India protests erupt how events unfolded after Sharit Osman Hadi’s death (Time of India)

印鉄聖地 レーワーリーのロコ・シェッド

開館時間を8時からと思い違いして7時50分くらいに着いたのだが、開館は9時からであると知った。ここで1時間ほど待つことになるかと思ったら、出勤してきた職員の人が「どうぞ」と入れてくれた。

ここは見学できるが、そもそも修理工場なので、実際に整備士さんたちが忙しく作業している。

「忙しく」といっても傍目にはのんびりしているように見えるのだが、インドにおける蒸気機関車修理の最終兵器みたいなところなので、貴重な蒸気機関車を日々修理するとともに、他の工場でどうにもならない機関車をも受け入れて直しているらしいから、凄腕の職人さんたちが揃っているのだろう。

ここでしばらくの間、蒸気機関車の運転士さんが構内を案内してくれた。なんでも現在この人は蒸気機関車専門の運転士とのことで、冬季にデリー・アルワル間で運行されるフェアリー・クイーンの走行もしているとのことで、他にも何かのイベント等での運行があれば、呼ばれて行くそうだ。実際に走行する際には4時間前から機関車のウォーミングアップが必要とのこと。

普段はあまりそういうのがないので暇かと言えばそうでもないようで、整備の途中で蒸気機関を動かしての確認作業もあるそうだ。

どの機関車も走行できる状態にあり、展示されているわけではなく、整備のために置かれているため、駅前などに置かれている機関車と異なり、生気に満ちている。

大きなブロードゲージの貨物用機関車「ヴィラート」の顔が外れた間抜けな姿を見るのは初めてだったけど、蒸気機関の構造について運転士さんから説明を聞くことができて良かった。燃料効率の悪い、そして水も大量消費するのが蒸気機関車であったこともよくわかった。

また、小ぶりで緑色のメーターゲージ機関車、「フェアリー・クイーン」は、優美な外見とは裏腹に気難しくてたいへん扱いにくい機関車であるとも。容易にオーバーヒートするし、気を抜くと瞬時に蒸気圧が下がる厄介者だとのこと。

珍しい車両もある。蒸気機関によるロードローラーというのは、ここで初めて目にした。

また貴賓用客車もあるが、こちらは昔々の車両を現在の要請に応じてカスタマイズしたもの。エアコンも付いている

こちらは1921年の車両でこの年に訪印したプリンス・オブ・ウェールズのインド滞在のために造られたた特別車両。後に英国国王(=インド皇帝)エドワード8世となる彼の皇太子時代だが、インドに4ヶ月滞在している。大変な時代だったので、いろいろ批判は多かったようだ。

後にエドワード8世となる皇太子の寝台

ロコ・シェッド内の壁にあったものだが、2000年以降にここで撮影された映画のリストも掲げられている。

レーワーリー・ロコ・シェッド見学終了。印鉄ファンの方には心からお勧めしたい。とても楽しかったが入場料はわずか10Rs。外国人料金の設定はない。

「あの制服の美女は誰だ?」日印の男性共通の関心ごとについて

オペレーション・スィンドゥール」に関するブリーフィングで出ていた「謎の美人陸軍幹部」については「おぉ!凛々しくてカッコいい!これはまるで映画のようだ!」と個人的に気になっていたのだが、ヴィクラム・ミスリ外務事務次官とともに出ていた陸軍のソーフィヤー・クレーシー大佐と空軍のヴォーミカー・スィン中佐について、「彼女たちは誰?」的な解説動画。

世の中の男性たちの関心は、インドも日本もおんなじであることがよくわかる。

それにしても陸空両軍からブリーフィングで女性幹部を出させるというのは、おそらく偶然ではなく、これもまた「女性の活躍」に力を入れるモーディー政権による意図が汲まれているものなのだろう。

同時にこうした場面で女性を登用することにより、「オペレーション・スィンドゥール」という軍の作戦としては非常に変わった名前との調和も取れている点からも興味深い。このあたりの「メディア映え」についても、やはりモーディー政権は計算済みのはず。日本からも注目しているほどなので。

またパキスタンへの攻撃のブリーフィングにて、ムスリムの軍幹部を登用することについて、戦争機運の高まる中で、国内世論が自国内で「ムスリム=親パキスタン勢力」と向かうことのないようにという配慮もあるのかもしれない。「クレーシー」という姓自体が亜大陸のムスリムの大半を構成するヒンドゥーからの改宗者ではなく、先祖がアラビアからの移住者である「ムスリムの中のムスリム」であることを示唆する。通常、ムスリムに姓はないのだが、特に家系に何か謂れのあるものがある場合はこの限りではない。

「クレーシー」とは、預言者モハンマドを生んだアラビアのクライシュ族のことで、クレーシー姓を名乗る人たちは、自身の出自がこのクライシュ族であるとしている。もちろんクレーシー姓を名乗る人たちはパキスタンにもいるのだが、インド陸軍からクライシュ族の血を引くとされる軍人がこのように登場することにより、国内に「ムスリムとの戦いではなく、世俗国家インドによる隣国のテロ組織への攻撃なのである」とアピールする意図があると思われる。

また外務事務次官のヴィクラム・ミスリについては、彼自身がカシミーリー・パンディトであることは偶然とはいえ、何か運命的な巡り合わせを感じる。

「パンディト」はブラーフマンを示唆するが、カシミーリーのヒンドゥーを総称してそう呼ぶ。これはカシミーリーヒンドゥーたちが歴史の中でムスリムへの改宗が進んだ結果、現在はブラーフマン以外のヒンドゥー教徒はほとんど残っておらず、「ヒンドゥー=ブラーフマン」という、インドの他地域には見られない特殊な状況になっているためだ。

Who is Col. Sophia Qureshi? The Brave Officer Who Led Operation Sindoor | Indian Army

「オペレーション・スィンドゥール」のイメージ

昨夜、唐突に「米国の仲介による停戦に印パ双方が合意」との報道が流れたが、その後双方から「相手方からの攻撃は続いている」との非難の応酬もあり、まだ先が見通せない部分があるのだが、何とかこのまま収束してもらいたい両国の軍事的緊張。

インドによるパキスタン攻撃作戦名「オペレーション・スィンドゥール」。その名を耳にした瞬間、脳裏に浮かんだのが今回の軍事行動のそもそもの理由、4/22にペヘルガームで発生したテロ事件におけるこの写真だ。4月30日に発売となったインディアトゥデイ(ヒンディー版)5月7日号の表紙としても使われて、あまりに有名になった画像なので、他で見かけた方も多いと思う。

INDIA TODAY (ヒンディー版)2025年5月7日号

遠目には楽園でリラックスするカップルの描写のようにも見えなくもないかもしれないが、そうではなくテロリストに夫を射殺されて崩れ落ちた妻。広い草原の中で起きた事件であったたため、この時点では背景で凶行を知らずに寛ぐ観光客たちの姿もある。

仰向けに倒れている男性は、インド海軍中尉のヴィナイ・ナルワール。女性はその妻のヒマーンシー。新婚旅行でカシミール訪問中であった。元々はスイスへの新婚旅行を計画していたが、ヴィザが下りず、カシミールに変更したのだとか。

ハリヤーナー州のカルナールで挙式したすぐ後、カシミールへ新婚旅行に出発。到着した翌日、このペヘルガームを訪問した際に、テロ事件に遭遇という不運。事件の翌日、中尉の遺体はカルナールに空輸され、荼毘に付されたとのこと。4/22のテロ事件で犠牲となった人々の中には、こうした新婚カップルが何組もいたとのこと。

結婚して、新婦が生まれて初めて付けるスィンドゥール。既婚女性が額の分け目に付ける赤い粉による印。まさに結婚したばかりの幸せいっぱいの新婦が不幸な寡婦となる非情なテロ。

スィンドゥール

普段であれば、勇壮な語が付けられるはずの軍事作戦名になぜ「スィンドゥール」なのか?といえば、まさにこの「インド人なら誰でも知ることになったこの画像(冒頭のINDIA TODAY表紙画像)」がイメージされたのだろう。是非はともかく、こうした宣伝効果についても目配りの効くところは現政権らしいところだ。

インド国外で、「スィンドゥール作戦」と聞いても、何もピンとくるところはないかと思うが、インドにおいては、まさにこの写真フィーチャーされた部分からの命名であることは誰もが承知のことなのだろう。

アウラングゼーブの墓

BJP、RSS(民族義勇団)、とともに「サング・パリワール」を構成するVHP(世界ヒンドゥー協会)及びBajrang Dal(ハヌマーンの軍隊)がアウランガーバード近くにあるクルダーバードのダルガーにあるムガルの第6代皇帝アウラングゼーブの墓を掘り起こして始末する、と運動を始めている。

318年も前に亡くなった支配者の墓を暴いて何になるのかと思うかもしれないが、インドにおいてこのような運動は、過去のムスリム支配の歴史は侵略者からインドが受けた屈辱でありインドの歴史ではないとする考え方が背景にある。攻撃対象となる墓や礼拝施設そのものがどう問題かということ(具体的な理由付けはなされているが)よりも、これらは象徴的な存在であると言える。

それにしても・・・である。

アウラングゼーブの墓自体が貴重な歴史遺産でもあるし、この墓があるのはクルダーバードのスーフィー聖者のダルガーの中だ。生前のアウラングゼーブ自身が、崇拝していた聖者の墓所近くに葬られたいと望んだためだ。ダルガー自体がムスリムの資産の中にある墓なのに、そのダルガーに縁もゆかりとない他人たちがそれを壊せと主張するというのは・・・。

そのダルガーとアウラングゼーブの墓のある場所はこのようなところだ。

クルダーバード(indo.to)

現在、このダルガーから半径5kmに入るには警察の検問を受けなくてはならず、スマホを含めた一切の荷物の持ち込みは禁じられたとのこと。

今後どのような展開を見せるのか、大いに気になるところだ。