アウラングゼーブの墓

BJP、RSS(民族義勇団)、とともに「サング・パリワール」を構成するVHP(世界ヒンドゥー協会)及びBajrang Dal(ハヌマーンの軍隊)がアウランガーバード近くにあるクルダーバードのダルガーにあるムガルの第6代皇帝アウラングゼーブの墓を掘り起こして始末する、と運動を始めている。

318年も前に亡くなった支配者の墓を暴いて何になるのかと思うかもしれないが、インドにおいてこのような運動は、過去のムスリム支配の歴史は侵略者からインドが受けた屈辱でありインドの歴史ではないとする考え方が背景にある。攻撃対象となる墓や礼拝施設そのものがどう問題かということ(具体的な理由付けはなされているが)よりも、これらは象徴的な存在であると言える。

それにしても・・・である。

アウラングゼーブの墓自体が貴重な歴史遺産でもあるし、この墓があるのはクルダーバードのスーフィー聖者のダルガーの中だ。生前のアウラングゼーブ自身が、崇拝していた聖者の墓所近くに葬られたいと望んだためだ。ダルガー自体がムスリムの資産の中にある墓なのに、そのダルガーに縁もゆかりとない他人たちがそれを壊せと主張するというのは・・・。

そのダルガーとアウラングゼーブの墓のある場所はこのようなところだ。

クルダーバード(indo.to)

現在、このダルガーから半径5kmに入るには警察の検問を受けなくてはならず、スマホを含めた一切の荷物の持ち込みは禁じられたとのこと。

今後どのような展開を見せるのか、大いに気になるところだ。

 

 

 

ムガル帝国史はインドの歴史ではないのか?

このニュースをインドのニュースチャンネルで見た。社会党のムスリムの州議会議員がアウラングゼーブについて個人的な見解を述べた結果、大変な騒ぎになっている。社会党所属の州議会議員、アブー・アーズミーは議員資格を停止され、各メディアから集中砲火を浴びるとともに、討論番組の議題にもなっている。

単にヒンドゥー至上主義の台頭のみならず、マラーター民族主義という土壌と相まってのこともある。マラーターの英雄のひとり、シヴァージーの息子のサンバージーは、ムガル帝国との戦いに敗れて、アウラングゼーブの命令により拷問を受けた末に処刑されている。

そうした歴史の中での経緯はそうと、近年のインドで「ずいぶん変わってしまった」と感じることがある。

少なくとも今世紀に入る前までは、「ムガル朝はインド最後の王朝で、アウラングゼーブはその第6代目の支配者」ということに異論を唱える人はいなかった。歴代の皇帝の誰かを讃えたところで、まるで「パキスタン建国の父、ムハンマド・アリー・ジンナーを賞賛した」かのように、非難されることはなかった。

「ムガルは英国の前に来た侵略者。ムガル朝はインドの恥辱」というのは、昔はごく一部の極端な思想を持つ人の「戯言」だったものだが、今ではそういう極端な思想が市民権を得てしまい、社会全般の「共通認識」になりつつあることだ。

「嘘も百回言えば真実となる」とは、ナチス・ドイツの宣伝大臣、ヨーゼフ・ゲッベルスの言葉だが、嘘を長年繰り返していると、耳を傾ける人たち、賛同する人たちがどんどん増えてきて、大きなムーヴメントになり、嘘の内容が既成事実のように認識されてしまう。

ご存知だろうか?第一次モーディー政権以降、インドの子供たちが学ぶ学校の歴史の教科書から「ムガル朝」に関する記述は削除されていることを。なぜなら「ムガル朝の歴史はインド自身の歴史ではなく、インドを蹂躙した侵略者の歴史である」ということになったからだ。華々しい経済発展とは裏腹に歴史をひっくり返す「革命」が進行中のインドだ。

そうした歴史認識と今の時代のインドに暮らすムスリムコミュニティに対する意識もまたセットになっている。

先の総選挙では国民会議派を中心とする世俗の野党連合が「よもや?」と思わせる巻き返しを果たした。トランプのアメリカにひけを取らないくらい偏向してしまったインド中央政界だが、今後は極端な思想ではない人たちの側への揺り戻しを期待したいものだ。

SP MLA Abu Azmi suspended from Maharashtra Assembly for remarks praising Aurangzeb (THE HINDU)

スルターン・ガリー

遺跡の宝庫デリーなので、無料で観ることが出来るものにもこんな素晴らしいところがある。13世紀に建てられたデリーの奴隷王朝のナスィールッディーン・メヘムード王子の墓。内部には地下室がしつらえてあり、3基のマザール(墳墓)に捧げられた花とお香の香りが絶えない。元ヒンドゥー寺院であったものを転用したとされる。ヴァサント・ヴィハールメトロ駅からオートで12分くらい。

 

 

ヴァンデー・バーラトの寝台車お披露目

鉄道大臣によりヴァンデー・バーラトの寝台車の発表がなされた。

全国各地で運行区間が追加されているヴァンデー・バーラト。インドが誇る国産の非常に快適な準高速列車だが、現時点までは全席チェアカーの昼行列車。今後夜行寝台のものも始まるのだからありがたい。

中距離の昼行列車としても、夜行の長距離列車としても、それぞれ従前からあるシャターブディー、ラージダーニーと存在意義は被るがいずれもヴァンデー・バーラトが上位の位置付けとなる。

シャターブディー・エクスプレス(Century Express)、ラージダーニー・エクスプレス(Capital Express)と、ニュートラルだがロマンチックな語感のある名前が好きだが、ヴァンデー・バーラトというこれとは毛色の違う翼賛的なネーミングは、いかにも右翼政権らしいなぁとも思う。国策として各地にサービスを展開して好評を得て、さらには寝台列車も導入してインド万歳の福音を届けようということだろうか。

それはともかく、ラージダーニーは文字通り、首都と各地の州都(国のラージダーニー、州のラージダーニー)を繋ぐ列車として全国各地で展開してきた。シャターブディーと合わせて中長期的には今後ますます増便されて運行区間も広がったヴァンデー・バーラトに置き換わるのだろうか。これらとは別にヴァンデー・メトロというサービスも今後展開していく予定。メガ級の大都市と周辺の街を高速で繋ぐというもの。

インド国鉄は、モーディー政権2期合計10年で大きく変わった。3期目の現在もその変化は休む間なく進行中だ。

Vande Bharat Sleeper Exclusive Sneak Peek: Indian Railways Unveils New Train Better Than Rajdhani! Check Top Photos, Features (THE TIMES OF INDIA)

パリ五輪女子レスリング決勝戦を前に計量で失格となったヴィネーシュ・フォーガートの国民会議派入り

パリ五輪の女子レスリング55kg級で金メダルを予想されつつも決勝戦前の計量で失格となったヴィネーシュ・フォーガート。失格後すぐに引退を表明していて、そんなに早まらなくてもと思ったが、政界に転身するようだ。

昨日のニュース番組で国民会議派への加入が話題になっており、「あっ!」と思った。
タイミング的には滑り込みという感じだが、彼女自身の地元であるハリヤーナー州の州議会選挙は今年10月!現地での知名度と先の五輪での活躍と失意。当選確実であるように思える。おそらくパリでの引退宣言直後から各政党からの猛烈なアタックがあったはず。

スポーツ選手の政界入りというと、政権与党に入ることが大半だが、彼女がBJPに行かなかったのは、2023年に表面化して抗議活動が展開された女子レスリング界におけるセクハラ問題とその後の動きが関係しているようだ。

問題は、BJP所属の国会議員で、インドレスリング協会の会長を務めていた人物によるもので、複数の女子レスリング選手が声を上げるとともに、男子選手たちもこれに協力。インドの他競技の選手たちもこれを支持する動きを見せるとともに、AAP(庶民党)をはじめとする野党もこれを支援した。

だがBJPはハラスメントを起こした本人を処分することなく現在に至っている。
ヴィネーシュ・フォーガート自身の会議派入りでの会見においても、セクハラ事件への言及はないものの、BJPへの批判を展開している。

When wrestlers were being dragged…: Congress’s Vinesh Phogat attacks BJP (India Today)