フライトまでの2泊はバンコクのナーナーに滞在した。ちょっと良いホテルに投宿。朝食バフェが付いているのだが、有数の繁華街にあるため、食べているのは男性客ばかりで、女性客はほとんどいない。その数少ない女性客は男性客の連れのようだが、どう見ても夫婦にも恋人同士にも見えないというケースがほとんど。隣のテーブルのふたりも、互いに言葉すらロクに通じないのであった。
そんな界隈にはインド人観光客の増加を反映してか、インド人専用の夜遊びスポットがある。「専用」というのは、店の前の客引きがインド人客にしか呼び込みをしないからだ。
このあたりでは大音響でアラビアのポップスも流れているため、おそらくアラビア人用のスポットもあるらしい。このあたりは商圏を同胞に定めているようで、ランダムに声をかけてくるわけではないようだ。
通りには、いわゆるストリートガールがずらりと並んでいて、その数と年齢層の幅広さと多国籍ぶりには驚く。おそらくタイ人に見える中にはラオス、カンボジア等々周辺諸国からも来ているのだろうし、アフリカのどこかから来たと思われる街娼の姿もある。
そんな中のひとり、黒い被り物をしたアラブ人女性は観光客ではないようで、同じところに立ってアラブ圏から来たと見える男性たちに声をかけては話し込んでいる。こちらも街娼らしい。
インド人ナイトスポットのあたりでは、けっこう高価そうなシャルワール・カミーズを着用した女性がインド人男性二人連れと何やら話し込んでいる。
インド雑学研究者としては、こうしたインド女性たちがどこからやってくるのか、どういうきっかけで渡泰したのか、なにかリクルートのルートがあるのか、どのような形態で活動しているのか、何年くらい続けているのか、どのくらいの人数規模があるのかなどと、社会学的な観点からの関心が頭を持ち上げる。
商談中のふたりの横で、スマホをいじりながら彼の次に話をしてみようと終わるのを待つ。女性はインドでは耳にしないアクセント。タイ生まれのインド系の人たちの訛りなので、インド系タイ人ではないかと思われた。
そうこうしているうちに、話がまとまってしまったようで彼女は男性二人とそこを後にしてしまい、ちょっとガッカリ。
道路反対側に東南アジア系ではない女性たちが数人いたので移動してみると、やはりそこにもインド人と思われる人がいた。やはりインド人に特化して活動しているらしく、欧米人や私のような日本人が近づいても顔すら向けることはなかったが、こちらから「Kya haal chaal hai ? (調子どうよ?)」と声をかけてみる。
一瞬かすかな戸惑いのような表情は見えたものの、こちらが彼女に関心を持っていることはわかったようだ。
ラージャスターン州から来たという30代前半と思われる女性。ここでは2年になるとのこと。見た感じは観光客としてバンコク訪問のインド人客に見えなくもない。先ほどの女性のようなタイ訛りはないので、本当にインドから来たのだろう。ヒンディー語は何かと役に立つ言葉である。
どこかの店の客引きをしているわけではなく、彼女自身がフリーランスで活動しているとのこと。昼間は他のどこかで仕事をしているわけではなく専業だと言う。(VISAはどうなるのか?)基本、夕方から毎日ここに立っているそうだ。
そんな話をしばらく聞いた後、「これからどうですか?1,000バーツだけど、部屋代は別途300バーツ払ってね。ここの路地のすぐ裏だけど遊びませんか?」とかなんとか。
この流れだと、インド人客であれば「料金融通利きますか?600バーツでどうでしょう?近くに泊まっているので、私の部屋でも大丈夫ですよ、ノープロブレム。さあ、行きましょう!チャロー!」と口走る人が大半ではないかと思う。
界隈では、数はけっして多くはないものの、インド人と思われる姿はたしかにチラホラと見られるため、インド雑学的見地から興味関心はそそられる。
しかし、こればかりはそうした当人たちのお客さんにならない限りは、本格的な調査は容易ではなさそうだし、深い話を聞きだそうとすれば、常連さんになる必要があるような気がする。