赤い格子

こちらはアレッピー・ダンバード・エクスプレス。AC車両も連結しているが、南インド地域を走る間は冷房を効かせて、北インドに入ると暖房を入れるのだろう。真夏みたいに暑いケーララ州から東京の冬みたいに寒いジャールカンド州へ向かうこの列車である。

この列車にはミティラー画風のかわいい絵をほどこした車両(この列車はビハール州のミティラー地方を経由しないが・・・)やパントリーカーも連結している。すぐに降りる私はセカンド・スリーパー車両に乗っている。窓に色ガラスが入っているAC車両ではよく見えない景色と感じることのできない風と匂いがうれしい。

窓左側の赤い格子は、2001年にグジャラート州で起きたゴードラー事件を受けて導入されたもの。事件では複数の車両に放火がなされるとともに、車両前後の出入口が武装した犯人たちに塞がれたため、鉄格子のはまった窓から人々は脱出することが出来ず、多数が亡くなった。その反省から車両の複数の窓に、内側から外すことのできる格子を導入した次第。

事件はアヨーディヤーへの巡礼帰りのヒンドゥーの人たちの集団を、グジャラート州現地のガーンチーというコミュニティに属するムスリムたちが襲撃したとされるもの。これをきっかけにグジャラート州ほぼ全域を巻きこむ未曾有の規模のアンチムスリムの大暴動が発生した。

当時のグジャラート州は、同州のチーフミニスターとして第1期目をスタートして間もなかったナレーンドラ・モーディー政権下であった。

レザベーション・チャート

インドの鉄道駅での19世紀的な眺め。

Reservation Chart。今はウェイティングリストやRAC(Reservation against cancelltion)もネットでPNRを入れればステイタスがわかるのに、まだこうしたものが駅や客車の扉に貼りだされる。

インドの鉄道草創期から発車前に張り出されるもので、英国でもおそらく戦後しばらくまではこのようにしていたのではなかろうか。そしてインドではいつまで続けるのだろうか。

カヤンクラム駅へ

 

午前5時起床。準備をして6時過ぎに宿を出る。まだ外は暗いが少し明るくなりつつある。駅まで5分程度だが宿を出てからの暗い坂道で野犬がいなかったのは良かった。
駅でパンとチャーイで軽く食事。州都の駅であり、ここから各地への長距離列車も発着するため、なかなか立派な感じのトリバンドラム・セントラル駅。

トリバンドラム・セントラル駅
駅構内の寺院

始発であるためすでに列車はホームに来ていた。とりあえず乗り込んでしばらく日記を書く。定刻の6:45に出発。Sabari Express乗車。始発なので空いている。スィカンダラーバード行きだが私はずっと手前でケーララ州内のカヤンクラムで下車する。短い時間の昼移動であればSLクラスが良い。窓の外がよく見えること、風を浴びて駅や沿線の匂いが感じられるからだ。

グーグルマップであらかじめ確認してから乗車したが、この地域では鉄道から見えるバックウォーターの眺めも多い。とても美しい眺めだ。どのあたりでバックウォーターのどんな眺めがあるのか予想できて便利。

グーグル・マップでバックウォーターの景色が予想できる。
バックウォーターの眺め

下車駅のカヤンクラムに到着。田舎駅ながらもエスカレーターがあり、しかもちゃんと動いていた。

鉄道駅の別れ

インド列車はゆっくり、ゆっくりと動き出す。

それまでプラットフォームで食べ物を買ったり、チャーイを啜ったりしていた人たちは、ゆったりと車両のほうへ向かい、常に開け放たれているドアから悠々と乗り込んでいく。

見送りに駅まで来た人が、車内にいる恋人や家族と会話を続けながら、長い長いホームをゆっくり歩いているが、やがて人の歩みよりも車両の速度が上がると、本当の別れとなる。

インドの鉄道駅でのサヨナラには長い余韻と大きな余白がある。映画でもそうした最中の心の中の機敏がしばしば濃厚に描き出されていく。インドの鉄道駅では、日々そんな想いがあちこちで交錯しているのだろう。

これがバススタンドではそのような具合にはいかないわけで、鉄道駅というものは旅情に溢れている。