地名変更と国名変更

来年5月に総選挙を迎えるインドでは、BJPが再び地名変更の動きを見せている。UP州のLUCKNOW(ラクナウ)をLAKHANPUR(ラカンプル)またはLAKSHMANPUR(ラクシュマンプル)にという案が浮上。いずれにしても取って付けたような名称ではなく、それなりにきちんとその土地に由緒あるものであるとはいえ、長らく「LUCKNOW」として知られてきた州都、旧アワド王国の都の名前をそのような形に変更してしまうというのは、ヒンドゥー至上主義右派によるイスラーム文化やイスラーム支配の歴史のあからさまな否定でもある。

Rename Lucknow as Lakshmanpur or Lakhanpur’: BJP MP urges Amit Shah(INDIA TV)

独立以来、インド各地で地名等の変更が行われてきたが、その目的は主に以下のようなものであった。

  1. 植民地時代式の綴りを現地の発音に即したものに改める。 (CAWNPORE→KANPUR、JEYPORE→JAIPUR、JUBBULPORE→JABALPUR等)2.
  2. 英語名称を現地語名称に揃える。  (BOMBAY→MUMBAI、CALCUTTA→KOLKATA、MADRAS→CHENNAI等)

同様に、各地のストリート名などが、植民地時代の行政官等に因んだ名前からインドの偉人や独立の志士などの名前に変更されている。インドに限らず植民地支配から脱した国々の多くでこのような名称変更は実施されていることはご存知のとおり。

しかしBJPが政権を握るようになってからは、それ以前は見られなかった新たな形での名称変更が続いている。

3.ムスリムの支配や影響を色濃く残す地名を「ヒンドゥー化」する。(ALLAHABAD→PRAYAGRAJ、OSMANABAD→DARASHIV、HOSHANGABAD→NARMADAPURAM等)

この③のタイプの改名については、コミュナルな背景の意思が働いているため①及び②とは異なり、注意が必要となる。

先述のとおり、2024年5月に総選挙が実施されることに先立ち、今後もこのような地名変更の提案が続くものと予想される。州都ラクナウのような伝統ある地名が③の形で改名されてしまうようなことが本当に起きるとは信じ難いものがあるが、グジャラートのAHMEDABAD(アーメダバード)についても、KARNAWATI(カルナワティ)に変更しようという動きもある。ひょっとすると首都DELHI(デリー)についても、INDRAPRASTHA(インドラプラスタ)に改称される未来が来るのではないかと冗談半分に言われているが、数年後にそういう日がやってきたとしても、あまり驚くに値しないのかもしれない。

頻繁に地名変更を提案したり、それを実施したりしているBJP政権だが、報道を注意深く見ていると、そのような方向に本格的に動き出したことが大きく報じられる前に、国会議員なり地方議会議員なりの「個人的な意見」という形で、しばしば観測気球のようなものが上がっていることに気が付く。

以下の記事は昨年末の報道だが、BJPの議員により「インドの国名を改めよう」という意見。

BJP MP who wants to rename India: ‘PM Modi trying to restore nation’s pride … I thought my question in Parliament will expedite his work’ (The Indian EXPRESS)

「INDIA」を「BHARAT(バーラト=ヒンドゥーの地)」あるいは「BHARATVARSH(バーラトワルシュ=バーラトの大地)」に変更しよういうものだ。

これについては、例えば英語で「JAPAN」と呼ばれてきたのを「NIHON」あるいは「NIPPON」に変えようというようなもの。外からの呼称を内での呼び方に揃えようというもの違和感は薄い。(インド国外でBHARATという名称をご存知ない方も少なくないかと思うので、もしかすると耳慣れない奇妙な呼称に感じるかもしれないが・・・。)

いっぽうでインド、INDIAの別称として「HINDUSTAN(ヒンドゥスターン)」もある。企業名でも「HINDUSTAN MOTORS」「HINDUSTAN PETROLEUM」等々、「HINDUSTAN」を冠したものは多く、日常会話でも自国のことを「ヒンドゥスターン」と普通に呼ぶので、なぜ「HINDUSTAN」にしないのか?と思う方もあるかもしれないが、BJPのようなサフラン右翼(サフラン色はヒンドゥーの神聖な色)にとって、やはり「BHARAT」あるいは「BHARATVARSH」こそが、あるべき母国の名称ということになる。

なぜならば「HINDUSTAN」という名前は、元々はペルシャ(及びペルシャ語圏)の人々から見たインドに対する呼称であって、インドの人々が自国をそう呼ぶようになったのは、ペルシャ語圏から入ってきたその名称が定着したからに他ならないからということが背景にある。

専用バスレーン

アーメダバードのバスはやはり先進的だ。大通りでは中央がバス専用レーンとなっており、バス停は道路脇ではなく道路中央にあり、ちょうど日本の名古屋みたいな感じだ。

もちろん市内は広いので、どこもかしこもというわけではないが、渋滞時にも公共交通機関としての市バスはスムースに運行できるようにしてある。インドの他の都市にもこのような措置が広がると良いと思う。

こちら側の上り車線から見て右手の柵の向こうがバス専用レーン。そのまた先が下り車線
バス専用レーン上下線の狭間にある駅のような形のバス停
バス専用レーン

バス専用レーンを疾走する不届者もいるが、渋滞する時間帯も基本的にバスはスムースに走行できる。

健康なナショナリズム

独立記念日、共和国記念日などが近くなると、街なかでティランガー(三色旗=インド国旗)がたくさん売られるようになる。これを装着して走り回るオートやクルマもある。

同じ国旗でも日の丸については閉塞感のような息苦しさをおぼえる一方、ティランガーについてはとても好ましい印象を受ける。

強制されずとも、特有の同調圧力で同じ方向に走る国民性のもとでの国旗掲揚、国歌斉唱は、滅私奉公的な悲壮感というか、異論を許さない「大和民族のナショナリズム」という無言の圧迫感がある。

インドのように号令をかけても、みんな勝手な方向ばかり向いて各々テキトーなおしゃべりに興じているような国におけるこれは、ごく緩~い統一感というか、なんとなくの一体感というか、健康な範囲でのナショナリズムを醸成するものであるからだ。

多様性の中の統一。もともとインドの歴史の中で、「インドという国」の概念のもとに統一を果たしたのはイギリスによる植民地支配であった。印パ分離という不幸を経ることにはなったものの、そのイギリスが創り上げた「インド」を引き継いだのが独立以降のインド共和国であった。

これほどの文化的、民族的な広がりがありながらも決して分裂することなく、着実に歴史を刻んでいるのは、広い世界でもこのインドくらいのものだろう。

やや大げさかもしれないが、東京からジャカルタ、バンコクからヤンゴンを経由してラサ、そしてテヘランからイスタンブルあたりまでをひとつの国にまとめてしまったような広がりと重層感があるのが亜大陸だ。

それをひとつの国としてほんわりとまとめ上げるのがティランガー。それぞれの民族性に偏向することのない文字通りの「共和国」のナショナリズムの象徴だと私は思う。そう、「共和国」と称する国は多いが、インドのように名実ともに「共和国」の名にふさわしい国は決して多くない。

グジャラート州議会及びヒマーチャル・プラデーシュ州議会選挙結果判明

この時期のインドではグジャラート州とヒマーチャル・プラデーシュで、それぞれ州議会選挙が進行中であったが、本日開票で結果がほぼ明らかになった。

1995年から27年間に渡り、州政権を担ってきたBJPが182議席中158議席を確保する勢いで圧勝する見込み。BJP政権27年間のうち、2001年10月から2014年5月までの12年半はモーディー政権。2014年5月に同州チーフミニスター辞任、インド共和国首相に就任した。

パンジャーブ州に続き、グジャラート州でも旋風を起こすことが期待された庶民党(AAP)だが、躍進を見せることはなく、国民会議派に行くべき票が庶民党に流れたのではないかと思われるが、この庶民党が確保した5議席は、どの選挙区のものであるのかについても興味のあるところだ。

ヒマーチャル・プラデーシュではこれとは逆の展開となっており、どうやら国民会議派が過半数を確保する方向。1990年代以降、同州ではBJP → 国民会議派 → BJP → 国民会議派・・・と、両党が交互に政権を担う形となっており、現政権であるBJPが「順番どおりに」国民会議派に与党の座を明け渡すことになりそうだ。

面白いのは、インドが大国であるためもあるのだが、「上げ潮の勢いのBJP」「退潮著しい国民会議派」といっても、州によって政治の潮流が異なり、このような結果が出ることがごく当たり前であることだ。

また、UTとなったカシミール、西ベンガル州、南インドの各州のように、BJPの存在感が非常に薄く、地域政党が主役である州が多いこと、元々はやはりBJPの浸透度合いが低く、国民会議派と地域政党が強かった北東州で、近年はアッサムやアルナーチャル・プラデーシュでBJPが政権を取るといった大きな変化が生じるなど、非常にダイナミックな動きが見られることもたいへん興味深い。

Himachal Pradesh Assembly Election Result 2022 Live Updates: Congress set to oust BJP in HP; winning MLAs to move to Chandigarh

グジャラート州議会選とAIMIMの今後

グジャラート州議会選が面白いことになっている。ムスリム政党AIMIMはハイデラーバードを本拠地とする地方政党ながらも、発言力と強い指導力を持つ党首のアードゥッディーン・オウェースィーのもとで、このところ全国政党化しつつあるのだが、州のムスリム人口11%以上のグジャラート州議会選にて、議席数182のところ30議席で候補者を出馬させる。

これまで27年間、ずっとBJP政権が続いてきた同州、モーディー首相の故郷でもあるわけだが、今回も圧勝の観測のある中、反BJP勢力として初めてこの州で覇権を狙う庶民党がどこまで票を伸ばせるのか、そして退潮の会議派はどこまで持ちこたえることができるのかが焦点であるわけだが、両者の支持層をいずれも削り取る形でAIMIMが入ってきた。

AIMAIMが、俗に「BJPのBチーム」と揶揄されるのは、こうした選挙戦にAIMIMが割って入ることにより、反BJP票の一定部分を同党が刈り取ってしまうため、結果としてBJPに利することになるからだ。つまりAIMIMは反BJP陣営ながらも、BJPから見ると「敵の敵は味方」的な結果を生んでいる。今回もそういうことになるかもしれない。

あともうひとつ面白い点としては、インドでこれまでムスリム自身が存在感のある政党を持たず(ムスリム政党がなかったわけではない)、ムスリムの支持する政党は国民会議派あるいは左派政党であった中、ようやく有力なムスリムによるムスリムの政党が台頭してきたことだ。

ムスリムの政党と言ってもAIMIMは宗教政党ではない。ムスリムの宗教団体が母体ではなく、世俗のムスリムの人たちによる政党だ。党首のアサードゥッディーン・オウェースィーは法曹家という点も昔ながらの保守政党らしいところだ。

職業柄、たいへん弁の立つ人で、この人の演説もなかなか楽しい。知的で含蓄のある受け答えからメディアウケもなかなかで、報道番組への出演も少なくないが、複数の政治家、識者、ジャーナリスト等が出演する討論会でのやりとりはあまりうまくないようで、案外打たれ弱い面を垣間見ることもあるが、この人と彼の政党AIMIMが今後さらに勢力を拡大していき、国政の場でも一定の影響力を持つようになることは間違いないだろう。

Does AIMIM stand a chance in Gujarat? (DECCAN HERALD)