スパイスジャーナル

スパイスジャーナルというスパイス専門のバイリンガル季刊誌がある。A5判で30ページほどの冊子だが、現在出ているのは第3号で、次号は2011年1月下旬に発行予定であるとのことだ。価格は300円。 

ページをめくってみると、インドでよく使われているスパイス類についての解説、料理レシピ、インドからのレポート等々が並んでいる。 

『あれ?』と目に留まったのは、豚の角煮の写真である。Kakuni Masala (Okinawa Style)と書かれている。沖縄スタイルと書かれているとおり、ラフテーのことであるようだ。だが材料の項目では調味料として、醤油や泡盛に加えてクミン、カルダモン等々のスパイス類が挙げられている。 いつもマメに手料理を作っている私は、早速ブタのバラ肉を手に入れて調理にとりかかってみることにした。 

レシピ通りに作ってみたKakuni Masalaは、家族にもなかなか評判。醤油が入っていること、かなり長く煮込むことなどから、スパイスの新鮮な香りはかなり失われてしまうものの、そのいっぽうで味とコクが格段に深まることがわかった。 

ふと思い出したのが、数年前にメガーラヤ州都のシローンで食べた大きなブツ切りの豚の角煮カレー(のようなもの)だ。地元のカーシー族は豚肉をよく食するようだ。その店は、華人が経営する中華料理屋であった。モンゴロイド系のカーシー族が多い中で目立たないが、華人はけっこう在住している。その店のオリジナル料理なのかどうかはよく知らないが、なかなか美味で、豚肉を使っての中華・インドのハイブリッド料理もなかなかイケルことを知ったのはそのときだ。

単にスパイスとインド料理の紹介に留まらず、日本の食環境の中での新たな味の提案というのはあまり見かけない気がする。次号で紹介される料理は何かな?と期待しているところである。

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日本式の食事処 2

そんな『和食圏外』のインドで、しかも都市圏から遠く離れていながらも健闘している和食レストランがある。ダラムサラのマクロードガンジにあるルンタ・レストランだ。 ルンタ・ハウスという建物の中にある。 

NGOルンタ・プロジェクトが、現地のチベット難民たちによるNGO組織であるグチュムスの会とともに、難民に対する職業訓練施設を兼ねて運営しているものだ。ルンタ・レストランは彼らの活動のための収益部門のひとつである。 

そんな訳で通常のレストランとは性格が異なるのだが、ここはずいぶん繁盛している。日本人旅行者その他の滞在者による利用とともに、ロンリープラネットにも紹介されているため西洋人客が非常に多いことも特徴だ。またインド人観光客の姿も散見される。 

パッと見た感じでは、店内に日本式食堂という雰囲気はあまりないが、奥の方には座敷風になっているコーナーがあってくつろげる。 マクロードガンジに多いツーリスト向けのレストランやカフェの中のひとつだが、店内が広くてキビキビしたスタッフの応対が良いことに加えて、普通ならば日本国外ではかなり高い値段の付く日本式の料理を、バックパッカー向けの食堂の価格で提供していることが人気の理由だろう。 

お好み焼きが50Rs, かき揚げ丼は60Rs, 日替わりの定食(巻き寿司の日もあり!)は120Rsといった具合だ。日本国外で『和食』を謳うレストランの中で格段に安い。他にもうどんや日本風のカレーライスもあり、どれも男性客にとっても充分な分量が出てくる。パンやデザートといった洋風のアイテムもある。ピュア・ヴェジのアイテムもあるので、菜食主義のお客も安心だ。 味のほうは、質実剛健というか、男の手料理というか、ちょっとごっつい感じはするものの、私たちが普通に作って食べている家庭料理といった印象だ。 

日本人観光客や滞在者が多いとはいえ、『和食圏外』の国で、しかも都市圏から遠いこと、また値段の面でも格安であることから、NGOの収益部門であることも併せて、通常の和食レストランとは異なる型破りな存在である。 運営母体であるNGOの活動はもちろんのこと、ルンタ・レストランの今後ますますの繁盛を期待したい。

 <完>

日本式の食事処 1

海外にある日本式の食堂、和食レストランといえば、主に日本人在住者や訪問客が多いところ、あるいは現地で日本食に関心の高いエリアという、言うまでもなく大きなマーケットが成立する場所に出店している。それらは往々にして大都市である。 

裾野の広がりがグローバルな中華料理やファストフードの類と異なり、まだまだ日本の『民族食』的な色彩が強いため。縁もゆかりもないところにいきなり出店というケースはあまりない。『日本ブランド』は、世界中どこに行っても評判の高いクルマや家電製品などとは違い、食の分野ではマイノリティだ。現地にそれなりの『和食文化』的なインフラが存在していることが不可欠だ。 

多くは個人事業主による出店で、日本人がオーナーであることが多いが、同様にかつて日本に留学した経験があったり、働いた経験があったりするなど、日本とのゆかりの深い現地の人が開業した店も数多い。また日本人と現地の人による共同経営(日本人とその配偶者である地元の人という組み合わせを含む)もよくみかけるところだ。 

特に日本企業が多く進出しているところでは、接待などで使われるような高級店も少なくないが、日系企業オフィス近隣でランチや仕事帰りに一杯引っかけるのに利用してもらうような店、単身赴任者を主に相手にしているような大衆食堂と居酒屋を兼ねたような店も多い。 

大衆食堂風とはいえ、途上国においては現地の気楽なお店に比べるとずいぶん高いため安食堂とはいえない。主な顧客層といえばたいていは日本人客ということになる。 

これらとは別に、近年は日本の外食チェーンの海外進出も盛んになってきており、和食では大戸屋がタイ、台湾、香港、インドネシア、シンガポールにいくつも出店している。居酒屋の和民はアジアの複数の国々で展開している。 

また『和食』と表現していいのかどうかわからないが、日本発の食としてのラーメンを味千ラーメンが中国、韓国、東南アジア、北米、オセアニアに進出しているし、餃子の王将が海外展開するのは、本場中国の大連だ。 

日本式カレーのCoCo壱番屋もアジア5か国とハワイに店を出している。海外でも日本国内と同じルーを使用しているという。なんと6年後あたりを目途にインドへの進出を画策しているようだ。日本のカレーがインド上陸となれば、日本国内での話題作りにはなるかもしれないが、これについてはレシピそのものを根本から見直さなくてはならないだろう。

和食ないしは日本式の食事関連以外にも、イタリアンのサイゼリヤ、ステーキが中心のペッパーランチも積極的に海外に進出している。 

こうした日系の外食チェーンの主戦場は東アジアと東南アジアの大都市だ。各国・地域の消費文化の中心地でもある。もともと味覚、食材、調理法などで共通するものが少なくなく、親しみやすいこと、サブカルチャーやファッションその他の面でも日本の影響が濃く見られることなどからも、和食ならびに日本食以外の分野についても『日本ブランド』がそれなりの浸透力を持つことができる。

そのため地場資本の外食チェーンでも『和食』アイテムを取り上げるところが増えてきており、現地レベルの庶民的な価格で日本食らしきものを食べることができるようにもなりつつある。 

ただし食事の分野において日本のネームヴァリューがまったく通じないところも少なくない。欧米においても都市在住者以外では日本食といっても『中華料理と違うのかい?』とまったくイメージさえ沸かない人は少なくない。また同じ『アジア』の中でもヒマラヤの西側の国々となると一気に『和食圏外』となる。とりわけ中東あたりまで来ると、刺身や寿司の類を『奇食』ととらえる人さえ少なくない。 

インドやスリランカあたりで大都市には和食レストランがいくつかあるが、いかんせん『圏外』であるため、東アジアや東南アジアでの和食に比べると、食材の供給の問題もあるがコストバリュー、ヴァリエーションともに著しく低くなってしまうのは致しかたない。 

<続く>

ああドリアン

ミャンマー産ドリアン
フルーツというよりも熟練した生菓子の職人が丹精込めて鶏卵に生クリームを加えて、しっとりとした薄い外皮で包んで仕上げたかのよう。ドリアンという果物はなぜこれほどまでに人工的かつ動物性の味わいなのか?
口の中に含むと広がるキャラメルソースのような香り。濃厚でしっとりとした陶酔感のある甘み。これほど上質で高級感のある食感の果物を他に知らない。
だが当たりとハズレで旨さの差異も大きい。充分熟しているかどうかというだけでなく、たとえ完熟であってもちょっと水っぽかったり、逆にコテコテなのに香りも甘みもいまひとつで、レシチンを舐めているような期待外れの個体もある。
それだけにいいモノに当たったときの幸福感といったらない。
マレーシア産ドリアン
ヤンゴンの街角で見かけたドリアン売り。種類の異なる地元ミャンマー産、マレーシア産、タイ産を並べていた。価格はミャンマー産から順に高くなっていくが、その分重量も同様に大きくなっていく。
ちょっと立ち止まって店先で品定めする人たち。持ち帰って家族と楽しむ様子が目に浮かぶようだ。ゴツゴツとした姿のドリアンの数だけ、幸せな団欒のひとときがあるようでちょっと微笑ましい。
南インドにも野生のドリアンが自生しているところはあるようだが、普通食用にはされないようで、人知れず朽ちていくのは残念。何かちょっとしたきっかけがあればブレークするのではないかと想像している。
果肉のちょっとした『ガス臭さ』では、インドの街角で普遍的に見かけるジャックフルーツにも通じるところがあるだけに、彼らもドリアンを愛でる素養は充分持ち合わせていると思うのだが。
タイ産ドリアン

自宅でティッカー、広場でケバーブ

ティッカー、シーシュケバーブ、ナーンその他、タンドゥーリー料理は好きでも、たいていの人はそれを自分で調理したことはなく、レストランで注文したものを食べているだけだろう。もちろん私もそうである。オーブンの一種であるとはいえ、明らかに構造が違うため家庭用オーブンでは同じものを作ることはできない。
ゆえに、当然のごとく、それを売りにする店で食べるものと思っていた。だが意外なところに『ポータブル・タンドゥール』を製造しているメーカーがあった。
ポータブルタンドール (山文製陶)
日本国内にあるインド料理屋の多くで日本製のタンドゥールが使われているが、まさか手軽に移動できるタイプのものがあるとは知らなかった。上記リンク先で表示されるものの中で、『20リットルペール缶サイズ』というのがそれである。
もっとも『ポータブル』といったところで、重量は15キロあるので、そうそう気楽に持ち運びできるわけではない。『両手が抱えてクルマに乗せることができる』といった程度に考えたほうがいいだろう。価格は3万円と手ごろだ。
他に50リットル、100リットル、120リットル、200リットルと、いろいろなサイズがある。屋外イベントで用いることを想定しているようだ。
本格的なタンドゥールを製造しており、日本国内のインド料理屋さんが使う和製タンドゥールの中に、同社の製品を見かけることもあるのだろう。
インド製の小型タンドゥールを日本で輸入販売している業者もある。重量は倍以上になるが、素人の感覚ではあるが、窯としてはこのくらいの重さがあったほうがいいのかもしれない。
ポータブル・タンドゥール窯(有限会社エイシアン・クロス)
製造元はGolden Tandoorsという本格的なタンドゥール製造販売メーカーなので、大きなものから小さなものまでいろいろ取り揃えている。
自宅でタンドゥールを使って料理するかどうかはともかく、仲間たちとキャンプやバーベキューに出かけるときなど、持参すると喜ばれるのではないかと思う。