インドの食事

2009年に出た『インドカレー紀行』という本がある。

南インド史研究の第一人者の辛島昇氏が著した書籍である。タイトルからわかるとおり、一般向けに書かれたものだが、インド各地の料理と文化的・歴史的背景、古来インド固有のものではなかった食材の伝播と定着に関する過程等も含めてわかりやすく解説してある。食事から見たインド文化誌といった具合だ。本文中にいくつも散りばめられているレシピもぜひ試してみたくなる。

カラー版 インドカレー紀行

カラー版 インド・カレー紀行 (岩波ジュニア新書)

辛島昇著

大村次郷写真

出版社: 岩波書店

ISBN : 4005006299

2006年に日本語訳が発行された『インドカレー伝』(リジー・コリンガム著/東郷えりか訳)と重なる部分もあるのだが、特に代表的な料理を論じている関係上、自然とそうなってしまうのだろう。

『インドカレー紀行』によると、インド料理の本が数多く出版されるようになったのはここ40年くらいのことであるという。早い時期から全国的に普及していた北インドの料理はさておき、その他はごく当たり前の日常食として地方ごとの家庭で伝えられてきたものであり、特定の地域の料理がそれと関係のない地域で食されるということがあまりなかったためらしい。インド国内における一種の『グローバル化』現象のひとつということになるのだろう。おそらく娯楽としての外食産業の普及という点もこれに寄与しているのではなかろうか。

ともかく、人々の間で地元以外の料理についての関心が高まり、ローカルなレシピであったものが『インドの料理』というナショナルレベルに持ち上がることとなり、そこから今でいうところの『インド料理』という捉え方が出てきたという指摘には思わず頷いてしまう。

歴史の中で、各地で生じた様々な食文化の混淆、新たな食材と料理法の導入の結果、生み出されてきたのがインド料理の豊かなレパートリーである。その末裔に当たるのがイギリス経由で入ってきて日本で定着した『カレーライス』ということになる。

かつてなく各地の味を楽しむことができるようになっており、加えてレディーメイドの調合スパイスや食材、レトルト食品なども広く流通してきている昨今、とりわけファストフード等の普及により、特に若年層の好みの味覚は確実に変わりつつあるだろう。そうした中で、新たな味覚が創造されつつあるのもしれないが、同時に各家庭あるいは地域ごとの味のバラエティが少しずつ収斂されて『標準化』されつつあるのではないかとも思われる。

この『インドカレー紀行』について、今後続編の計画があるのかどうかは知らないが、個人的には『インド菓子紀行』が出てくれると大変嬉しい。ラスグッラーとゴアのベビンカは取り上げられていたが、本来の食事同様にバラエティ豊かで味わい深く、それ以上にカラフルなインドの甘味の世界だ。『インド菓子文化』をカラー画像入りでを包括的に取り上げた本が出れば『本邦初』の快挙となることだろう。

「インドの食事」への3件のフィードバック

  1. インドのお菓子ですが、マナリの裏道理で実際に作っているところ見ました。大きな金属のボールに材料を入れて、手で丸めていました。片手で1個づつ、能率よくやるのに両手でね。つまり「左手」もしっかり使っていました。これを見てから食べるのちょっと考えちゃいます。その後、熱を加えるわけでなし。

  2. まあ、お菓子の店もピンキリですから。ちょっと高級なハズのお店でも舞台裏はちょっとなぁ~?ということも、ままあるようですが。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


上の計算式の答えを入力してください