アメリカはすごい

「AAJTAK」の中継映像から

インドのニュース番組AAJTAKのスタジオが米国国務省にいる同省のスポークスマンと繋がっている。アナウンサーやオンラインで参加している退役した軍幹部などの識者と意見交換。ジェード・タラールという名前の米国国務省の人はインド系なのだろうけど、ヒンディー語メディアに対してごく当たり前にヒンディーでの質疑応答や議論に参加できる人材がいるというのは、いかにもアメリカらしい。中国やインドその他の国から優れた人材をどんどん呼び寄せて国の発展に貢献してもらうという、そういう機会を移民にどんどん提供するという磁力と魅力に満ちているがゆえのことなのだろう。「やはりすごいなアメリカ!」と思わざるを得ない。

AAJTAKの本気度と大国の論理

「AAJTAK」の中継映像から

このところウクライナからの現地リポートで出てくる女性がいる。寒い気候の中で帽子をすっぽり被って厚着なので、「若い女性リポーターが修行に出されているのかな?」と、しばらく気が付かなかったが、同ニュース番組のエース級のアンカーのひとり、シウェター・スィンであったので、これはびっくり。アナウンサー歴26年のベテランである。ときどき選挙リポートなどで現地から伝える姿は見かけるが、シウェター・スィンともあろう人が、戦地でのリポートとは。ニュース番組AAJTAKの本気度が伝わってくるようだ。

開戦以来、同チャンネルのウクライナ報道を見ていて気が付いたのだが、戦争という嗜眠に対する非人道的な行為に対して、プーチンの横暴に対して、厳しく糾弾しているのは言うまでもないが、ゼレンスキー大統領やウクライナ政府については、必ずしも両手を挙げて同情的というわけでもないらしい。戦火を招いた当事者の一角として捉えている。

スタジオに呼ばれたり、リモートでコメントするインドの国際政治評論家、軍事評論家たちともなると、NATOの東方拡大により西欧とロシアのバランスが崩れているとか、西欧による一点張りの批判には必ずしも同意できないとかいう発言も少なくない。インドは中国と違って、こうしたメディアは政府のコントロール下にあるわけではないのだが、国情が違えばこういう見立ても出てくるものなのか。ロシアはソヴィエト連邦時代から続く長年の友好国であり、「ロシアアレルギー」とは無縁で、かつて「同志」であった旧東ブロックへの警戒感もまったく無いという、インドならではの事情もあるが、それよりも大きな要因がひとつあるように私は思う。

それは、大国ロシアの立ち位置と南アジアにおける域内大国インドのそれは、イコールではないものの、似通った部分が多いことだ。たとえばカシミールの係争問題。国際的な問題として提起したいパキスタンに対して、インドはあくまでも二国間問題であるという態度を崩さない。パキスタンやバングラデシュとの間の水利問題も同様。

そして何年か前のパキスタン領内への空爆、そこにある越境テロ組織の拠点を叩いたとのことで、国際的には強い批判を招いてもおかしくない隣国への空爆であったが、ここでも他国による口出しを許さなかった。このときはちょうどインドの総選挙戦の始まる直前。これでBJPは大いに株を上げた。パキスタン側では「空爆の事実はない」と応じたが、やはり政権による子飼いのテロ組織があること、その基地があることを認めることになるので、「空爆された」とは、なかなか言えない。

また、もうひとつの隣国ネパールへの、ときに横暴とも言えるほどの扱いについても、やはり二国間問題なのだ。こうした域内秩序について、同域内で圧倒的な存在感と力量を示すインドは他者による介入を是としないが、これと同様の理解が今回のウクライナ危機に対してもあるのかもしれない。オセアニア大陸北部におけるロシアの存在感を南アジアにおけるインドのそれと重ねてみると、大国の論理という共通点があるように思われる。

インディア・トゥデイ(ヒンディー語版3月16日号)の社説記事にインドの元駐露大使のコメントが引用されていた。「もしネパールが中国と軍事同盟を結び、インドに向けたミサイルを配備するというような動きを見せたら、我々はこれを看過できるだろうか?」というもの。やはりこの点で、インドがロシアに一定の理解を示しているのは、我が身に置き換えてよく似た危機感(歴史的・文化的繋がりが深い隣国で友邦ネパールだが、近年中国にどんどん接近している)を共有しているという認識があるからという側面が大きいだろう。

もちろんインドが自らの域内で、ロシアのような挙に出ることは、未来永劫に渡って決してありえないと思うのだが。

India Today系列のニュース番組で知るウクライナ情勢

AAJTAK (ヒンディー語放送)の中継映像から

ウクライナ危機に関するインドのニュース雑誌「INDIA TODAY」系のニュース専門チャンネルAAJTAKは情報量もあるし速報は迅速だし分析も深い。

ご存知のとおりインド政府は友好国ロシアへの遠慮から国連の非難決議等は棄権するなど、自国民救出に奔走する一方で、ロシア・ウクライナの二国間の問題であるとして距離を置いているが、それとは裏腹に、民間のニュース番組はロシアへ厳しい批判を展開している。

同時にウクライナを率いるゼレンスキーへも多少の疑問を呈するとともに、NATOの東方拡大へのロシアの懸念にも、これまたいくばくかの理解を示す部分もあるというスタンスのようだ。置かれている立場も旧ソ連時代からの深い仲でもあることから、ロシアに対する眼差しに異なる部分があるのは、まあ当然かもしれない。

ロシアへの態度は、もしかしたら世代によっても大きく異なるのかもしれない。ニュースキャスターが原発施設への攻撃を厳しい非難を含めて伝え、原子力関係の識者が「原子炉が無傷であったとしても安心できはしない。電源喪失という事態になれば冷却できない状態で炉が加熱して爆発という事態になる。欧州最大級の原発がそんなことになったら、どうなるのか、想像することすら恐ろしい。なぜこんな愚かなことをするのか」と批判する一方で、年配の軍事評論家はこんなことを口にする。「ソ連時代に建築された発電所なので、ロシアは施設の配置や構造をすべて判っているので問題はない。発電所を占拠すること、原発でさえ躊躇せず襲うということで心理的な圧力をかけているのだ。情報戦の一環でもある」といった具合。

インドのある程度以上の年代の人たちの間では、今もどこかに旧ソ連やロシアへの信頼感、憧憬のようなものがまだあるとしても不思議ではない。80年代以前、旧ソ連は社会主義の同志で、ポーランドやチェコのように旧ソ連に圧迫された経験もないため、ネガティブな感情を抱きにくいということもある。おまけに国境を接していないので領土問題もなく、旧ソ連時代には様々なレベル・分野での交流も盛ん、インド各地の大きな街にはモスクワに本部があるソビエト専門の書店があった。英語やヒンディー語をはじめとするインドの言語に翻訳された書籍が並んでいた。私もときどきそういう店で「インド人用のソ連書籍」を買ったことがある。同じ時期の日本から見たソ連への感情とは180度異なるものがあったように思う。その頃のインドはいわゆる「消費主義」へ批判的な風潮もあり、当時のソ連と心理的にも親和性は高かったのかもしれないし、彼らの進んだ科学技術への憧れもあったことだろう。

AAJTAKで特異なのは、複数の特派員を送り、「グラウンド・リポート」として、キエフや郊外の各地から映像とともに情報を伝えていることだ。私たちの世の中の非常時であるとして、日々の放送内容の大半をウクライナ情勢に費やす心意気には打たれるものがある。印パ関係が緊張したときでも、「日々まるまる印パ関係」ということはなかったのに、ウクライナ侵略開始以来ずっと「ほぼまるごとウクライナ危機専門ニュースチャンネル」になっている背景には、この局がこの戦争について大変な危機感と問題意識を持っているからに他ならないだろう。国営放送及び民間放送の他局は通常通りに大半が国内ニュースで、ときどきウクライナ関係の映像が挟まる程度、あるいは脱出先の東欧からインド軍機で帰国したインド人留学生たちを取材する程度であるため、その特異性は際立っている。

INDIA TODAY (英語放送)

前述のとおり、AAJTAKはニュースメディアの「India Today」グループの放送局だが、この「India Today」名の英語放送も運営しており、ほぼ同じ内容のニュースを英語で見ることもできる。インドの多くのニュースチャンネルは、国営放送から民放まで、インターネットでもライブ放送をしている。インドでオンエアしている内容をそのままネットで見ることができるわけだ。日本放送局も同様のサービスをしてくれれば良いのにと思う。日本からの現地レポートが手薄ないっぽうで、国際報道の分野でも台頭するインドからのニュースで、よりわかるウクライナ情勢。ウクライナ情勢に関して、今ぜひ視聴をお勧めしたい。

イスラーム化前のスィンド地域

パーキスターンの英字紙DAWNのウェブ版に興味深い記事を見つけた。

紀元7世紀から8世紀初頭にかけての同地域における仏教徒王朝内での宮中クーデターによるバラモンの大臣による全権掌握、そして西方からのイスラーム勢力の侵入による王朝の終焉までを簡潔にまとめたものである。

HISTORY: SINDH BEFORE THE ARABS ARRIVED (DAWN)

美しい王妃と夫である王の重臣との禁断の愛と彼らが示しあっての権力簒奪という映画さながらの展開。王となった父の跡を継いだ息子のモラルの反する行動による民心の離反、この頃勢力を伸長させていたイスラーム勢力による王国の陥落・・・。

今となっては、その痕跡を見つけることすら容易ではないこの土地だが、かつては玄奘三蔵も訪問しており、無数の仏塔が建ち並ぶ国土であったという。

アラビア地域に発したイスラーム教は、この時期まさに「イスラームの衝撃」とも言うべき、短期間で一気に不可逆的なブレイクアウトを起こした未曾有のムーヴメントであった。当時のスィンド州の人々は、まさにその現場を直に目撃し、体験していたわけである。

Coronavirus LIVE

現在「第3波」に見舞われているインド。以下のURLには同国におけるコロナ関係の記事が順次アップデートされているが、1月22日18:19(IST)時点では、直近の24時間で20万人近くの人々が感染したことが伝えられている。インドにおけるデルタ株による「第2波」では、1日で40万人を超える感染者数を記録していたインドだが、今回はこれを軽く超えることになるかもしれない勢いだ。

昨年末までは、国内でオミクロン株による感染は伝えられていたものの、同国のメディアは遠からず第3波が来るであろうことを警告しつつも、「現在までのところ大きな感染の波が起きる予兆はない」としていたのだが、年が明けると一気に拡大している。このあたりは日本のそれと似ているとも言える。デルタ株の3倍とも言われる強力な感染力と、感染してから概ね3日半くらいで発症するという潜伏期間の短さ、加えて感染者のうち3割程度の人たちは無症状のままで気付かないまま通常通りに仕事をしたり、生活したりしているため、知らずに感染を広めてしまうということも背景にあるようだ。

デルタの頃に較べて救いと言えるのは、重症化する割合が低いとされることで、まさにこれがゆえに、インドでもそうだが、日本でもこれほどの速度で爆発的に広がっている割には、社会にあまり緊張が感じられないのかもしれない。

欧州では、今後6~8週間ほどで、域内の人口の半数程度が感染する見込みとも伝えられている。ブースター接種の効果と併せて、膨大な人口が免疫を獲得することとなり、同時進行で治療薬も普及していくことから、まず米国やEUなどが新型コロナへの感染症指定をインフルエンザ同様のレベルに落とし、その周辺地域や日本その他の国々も追従することにより、それぞれの国・地域における新型コロナ対応策の緩和、国境を越えた活発な往来の再開へと繋がり、コロナ禍の収束へと向かうことだろう。

もちろん新型コロナウイルスが雲霧散消することはないので、「終息」ではなく「収束」で、ときおり地域的に流行が拡大したり、落ち着いたりを繰り返しながら、ちょうど季節性のインフルエンザがそうであるように、「いつものこと」として、今後の私たちは対峙していくことになるのだろうか。

Coronavirus LIVE: Data suggests reduced risk of hospitalisation for Omicron compared to Delta, says health ministry (INDIA TODAY)