ネパール 革命成就・・・なのか?

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ネパールの総選挙結果が、事前には思いもよらなかった方向に展開している。
紆余曲折あったが、なんとか今回の選挙に参加することになったネパール共産党マオイスト派である。長年武装闘争を続け、ネパール政界を左右するひとつの重要なカギを握る勢力である。国民のある部分から一定の支持を得ることができるにしても、あくまでも主流派に対する抵抗勢力として、どこまで票を伸ばすことができるかが云々されていた。さらにはその結果が、彼らにとって満足いくものでなければ、選挙の公正さに対する疑いを理由に、再び武闘路線に戻るのではないかという懸念もあった。そもそも今回の選挙の焦点のひとつには、国内の不安定要因の最たるもののひとつであったマオイスト勢力をいかに平和的かつ継続的に政治参加させるかという問題があった。
ところがどうしたことだろう。現時点ですべての結果が出揃ったわけではないが、すでにマオイストが第一党となることは確実な情勢で、開票後かなり早い段階において勝利宣言も出ている。これはまたマオイストたちによる『革命の成就』と表現することもできるだろうか?
政府と対立して武装闘争を展開してきた過激派が、総選挙で過半数にわずか及ばないまでも、堂々たる第一党に選ばれてことを受け、大政党にしてこの国最古の政党であるネパール会議派がマオイストに連立を打診している。力による弾圧という路線から対話と政治参加を促して、武装したマイノリティ集団のマオイストたちを一政党として自らのシステムに取り込もうとしたのはマジョリティ側であったが、総選挙の予想外の結果により、まさに主客転倒となった。
数の論理で堂々と不条理がまかりとおることもある民主主義体制の中、狭い国土ながらもインドと同じく多様性に富む国土の広範な民意のうち、これまで既存政党が吸収できなかった部分を代表し、道理にかなったやりかたで国政に反映させる、必要とあればマジョリティの独走に歯止めをかけるチェック機能としての存在は、諸手を挙げて歓迎されるべきものである。そもそもマオイストたちの中に占めるマイノリティ民族や女性の占める割合は高く、これまであまり省みられることのなかった層の人々の意思を代表しているともいえる。
マオイストたちにしてみれば、国民の総意を結集した選挙で第一党となることで、『政党』として自らの主義主張の正当性についてのお墨付きを得たことになり、これまでの行いは『造反有理』であり、これが社会が払ってきた犠牲についても『革命無罪』ということになってしまうのだろう。政界のどんでん返して、ネパールは今まさに本格的な変革の時期を迎えたことになる。しかし注意しなくてはならないのは、予想外に大量の票がなぜマオイストに流れたかということだ。票のかなりの部分は既存政党への不信任票といえるだろう。しかしだからといって、そのすべてがマオイストたちの方針に諸手を挙げて賛成というわけではないのではないかということは容易に想像できる。選挙前にはマオイスト支持とは予想されなかったカテゴリーの人々のうち、どういう立場の人たちが彼らに票を投じたのか、詳細な分析が出てくるのを待ちたい。
ところで、マオイストたちに政権担当能力はあるのだろうか。彼ら自身、とりあえずは政局に強い影響力を持つ野党陣営の一角を占めて、議会政治の世界で着実に地歩を固めることができれば良かったのではないかと思う。いきなり第一党に躍り出てしまい、最も当惑しているのは他でもないマオイストの幹部たちなのではないかという気がしないでもない。時期尚早ではないだろうか。
これまで農村部や山間部で人々をオルグあるいは強制的に徴用したり、政府に対する武装闘争を展開したりしてきたマオイストたちが、こんどは公平かつ責任ある統治者として、『反動的』あるいは『反革命的』他陣営をも含めた様々な意見をまとめあげる有能な調整者として、これまでとまったく違う役割を担うことになる。こうした経験のない集団が、あまりに過度な期待を背負っていったい何ができるのかは未知数だが、まずはお手並み拝見といったところか。先に勝利宣言を発したプラチャンダ議長は、彼らが第一党となることに対する周辺国ならびに諸外国の懸念を払拭するため、『我々は民主主義を尊重し、諸外国とりわけインドと中国との友好関係を維持していく』との声明を出したことからもうかがえるように、今のところ自分たちの立場についての自覚はあるように見えるのだが。
今回の選挙が、懸念されていたほどの大過なくほぼ平和裏に投票を終了し、政権交代へのプロセスを円滑に進めているように見えることについて、現象的には国民統合の象徴とも民主主義の勝利ともいえるかもしれない。だがその実新たな混乱のはじまりがやってきたのではないかと懸念するのは私だけではないだろう。今度はマオイストを軸とする新たな合従連衡が展開されていくことになると思う。ネパールの『革命』と『闘争』はこれからもまだまだ続く。マオイストが主導することになりそうな新政府、そして新たな憲法起草による新しい国づくりの中で、あまりに性急な変化を志向すれば、かならずや大きな揺り戻しを呼ぶことになるだろう。
目下、革命いまだ成就せず・・・ということになるが、同様の信条のもとに武装闘争を続けるマオイスト勢力を抱えるインドにとっても、ネパールにおけるマオイストをめぐる様々な動きや事態の展開には、今後いろいろ参考になるものが出てくるのではないかという気もする。今後の進展に注目していきたい。
CA Election 2064 Results (kantipuronline.com)
ELECTION COMISSION, NEPAL
マオイスト共産党の選挙シンボル

参加することに『異議』がある?

北京オリンピック
今年8月8日から同24日にかけて開催される北京オリンピックの聖火リレーが、各地でさまざまな抗議活動やトラブルに見舞われている。本日4月9日にはアメリカのサンフランシスコに上陸、続いてタンザニア、オマーン、パーキスターンときて、4月17日にはインドのニューデリーを聖火が走る予定だ。国内に膨大なチベット難民人口を抱えるインドにあって、近年改善しているとはいえまだ根強い中国への不信感もあり、このたびの聖火リレーの賛否についていろいろ意見の分かれるところではないだろうか。デリーでの走者のひとりであったサッカー代表選手バイチュン・ブーティヤーはこの役目の辞退をすでに表明している。
オリンピックは、いうまでもなく国際オリンピック委員会に加盟する国々のうち、開催地として挙手したもののなかから選ばれたホスト国で開かれる、いわば持ち回り開催であり、中国独自のスポーツ大会というわけではない。また国際オリンピック委員会という組織自体が公的機関ではなく、国際的なネットワークを持つ民間組織である。各国の『民』が力を合わせて開催する祭典であることからも、様々な雑音が聞こえてきたとしても、大会そのものに政治の影を投げかけることなく、立場の違いを超えて各国が協調・協力したり、一般市民もまた五輪開催の趣旨を理解したうえで、そうした風潮に流されないというのが本来あるべき姿だと思う。
しかしながらオリンピックが、それを開催したり選手団を送り出す国家により、しばしば国威発揚の道具として利用されることは事実であるし、そうした政府に対する圧力をかけたり、自らの主張を外の世界にアピールしようと意図を持つ団体やグループにとっては、またとない機会であることも間違いない。
4月17日のデリーの聖火リレー自体は、厳重な警備のために一見問題なく行なうことができたように見えるのかもしれないが、その前後の時期を含めてデリー周辺その他チベット系の人々が多く住む街などでもさまざまな抗議活動が展開されるのかもしれない。五輪に政治を持ち込むのはどうか?という疑問は残るものの、ここ半世紀ほどの長きにわたりチベットが置かれている状況を思えば、今回の五輪に『参加することに異議がある!』といわんばかりの激しい抗議活動について、個人的に共感できる部分も少なくない。
インドの後、タイ、マレーシア、インドネシア、オーストラリアと続いた後に、4月26日には日本の長野で聖火リレーが行なわれる。先述のとおり、個人的には五輪の政治化は同意しかねるのだが、やはりチベットをめぐる諸問題に思いをめぐらせれば、もし『長野ではこれといった騒ぎもなく、極めてスムースに聖火が通過しました』と、日本の市民が何ら特別な意思表示もしないまま終わってしまってはいけないような気もするのが正直なところだ。
私自身は今年オリンピックが開かれること、各国の様々な選手の活躍を目にすることを楽しみにしている。だがその開催地が北京であるがゆえに、いろいろと胸に浮かぶことは多く、その意味では他の多くの人々と感情を共有している部分があるのではないかと思う。世界中各地で発した人々の訴え、いやそれ以上にこれまでずっと困難な立場に置かれてきたチベットの人々の主張について、中国当局がしかるべき配慮や対応をすることを切に願うところである。

ブータン総選挙

本日3月24日、ブータンで初の総選挙が実施される。世界史の中でも珍しい絶対君主自身の提唱による『上からの民主化』で、同国が立憲君主制に移行するプロセスの中での仕上げ段階となり、全国の47の選挙区からそれぞれ1人ずつの議員を選出する。
ヒマラヤの南斜面に位置する山岳地であるがゆえにアクセスの良くない地域が多いが、インド空軍が選挙に関するガイドラインの空輸に協力するなど、テクニカルな部分における隣の大国インドによる支援は少なくないものと思われる。全国に865の投票所が設けられるとのことだが、遠隔地の有権者対象に全国で180台の電子投票器が利用されるということだが、おそらくこれらもインドの力添えあってのことではないだろうか。
選挙は極めて平和裏に行なわれる見込みとのことで、思想的に右寄りの人民民主党、左寄りのブータン調和党のふたつの政党が覇を競うことになる。だが『政党』といってみたところで、2007年4月に入るまではそうした団体の存在自体が禁じられていたため、同年7月に政党登録された両党は、ブータン共産党、ブータン人民党といった非合法団体を除き、ブータンで『現存する最古の政党』ということになる。
両者ともにウェブサイト上で候補者たちの略歴などを読むことができるが、前者については各候補者のメールアドレスも掲載されているのは面白い。こういうところに掲示していると、すぐにメールボックスがジャンクメールで一杯になってしまうのではないかと思うが、それでも有権者たちの声に耳を傾けようという姿勢が感じられてなかなか好印象だ。
地域、民族そして宗教を利用したり、これらを標榜したりするキャンペーンは禁止されているとのことで、南アジアにあって近隣国で行なわれている選挙とはずいぶん趣が異なるものとなるようだ。
さて、この選挙によってどんな政府が組織され、どういう国づくりを行なっていくのだろうか。新政府が、この国独自のGNH (Gross National Happiness)をさらに成長させていくことを願うばかりだが、少なくとも民意(・・・の中に往々にして経済界の意思をも含む)を反映する政治システムでの国家運営が進められることになる。すると卑近な事柄かもしれないが、この国の観光政策にも大きな変化が生じる予感がする。おそらく段階的に、しかし着実により多くの観光客を受け入れるようになることだろう。
日本で報道される機会がごく限られているブータンだが、今まさにこれまでなかった大きな変革の時代を迎えていることは間違いないようだ。まさにこの総選挙により、ブータンの新時代の舵取り役を誰に任せるのかという一大事が決定する。新政府には、ぜひともいい国づくりに邁進してもらいたい。個人的には、近い将来この国をごくごく簡単な手続きで訪れることができるようになるといいなあ、と思うのであるが。
97,921 cast vote in first two hours of polling (Kuensel)

ググッと眺める奇妙な景色?

アクサイチン
2年近く前のことだっただろうか。Google Earthで『発見された』中国内の軍事施設のことが話題になっていたことがある。インド・中国の国境地帯、アクサイチンを模した巨大なジオラマが見られるとのことであった。
そんなことをふと思い出し、自宅パソコンで立ち上げたGoogle Earthにその位置(北緯38°15’56.35″の東経105°57’6.12″)を入力して出てきた奇妙な風景。
アクサイチンの模型
これをGoogleマップで表示させてみよう。
湖が点在する風景からして、いかにもアクサイチン周辺の模型である。ちなみにこちらがGoogle Earthで表示した本物のアクサイチン周辺の画像だ。
本物のアクサイチン
これまたGoogle マップでも位置を示しておこう。
チベットから1962年の中印紛争以来、ここを占領した中国が実効支配している。チベットと新疆を結ぶ重要なルートであったことから戦略的価値の高い地域である。またその交易路の存在ゆえのことだろう、ラダック地方に暮すかなり高齢の人たちの間には、アクサイチンがイギリスの影響下にあった時代に、現在では新疆ウイグル自治区となっている地域のカシュガルその他の町を仕事で訪れたことがある、そこにしばらく暮らしたことがあるという人はけっこういるようだ。
私たちはアクサイチンをこうした衛星写真でしか眺めることができないが、変化に富んだ地形、環境が厳しく植生の少ない高地ながらも川の流れや点在する湖などもあることから、まさに息を呑むような風景があちこちに見られることだろう。この有様を再現した模型が『本物』から2600キロ以上離れ、中国の内蒙古自治区、甘粛省そして陝西省に挟まれた寧夏回族自治区に存在するのである。機密に属するものであるため、実物同様こちらも一般人が訪れることはできない。

ジャーゴー・パーティー 君たちは何者か?

jago party
今年1月28日に政党登録された『目覚めよ!』なんていう団体がある。日本のメディアに取り上げられることがあれば『覚醒党』なんていう名前が付けられるのだろう。彼らの雑誌広告には、以下のような主張が示されている。
・留保制度反対
・汚職者と性犯罪者に絞首刑を
・司法判断迅速化 判決を3か月で
・英語教育の普及による完全雇用
・民営化を推進し、すべての街や村に電気を
この『ジャーゴー・パーティー』のウェブサイトにもう少し具体的に書かれているのだが、まずはトップページアクセスしてみよう。最初に表示される大きな画像に絞首刑の縄が揺れ、『汚職者と性犯罪者に死を!』なんていう文字がジワジワと出現してビックリする。やがて画像が入れ替わり『Reservationなんて列車だけで充分だ!』という文字が出てくる。
パッと見た印象では、過激な行動をする団体かと思えるかもしれないが、よく読んでみると彼らが語りかけようとしている対象は、これまでどちらかといえば政治というものに冷淡であったり、無関心であったりした層であるように思われる。だからこそ『あきらめないで、みんなで声を上げよう』『投票に行こう』『輪を広げよう』などといった簡単でわかりやすいメッセージが記されているのだろう。そもそも先に挙げた彼らの主張自体が何ら目新しいものではなく、すでにいろいろなところからこうした意見は出されている。
ただし彼らの注目すべき点は、人々の気楽な『政治参加』を促すための積極的な試みがウェブ上でなされている部分だろう。犯罪・汚職・不正などについての通報窓口が設けられており、ここに記録されている事案を閲覧できるようにもなっているのだ。
地域やコミュニティなどといった縦横のつながりや、職場あるいは労働組合などとのつながりとも関係なく、まずは個々にネット上でつながりを持ったり協力したりできるようになっていることから、都市部でミドルクラス、郊外の新興住宅地の住民、転勤族といった人々の支持はもちろんのこと、いわゆる浮動票を集める勢力となることを狙っているものと思われる。
権利意識の高揚、社会正義、行政への監視といったごくあたりまえのことをわかりやすく、そして政治参加への垣根を低くして人々の自発的な参加を促そうという、ごくまっとうな市民政党としての道を歩もうとしているように見えてくるのだが、果たして彼らは何者なのだろうか?その背景がまだよく見えてこない。ひとつにはその指導者の顔が出ていないという部分も大きい。同サイトに登録すれば、毎週ニュースレターが送られてくるとのことなので、とりあえずレジスターしておいた。
社会のありかた、人々の暮らしぶりや考え方が急速に変貌しつつあるインドの『民意』について、既存の大政党では吸収しきれない領域が増えてきたからこそ、単一の政党がマジョリティを占めることはもはやなく、幾多の政党の寄り合い所帯の連立での政権運営がなされるようになってきたのだといえる。そうした中で、こうした形で広く市民の参加を募る政治活動は、うまくいけば既存政党が無視できない一定の勢力を築く可能性もあるかもしれない。彼らによれば、今後カルナータカのヴィダーン・サバー、そして中央のローク・サバーの選挙に打って出ることが記されている。
これら直近の選挙ですぐにどうのということはないとは思うし、そもそもこのジャーゴー・パーティという試み自体がうまくいくのかどうかは不明だ。しかし既存の政党とは違う市民運動型の政党が他にも次々出てきてそれなりの勢力を確保するようになれば、旧来の政治団体の活動のありかたにも影響を及ぼすことになってくるのではないだろうか。
それにしても、ジャーゴー・パーティー、君たちは何者だ?