最後に笑うのは誰?

 今回の選挙結果が、インド経済に大きな波紋を広げている。大勢判明直後の大幅下落にとどまらず、週明け月曜日には、過去129年間で最大の暴落を記録してしまったインドの株式市場。好景気の波に乗ってきたインド経済に急ブレーキがかかり、新政権は発足前から面目丸つぶれである。
 一連の出来事で、いまをときめく財閥オーナーたちにも大きな被害が及んでいる。昨年度の長者番付トップで、リライアンス・グループを率いるアンバニー兄弟にいたっては、なんと594億Rs(約1490億円)もの損失が推測されている。
 だが、こうした財力ありあまるお大尽たちはともかく、本当にスッカラカンになってしまって頭を抱える市民も少なくないだろう。
 予想外の勝利を収めた国民会議派は、強い逆風を受けてのスタートとなる。アテにしていた諸々の左翼政党の取り込みは不調。第一党の国民会議派、野党に転落したBJPに次ぎ、三番目の議席数を確保したマルクス主義共産党は、政権に直接参加せず閣外協力に留まることを表明している。イデオロギー的なものはもちろん、再来年に控える西ベンガル州選挙(国民会議派が最大のライバルとなる)の都合もあるようだが、会議派に対して自分たちの価値を吊り上げようという意図も見え隠れする。
 同党をはじめとする左翼陣営は、国営企業民営化プログラム(この中には政府が所有する銀行、航空会社のエア・インディア、インディアン・エアラインスも含まれる)に一様に反対しており、今後はこの第三勢力の動きが政局の重要なカギ、…いや政権の存続をも左右するようになるのかもしれない。
 単独で過半数を確保できなかった国民会議派にとっては気が重い問題ばかりだ。ただでさえ軋轢の大きい寄り合い所帯の連立政権。閣外からの「協力」と同時に大きな「圧力」もかかってくることを覚悟しなくてはならない。
 今回の総選挙の結果、最後に笑うのは誰だかはっきりするまで、もうしばらく時間がかかるようである。
財閥主たちはいくら損した? (Times of India)

インド迷走:ソニア首相就任を否定

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 世の中いったい何がおこるかわからない。総選挙で勝利した国民会議派総裁=ソニア・ガーンデイー氏。首相就任が自然な流れであると思われたのだが、昨日、大統領との会談後、本人の口から就任を否定する発言が飛び出した。今日19日には「ガーンディー首相誕生!」と予想されていたのに。
 かねてよりソニア氏の出自については、党の内外から語られることは多かったが、彼女自身も会議派も、そうした障壁は百も承知で腹をくくって、この選挙戦を闘ってきたはずだ。右翼陣営の過激な攻撃を封じるため辞退したとすれば、「彼らの論理に屈して、会議派の指導体制の誤りを認めた」と、受け取られてもおかしくない。
 あるいは「外国人」「王朝の再来」という批判を最小限に抑えようと、一度は固辞しながらも周囲から熱烈に請われて就任したという手続きを踏みたいのだろうか。少なくとも、「首相のポストを明け渡すことで、閣外協力を表明するにとどまっている左翼勢力を取り込もうという奇策」ということはないだろう。
 一部伝えられている「野党の攻撃で嫌気が差した」「首相職に関心がない」というのが本当の理由であるとすればひどい話だ。ソニア氏を頂点とする会議派に期待を寄せて票を託した有権者たちへのあからさまな裏切り行為である。さらなる政治への失望と不信感を人びとの心へ植えつけることだろう。
 周囲の圧力で、断りきれずに政界へ進出することになった彼女に同情を寄せたくなる気持ちもあるが、いまこそ党総裁としての責任はもちろん、これまでソニア氏を祭り上げてきた会議派の責任も問われるべきである。世界最大規模の政党でありながら、強いカリスマ性を備えた指導者が不在であるという不条理。今回の出来事でその醜態を天下にさらすことになった。
 選挙で政治の風向きが大きく変わったものの、新政権発足前にして早くも元の流れに戻ろうとしているかのようだ。次期首相候補として、マンモーハン・スィン氏(1990年代初め、ナラシマ・ラオ政権下の財務大臣)の名前が浮上してきているが、はたしてどんな決着を見ることになるのだろうか。

フタを開けてビックリ!

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 13日に開票されたインド総選挙、当初の予想とは裏腹に国民会議派が第一党という結果になった。BJP(インド人民党)陣営が確保した185議席に対して、会議派陣営は217議席。過半数を得るのに必要なのは272議席。今後はBJPの対抗勢力をどれだけ取り込めるかが焦点となる。
  「反BJP」は、当然のごとく左派勢力が中心。今後、構造改革や、公部門の民営化プログラムが停滞するのではないかという懸念から、本日金曜日のボンベイ株式相場は急落した。これまでBJP政策の恩恵を受けてきた経済界や富裕層に不安を与える政権交代になりそうだ。
 農民や貧困層の支持を得られなかったことがBJP勢の敗因とされるが、ムスリムやダリットをふくめ、社会の底辺を構成する人びと、近年の経済発展の恩恵から取り残された人びとの不満をうまく吸収しようという国民会議派とその周辺勢力の戦略が功を奏したというわけでもないだろう。これは、BJP政権下で冷遇されてきた人びとによるリベンジである。
 マハトマー・ガーンディーが語った「インドの心は村にある」という名言は、現代にも通じる真理なのだろう。やはり選挙は国を挙げての多数決、数こそが力なのであるという単純な理屈がよく見える形になって表れた。
 華やかな歴史とともに、国の隅々にまでおよぶネットワークは国民会議派の大きな財産だ。「世界最大の民主主義政党」という看板もあながちウソではないな、という気がしてきた。
 また、これまで「BJPは苦戦ながらも勝利をおさめる」と予想していた多くのメディアが、社会のどの部分に依拠しているかということも、いまさらながら浮き彫りになった。

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次なる政府は?

 インド各地で4月20日・26日、5月5日・10日と4回に分け行われていた総選挙の投票がすべて終了し、じきに大勢が判明する。現在、与党の立場にあるBJP(インド人民党)、政権復帰を賭ける国民会議派、ともに単独で過半数を得ることは難しい状況。両陣営ともに新たに連立を組む相手を探り、水面下での駆け引きが活発に行われているようだ。
 今回の総選挙は「インド初の電子投票」という記念すべき方法で集票。各地に百万台以上の投票マシーンが設置されたことも大きな話題となった。投票率55%(例年は60%台)とやや低調ではあったが、それでも3億5千万人以上もの人びとが、自らの意思を票に託したわけだから、地上最大規模のイベントとも言える。
 期間中、選挙に関わるトラブルによる死亡者は、この国にあって40名と少なく(!)、過去もっとも平穏な選挙のひとつであった。
 選挙広告もなかなか興味深く、中でも国民会議派の雑誌広告や、ウェブサイトには、ちょっと考えさせられるものがあった。
 独立運動、共和国制と憲法の制定、パンチャーヤト制導入、緑の革命、工業の発展、IT産業推進政策、経済自由化への道筋など…、118年もの長い歴史を持つ政党だけあり、近代インド史がそのまま党の歴史と重なる。しかし、いまでは野党の座に甘んじていることもあり、過去の実績にくらべ、近年は特にアピールできる材料が少ないようだ。
Photo by www.congress.org.in
 党のウェブサイトにアクセスしてみよう。「home」のすぐ右隣のタブには、元首相で1991年に亡くなったラジーヴ・ガーンディーの言葉が記されており、現在同党を率いるソニア氏は、まるで故人の代理を務めているかのような印象を受ける。
 「history」をクリックすると、いきなり手紡ぎ糸車を前にしたマハトマ・ガーンディーの大きな写真があらわれる。1989年の総選挙(会議派は大敗。人民党のV.P.スィンが首相の座に)の際に、「初代首相ネルー生誕百周年」というコピーを冠したポスターが選挙戦に大量投入されていたことを思い出した。
 すでに天国の住人となっている大昔のリーダーまで、キャンペーンに駆り出されるのだから、「公人」というものは大変だ。それにしても、華々しい過去の業績ばかり書き立てる記事には虚しさを感じる。もちろん、近代インドを形作る中で同党の役割は重大だった。が、インド人なら誰でも知っているようなことを今さら書き立てられたところで…まあ、どんなものだろうか。

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「バジャージ」に強力なライバル出現!?

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 以前、日本上陸したバジャージ社のオート三輪について書いたが、非常に強力なライバルが存在した。メタリックでカラフルなボディ、耳に心地よいくらいシャープに吹け上がるエンジンを持つ、タイの「トゥクトゥク」だ。
 バジャージのオート三輪は、発売元のタケオカ自動車工芸で、「ジュータ」と名づけられた。この会社では、後部が荷台となっている三輪ピックアップしか販売していないが、トゥクトゥクを扱う株式会社ニューズでは、通常の後部客席付きモデルに加え、トラックタイプ、アルミバン、保冷車にダンプ(ちゃんと荷台が持ち上がる)等々、実にバリエーションが豊か。しかも車両の前後左右につけるクロームメッキのロールバーや特別塗装などのオプションもある。
 バジャージの174ccという非力なエンジンに対して、トゥクトゥクは659ccのダイハツ製エンジンを搭載。圧倒的なパワーの差がある。足回りだって後者のほうがはるかに近代的だし、洒落ていてカッコいい。
 さらには「4ドア・エアコン付き」なんていう豪華版まであるのには驚かされ、購買意欲をいやがうえにも刺激されてしまう。これは欲しい!
 業者いわく「車両法上は二輪車扱いなので車庫証明不要」とのこと。しかし「高速道路でもヘルメット不要で、シートベルトを着用する義務もありません」とメリットだかリスクだかわからないことも自慢していた。
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 価格を比較すると、バジャージが62万5千円であるのに対して、トゥクトゥクはスタンダードモデルで120万円、フルオプションモデルだと140万円もする。加えてこちらは車検も必要になり、異なる価格帯であることから直接競合することはないのかも。
 外国製のこんな車両を専門に扱う業者がいるところを見ると、いまの日本でオート三輪の需要は、ニッチながらも意外とあるように思える。

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