ブータンとインド

bhutanTV 

 ブータンでテレビ放送が始まって5年目。おそらくそれ以前は、ごく一部の道楽人が隣国インドの地上波や衛星放送を受信して楽しむ他なかったのだろう。考えてみてほしい。二十世紀末まで存在しなかったテレビ文化が突然ドカッと流入したのだ。人びとへのインパクトは強烈である。地元コンテンツはまだ未熟で、放送されるのは外国番組が主体ということもカルチャーショックに拍車をかけていることだろう。 
 「テレビ放送」と一口に言っても、技術や経験の蓄積なしに、暗中模索してなんとかなるシロモノではない。業界のコアを占めるのは地元っ子ではなく外国人かもしれない。
 今なお鎖国状態のヒマラヤの小王国で、欧米からやってきたプロフェッショナルたちが大手を振って闊歩する…という光景は想像しにくいが、相互に人の行き来が盛んなインドからということならば納得がいく。 
 非熟練労働者から高度な専門職まで、ブータンで活躍するインド人は多く、学校で教えるインド人教員も少なくないようだ。国策として英語教育に力を注いできたブータンでは、国語以外の授業は英語を通じて行われているというが、この外来の言葉を定着させることができたのは、現場でのインド人教師の活躍あってのことらしい。 


 そんな国だけに、テレビ放送立ち上げには多くのインド人がかかわったのではないかと思う。ブータンではどこで造られたテレビ受信機を利用しているのだろうか。周囲をヒマラヤ山地で囲まれた、海への出口を持たない内陸国。すると当然のごとくインド製品が市場を席捲しているのではないだろうか。どちらも私の勝手な想像にすぎないのだが。 
 ブータンは1971年から国連加盟国になったが、独立後1949年にはインド・ブータン条約が結ばれており、インドとの間には保護と支配が同居した他国間には見ることのない特別な関係がある。同条約第二条「インド政府はブータンヘの内政へ干渉しないことを約束し、ブータン政府は外交関係につきインド政府のアドバイスのもとに実施することを合意する」という部分は特に目を引く。主権国家でありながらも、対外関係はインドにしっかり手綱を握られているということだ。 
 ブータンにとって、インドは言うまでもなくあらゆる面において最大のパートナー。経済、教育、科学技術他の分野で長年にわたる協力を受けているし、直接目に見えるものとしても、水力発電施設、道路、空港建設等の様々な施設があり、ティンプー他の各都市にインド軍事顧問団が常駐している。ブータン人たちにとってインド人のプレゼンスはとてつもなく大きなものであるはずだ。 
 ちなみに在日ブータン王国大使館は、駐インドの同国大使館が兼轄(日本もブータン関係については駐デリー大使館が扱う)しているが、ブータン大使が来日する際の活動拠点は東京の「インド大使館」ということになっているそうだ。 
 通貨ヌルタムは、インドルピーと等価。国境を越えて持ち込んでもそのまま使用できるそうだ。カルカッタからブータン首都ティンプーまでの長距離バスも出ている。ただし、日本人旅行者は何か特別なコネでもなければ自由に旅行できるビザを取得できないので、高いツアーに加わるしかないのだが…。 
 なんだか実際の距離以上に遠く感じてしまうが、ぜひいつか訪れてみたいものだ。その時はブータンのテレビ事情もチラリと覗いてみたい。 
ブータン テレビ放送開始から5年

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