牛のげっぷ問題

地球温暖化の懸念が高まる中、それを生じさせる原因を少しでも削減しようという試みがなされており、それ自体がビジネスにもなっている昨今。『悪役』をあぶり出す動きもまた盛んである。
温暖化の元凶とは、おおまかにいえば工業化と都市化に集約されるものとばかり思っていた私だが、生き物の活動による影響もかなりあるらしいことを知ったのは、次の記事を目にした本日のことだ。
牛のげっぷを9割削減 出光と北大、天然素材発見(asahi.com)
なんでも、げっぷに含まれるメタンの温室効果は二酸化炭素の21倍もあるのだという。大型動物がゆえに1頭あたりが発生させるメタンの量も多いために問題視されるのだろう。記事によれば、日本国内の牛440万頭から年間32万3000トンのメタンが発生しており、これは二酸化炭素換算で678万トンに相当するという。これは日本国内の温室効果ガス年間排出量の0.5%に相当するというからバカにならない。
牛1頭あたりの排出量1.54トンを、1億8千万頭いるとされるインドの牛たちに、体格は違えどもそのまま当てはめてみれば、2億8千万トン近い数字が出てくる。つまり先述の日本における温室効果ガス排出量二酸化炭素換算の値のおよそ2割!にまでなってしまう。インドの温室効果ガス排出量は日本よりも少なく11億トン弱程度のはずなので、この中に占める割合は25%にも及ぶことになる。でもよくよく考えてみるまでもなく、インドの温室効果ガス排出量の四分の一が牛のげっぷだなんて、これはきっと何かの間違いだと思うのだが・・・。
記事中にある『牛のゲップを9割抑える天然素材』として、カシューナッツの殻に含まれる成分と、ある酵母菌に含まれる界面活性剤が用いられるといい、2011年度には商品化することを目指しているとのことだ。
温暖化対策に有効とされるバイオ燃料の需要により、穀物をはじめとして様々な農産物とその加工品の値段がグンと上がったように、世界の『牛げっぷ対策』でインド特産のカシューナッツの価格が高騰することもあるかもしれない。すると、これを原料とする(ココナツから醸造するものもあるが)フェニーの小売価格が暴騰し、ゴアの庶民の手に届かなくなった・・・なんていう話も後日出てくるのだろうか。

トラも大変 村人も大変

先日、ZEE NEWSを見ていたら、スンダルバンのトラ保護区近くの村に侵入したトラが捕獲され、これを安全な場所に逃がしたという映像が流れていた。
YoutubeでもCNNが流した同じコンテンツを見ることができる。 侵入した村で、そこに暮らす人々による反撃を受けて負傷したトラは妊娠中。追われてヤシの木の上に避難していたところを、担当官たちが麻酔銃などを使って捕獲、そしてケガの治療をしたうえでトラ保護区内まで船で運搬し、マングローブの森林地帯で解放したものだ。
上記リンクのビデオは映像が終わってしまっているが、拘束を解かれたトラは河の中に停泊した船からビヨーンとジャンプして水中に飛び込み、河岸まで泳ぎついた後、泥地を跳ねながら彼方へと消えていった。
スンダルバンとは、世界最大級のマングローブ森林地帯で、そこに育まれた豊かな大自然と貴重な生態系、トラやカワイルカなどをはじめとする希少な生き物たちで知られる。ユネスコの世界遺産に指定されている。インドとバングラーデーシュにまたがる広大な地域であるが、前者側では『Sundarbans National Park』として1982年に、後者側では『The Sundarban』として1997年に登録されている。つまりひとつの広大な地域『スンダルバン』が、国境を境に別々の遺産となっている。
ラージャスターン同様、スンダルバンでも密漁によるトラの頭数の減少が心配されている。また本来開発が制限されている地域でありながらも、他地域からの人々の入植や伐採などにより、トラが生息できる環境がだんだん狭まってきていることから、彼らの行動圏と人間の生活圏の重なる部分が増えてきていることも大きな懸念材料だ。
スンダルバンで村人が『トラに襲われて死亡』といった事件はしばしばメディアで報じられるところだ。通常、トラは獲物の背後から奇襲することが多いという習性を踏まえたうえで、後頭部にお面をかぶったり、農業や養蜂などで作業をする場所の近くに囮の人形を置いたりして対策を講じているようだ。それでもやはりトラの行動エリアと重なる地域で寝食することのリスクを取り除くことができるわけではない。この大型肉食獣は、本来の『食物連鎖』では私たちヒトよりも上位にある動物であり、他の逃げ足の速い草食動物を狙うよりも、丸腰で単独で歩いている人間を狙うほうが簡単であることは言うまでもない。
西ベンガル政府には、Department of Sundarban Affairsという部局があり、スンダルバン担当大臣までいる重要な部署でもある。バングラーデーシュ政府には、そのものズバリ『スンダルバン省』なるものはないようだが、いずれの国も私たち人類が共有すべき貴重な『世界遺産』としてのスンダルバンをしっかり守っていって欲しいものだ。
しかしながら、ここにもまた人々の生活があり、行政にしてみても財政的な制約があることなどから、保護といってもそう簡単なことではあるまい。豊かな自然を破壊するのは人間だけではなく、ときにその大自然自身もスンダルバンを傷つけることがある。昨年11月にこの土地を襲ったサイクロンは、スンダルバンの大自然にも相当なダメージを与えたようだ。
ともあれ、WHTour.orgのサイトで、インド側バングラーデーシュ側ともに360度画像でちょこっと垣間見てみるのも楽しいし、Digital GrinBangladesh – In search of Man-eaterで、最近のスンダルバンの画像を眺めながら、広大なデルタ地帯に広がる深いマングローブの森林に想いを馳せてみるのもいいだろう。

Bangladesh River Journey

BBC World Serviceによるこのプログラムは、もともと『Climate Change : Taking the Temperature』という特集の中で、地球温暖化による社会への影響を探る試みのなかのひとつとして、バングラーデーシュのデルタ地帯の水際で生活する人々を例にとって2週間に渡ってリポートするものであった。だが先週のバングラーデーシュを襲ったサイクロンと時期が重なり、その被害に関する報道とジョイントした内容になっている。
悠久を思わせる大河の眺めとは裏腹にグローバルな規模で進行中の深刻な気候の変化。ここに取り上げられた写真と文章を見ながら、何か身近なところでできることはないか考えてみるのはどうだろうかと考えさせられるとともに、今回のサイクロンの被害については、本日まで各メディアを通じて耳にしている数字よりも大きな被害となりそうで、たいへん気にかかるところだ。
それでも、バングラーデーシュの豊かな自然、とりわけ水際のとても美しい景色を想うと、いますぐ私もそこに出かけてみたくなる。おりしも乾季のシーズンでもある。バングラーデーシュ側でもインドの西ベンガル州側でもいいのだが、世界最大のマングローブの森、スンダルバンを訪れてみたいなあ、とボンヤリ思う。
Bangladesh River Journey
Bangladesh boat diary: River erosion
Bangladesh River Journey
Bangladesh boat diary: The launch
Bangladesh boat diary: Life on the edge
Bangladesh boat diary: Tigers and dolphins
Bangladesh boat diary: Northward bound
Bangladesh boat diary: Cyclone coming

サイクロン接近!

ベンガル地方に時速200kmという強い風速の大型サイクロンが接近中。すでにインドの隣国バングラーデーシュの主要港であるチッタゴンやコックス・バーザールは操業を停止しているのだとか。嵐は本日11月15日夕方から翌16日にかけて、ベンガル地方を縦断する見込みだ。
早期警戒システムの導入とコンクリート製のサイクロンシェルターを多数建設したおかげで、バングラーデーシュにおけるサイクロンの被害は相当少なくなってきているとはいうものの、デルタ地帯からなる低地が国土の大半を占めるため、風雨による直接のインパクトに加えて、高潮による影響も懸念される。
このサイクロン、バングラーデーシュはもとより、インド東部沿岸部やミャンマー西部海岸地域にもかなりの爪痕を残すのではないかといわれている。今からほぼ24時間の事態の推移が気になるところだ。下記のロイターによる記事にあるように、今回のサイクロンは『Terrain lower than 3 metres (10 feet) above sea level may be flooded requiring massive evacuation of residential areas as far inland as 10 km (6 miles).』『Complete destruction of mobile homes 』という事態を含めた甚大な被害が心配される規模であるらしい。
洋の東西を問わず、自然災害に際して貧しい人ほどその影響を受けやすく、また被災からの回復にも時間がかかるものだ。明日、明後日以降に私たちが目にするニュースが心痛むものでないことを願うばかりである。
Super cyclonic storm Sidr (Reuters)
Storm lashes Bangladesh coast, thousands evacuated (Reuters)

サルの天下(2)

シムラーのリッジにある、街のシンボルの教会裏手の道をしばらく登ると、ハヌマーンを祀るジャクー寺がある。登り口のところでは杖を売ったり、レンタルしたりしている店が多く目につく。足腰に問題を抱えた老人向けというわけではなく、サル除けなのだと言われた。よもやそんなものが必要になるとは思わなかったが、子連れなので念のため一本用意して寺へ向かうことにした。これが意外に役に立つ代物であることに気付くまで、そう時間はかからなかった。
三人ほどがなんとか肩を並べて歩くことができる狭い道、複数のサルたちが我が物顔で歩いていたり、真ん中に陣取ってこちらを睥睨していたりする。牙をむき出しにしてこちらを威嚇しようとするものもある。ときに路面をガーン、ガーンと打ち鳴らして散らせてこいつらと距離を保たないと危ない。
寺近くまで来るとそこから先は石段になっている。このあたりのサルたちはなかなか手ごわかった。前から下ってきた四人連れの若いインド人男性たちが、サル軍団の襲撃を受けている場面に遭遇。ズボンのポケットに前足を突っ込まれるなどして皆成す術なしといった具合でパニックに陥っていた。
サル集団が本気になれば、大の男たちが束になっても素手では敵わないようだ。このあたりはすでに寺の敷地内である。ハヌマーンの寺なので仕方ないのだが、僧侶や世話人たちがサルたちにふんだんにエサをやっていることが、悪戯ザルたちを助長しているに違いない。手前の参道のサルたちも大胆不敵だったが、ここのサルたちはあたかも自分たちこそこの地の支配者だと勘違いしているようで、人を恐れる様子がまったくない。

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