プリー 3 悲しい浜辺

 浜辺を散策する。海の広々とした眺めが気持ちいい。だが水平線ばかり眺めて歩くわけにもいかない。すぐ裏手が漁村になっており、このあたりの住民たちのトイレも兼ねているからである。 

そんな海岸だが、ある思いもかけない生き物の姿を見つけたときには嬉しくて飛び上がりそうになった。 

「おぉ、海亀じゃないか!」

ドキドキしながら近寄って眺めていると、通りがかりの観光客とおぼしきインド人グループも立ち止まってそれを見ている。

3、4人が立ち止まっていると、さらに4、5人、さらに数人・・・と人が増えてくる。

 

「動かないね・・・」

その中のひとりが恐る恐る近づいて、つま先で軽く突いてみるが反応なし。

「死んでるのかな?」と他の者が近づいて覗き込む。寿命の尽きたカメが波に打ち上げられたのであろうか。特に大きな外傷なども見当たらない。

だが浜辺を北に向かって進んでいくと、さらに幾つかの海亀たちの遺骸を見つけた。ひとつ、ふたつ、みっつ・・・全部で10匹は見かけただろうか。それらを仔細に調べてみるまでもなく、なぜ彼らが死んでいるかがわかった。多くは漁師の網が絡みついていたからだ。ちょうど産卵期に当たることもあり、海亀たちは沿岸を回遊している。そのためこうして仕掛けにかかってしまうのだ。

私にとっては水族館以外で初めて目にする野生の海亀であったのだが、こういう形で対面することになったのは残念だ。もちろんこのあたりでも保護動物に指定されている生き物であるとはいえ、海で生計を立てる人々が生業のために活動するエリアと重なるがゆえの悲劇である。

死んでしまった亀たちはどうなるのかといえば、どこかの国なら食肉として売りに出されそうなものだが、ここでは砂地に埋められてしまう。浜辺を歩いていると、そうした亀の身体の一部が砂地から露出している様子もいくつか目にした。

波打ち際にそのまま放置される個体もある。それらはどこからともなく集まってくるカラスその他についばまれることになる。

オリッサ沿岸ではオリーヴ・リドレー(日本語ではヒメウミガメと呼ばれる)という種類の海亀が多く棲息していることで知られているが、同時にこうした漁業関係による事故、港湾建設や内陸の都市化からくる環境の変化や汚染等により、今後が懸念されているということだ。

Endangered Olive Ridley Turtles (The Wild Foundation) 

ちょっと歩いてみただけでずいぶん多くの海亀たちの死を目にしてかなり気になったが、その反面この地域の自然がまだまだ豊かであることの裏返しかもしれない。

また、こうした状況は放置されているわけでもないようだ。NGO等の努力により、オリッサ州総体としては亀たちの死亡数はかなり減っているともいう。 

Huge drop in sea turtle mortality at Orissa rookery (express india)

もちろん行政としても、海亀をはじめとする野生動物の保護活動に取り組んでいることはよく知られている。

 Sea Turtle Conservation (Forest & Environment Department, Govt. of Orissa)

環境保護といえば何でもそうだが、人々の活動と環境をいかにうまく両立させるか、私たち人間が環境に与えるネガティヴな影響をいかにミニマイズするかという試みである。

プリーの海岸に限ってみても、これは漁師たちだけの問題ではなく、彼らの獲った魚を食べている私たちはもちろんのこと、地域全体で漁民たちの生活や魚という食材の供給と海亀の棲息をいかに両立させることができるかという観点も大切だ。

漁村近くのあちこちに海亀の遺骸が散在しているほど、この海に棲む大型爬虫類の棲息数に恵まれている今のうちに、私たちが取り組まなくてはならないことであろう。

<続く>

番外 Googleで眺める景色 チリカー湖

 オリッサ州のチリカー湖といえば、世界で2番目に大きな汽水湖として知られている。太古には湾であったものが、潮流の関係でサンドバーが形成された結果、奥行きのあまりない低地に遮られた湖が出来上がることになったとされる。 

例によってGoogleで眺めてみても、非常に面白い地形であることがよくわかる。長く続く浜のすぐ背後に湖がある。

 ここが海とつながっている部分で、潮の状態により湖と海の水が行き来するのだろう。

 広大な低湿地帯とおぼしき地域も多く、湖内もエリアによって水深が大きく異なるはずだ。

貴重な自然環境であるとともに、イラワディ・ドルフィンが棲息していること、渡り鳥その他の多様な野鳥の宝庫であり、それらが餌とする魚類や甲殻類も種類が豊富であることがよく知られている。 

モンスーン期には非常に沢山の雨が降る地域であることから、雨季と乾季とではずいぶん異なる景観が広がることだろう。 パソコンの画面で眺めていても、大地の姿というものはとても興味深い。 

さて次の休みにはどこに出かけてみようか・・・?

Googleで眺める景色 4  ガンジス上流と水源地

 やがて流れはハリドワールからリシケーシュへとたどると山間部にと入ってくる。

 デーワ・プラヤーグコーテーシュワル・ダムと遡上していくと、すでに山間の深い谷間を流れている。地形からしてかなり急流であろう。大規模な崖崩れの痕らしきものも見える。川沿いにいくつか集落も見える。特に橋もないようなので、両岸はすぐそこに見えても、互いに『ヨソの世界』みたいな感じではないだろうか。 このあたりで景色が開けているところといえば、テヘリー・ダムとその先でちょっとした扇状地が広がる集落。 

さらに進むとウッタルカーシーの町がある。少しでもまとまった平坦な土地があれば、居住地あるいは農地として有効に活用されている印象を受ける。だがそこから先に行くと町らしきものは見当たらなくなってくるし、規模の小さな集落も少なくなってくる。 しばらく進むと、ローハリーナグパラー・ハイドロ・プロジェクトと表示されているものが目に入ってくるが、このあたりにダムを造る計画でもあるのだろう。 

さらに上流へとたどると急峻な山岳の合間を縫うように進むことになるのだが、突然広い川床が見えてきた。周囲の景色に雪らしきものが見えるため、川床が白くなっているのは砂ではなく、降雪のためなのかもしれない。気候も厳しく、何かにつけて不便な土地に違いないと思うが、それでも川沿いの斜面には集落があり、人々が暮らしている。 やがてガンゴートリーの集落が見えてくるあたりになると、周囲を4000~5000メートル級の峰々が囲んでいる。 

ガンゴートリー氷河の端であり、ガンジス河の始まりでもあるゴームクはこのあたりだ。そこからさらに上の氷河の張り付いた山の姿はこんな風になっている。 

ガンジス河の本流に限らず、下っていくに従い合流してくる支流も同様に、こうした氷河なり、山間の積雪や湧水なりを水源としている。沢山の細い流れが次第に合わさり、やがて大きなひとつの河となる。最後には海へと注ぎ込まれるわけだが、今度は大海から蒸発した水分が雲となり、雨となって大地に降り注ぐことにより、それがまた河の水となって流れていく。 

私たちの身体には常に血液が流れているが如く、絶え間なく水が循環している大地もまたひとつの大きな生命体であることが感じられ、人間もその大きな命の中の一部(限りなくちっぽけな存在だが)であることを思い起こさずにはいられない。大地は生きている。 

<完>

Googleで眺める景色 3 ガンジス下流

特定のスポットをズームアップしてみたり、外国の友人の住む街を表示して『ああ、こういうところなのか』などと眺めていたりしても、やがて飽きてしまうのだが、広域を俯瞰したり特定エリアをズームアップしたりと繰り返していると、地表がシームレスに繋がっていることをつくづく実感できる。従来の紙に印刷された地図等ではあり得なかったことだ。 

緑の分布からその地域の気候等も把握できるし、海面の色合いからそれぞれの海域の深度もある程度想像できるだろう。私たちの命の源である水を運ぶ河川をたどっていくのもなかなか興味深い。 

エジプトのように、湧水のあるオアシスが点在しているのを除けば、ナイル河沿いの細い帯状に耕作地や街などが集中している状況からは、まさに『エジプトはナイルの賜物』であることが納得できるし、水なしでは人々が生活できないことがよくわかる。 

エジプトほど極端ではないが、インドもやはり大河沿いに人口の多い地域が広がっている。先日、スンダルバンのあるバーングラーデーシュのガンジス河口地域に目を移してみよう。 

拡大してみるとよくわかるが、低地帯なので河は幾筋にも分かれて蛇行している。さらにズームアッブしてみると、さらに細い流れも確認できたりして、実に水量豊かな大地であることが一見してわかる。 

少し上流に向かうと、首都ダーカー南東でアッサム州南西部から流れてくるカールニー河と合流する。少し遡るとラージバーリーあたりで同じくアッサム州の東部から流れてくるブラフマプトラ河と合流する。このあたりから水量・河幅ともに一気に拡大する。 

ナワーブガンジ(ノワーブゴンジ)の少し先からバーングラーデーシュを出て、インドの西ベンガル州に入る。そこから隣のビハール州へと越えたあたり、ちょうどバガルプルの北側はガンジス河がコースィー河と合流しているが、このあたりでは一番の低地となっているため、その他中小の河川も流れ込んでいることもあり、非常に複雑な地形となっている。雨季に河川の氾濫や洪水に悩まされがちな地域であるのは頷けるところだ。 

ビハール州都パトナー東側でガンダク河、西側でカルナーリー河、ソーン河との合流点から遡ると、かなり川幅は狭まる。そしてU.P.州のバナーラスを経て、イラーハーバードのヤムナー・ガンジス両河の合流点に至る手前には中洲がある。

 河床にある島であるため、市街地らしきものは見当たらないが、全体が耕作地になっているようだ。雨季の増水で洗い流されることさえなければ、河による沖積で出来た土地であることから水と地味に恵まれた良質な農地であるはずだ。 

カーンプルを経て、ウッタラーンチャルに入るあたりまでは単調な風景が続く。さきほど眺めたバーングラーデーシュあたりの景色も含めて、ここまで遡上するまでの間に通過する大きな街や工業地は多い。生活排水や工場等から流出する排水等々、相当大量の汚水が日々流されているのだろう。 

<続く>

Googleで眺める景色2 壊されていく船舶、造られる船

 スンダルバンから東に視点を移すと、バーングラーデーシュで『船の墓場』として知られるチッタゴン近郊の浜辺の様子が目に入る。浅瀬に座礁させた大型船舶が解体を待つ様子が見て取れる。 

同様の景色は同じく船の解体場として有名なインドのグジャラート州のアランのほうでもあり、少なくともこの画像の撮影時点では、こちらのほうが処理される船舶の数は多いように見える。 

さらに西のパーキスターンのバローチスターンにあるガッダーニーも同様の作業が行われていることが知られており、無数の船舶が海岸線に打ち捨てられた状態になっていることがわかる。 

こうした現場の作業員たちが非常に劣悪な条件下で働いていること、また環境保全の面からも有害物質等の流出への対策が何ら取られていないことから、様々な問題提起がなされているところだ。 

それとは反対に、今まさに建造作業真只中のダウ船が並ぶ景色も見ることができる。グジャラート州のマンドヴィーは、かつてアラビア海を越えての交易に活躍していたダウと呼ばれる帆船の建造が盛んであったが、現在も同様にこうした船が造られている。もちろん現代のダウはエンジン付きだ。作業は露天で進んでいくため、こうした風景を上空から撮影することができるわけである。 

外部の人間の立ち入りに制限のある船の解体場は訪れたことがないが、こちらは幾度から訪ねてみたことがある。誰でも作業の様子を船の外から見学できるし、関係者らしき人も気さくに質問等に答えてくれる。 

18世紀から19世紀にかけて、現在はパーキスターンとなっているスィンド地方はもちろんのこと、ペルシャやアラビア、さらに遠くは東アフリカとの交易の拠点であり、この地からそれらの地域へと足を延ばした商人たちも多かったようだ。 

その後、印パ分離前、そして船から飛行機の時代に移るまでは、それなりの賑わいを見せており、カッチ地方随一の商都として栄えたマンドヴィーも、今ではすっかりひなびた田舎町になっている。 

そんな歴史に思いをはせながら、今なお建造されているダウ船を眺めているのもなかなか楽しいものだ。 

<続く>