ガントクへ

実に20年以上の年月を経て、スィッキム州を訪問することになった。前回訪れたのは確か5月だった。平地の暑気から離れてホッと一息ついたものだが、今回はその反対。心地よい気候の平地から入ってくると、西ベンガル州の山岳地のダージリンにせよ、スィッキム州にせよ、日が沈んでからの寒さがとてもこたえる。日本の冬と同じような気温とはいえ、基本的に暖房がないので着込むしかない。しんしんと冷え込む中、さっさと寝てしまえばいいのだろうが、日記その他を書いていると寒さが骨身に沁みるような気がする、などと言っては大げさすぎるだろうか。

バケツに温水を溜めて髪と体を洗う。湯を浴びているときはそれなりに気持ちはいいのだが、前後左右から冷気が迫るため、すぐに身体が震えるほど寒くなってくる。バスタオルで全身を拭くころにはすっかり冷え切っていて、即座にカゼを引いてしまいそうなくらいだ。背中から布団や毛布を羽織り、ベッドの上で足を投げ出して座ってしばらく書き物をしていると、膝に載せたノートPCの温もりが心地よく、湯たんぽのような効果があることに気が付く。

夕方以降の室内の寒さは、西日の当たり具合にも左右されるようだ。ガントクでの宿のこの部屋は、午後の陽がまったく当たりないロケーションになっているようで、日没後に外から戻ってくると、室内のほうが寒かったくらいだ。

今回、ガントクの街に着いてみて、果たしてこれが同じ場所なのかと首をひねりたくなるくらいだった。前回の訪問から20年以上の時間が過ぎているため、いろいろと大きく変わるのは当然であるにしても、これほど景観が変わってしまうとは想像もしなかった。何が大きく変わったのかといえば、ガクトクの建物のタイプが昔と根本的に異なっている。州都ガントクの中心部、MGマールグ界隈では、「昔と今」の鮮やかな対象を目にすることができる。

ガントクの建物新旧 木造二階建て「イグラー」を取り囲むコンクリートの高層建築

「イグラー」の建物は、ガントクにはごくわずかしか残っていない。

マーケットの中にごくわずかに残る「イグラー」と呼ばれる、スィッキム州独自の木造建築だ。普通、建物は緑色に塗られており、トタンで屋根を葺いた二階建てだ。一階部分は店舗、通常二階は住居や倉庫となっている。前に訪れたときには、州都最大の商業地区MGマールグ沿いの店舗のほとんどは木造のこんなスタイルであった。現在、ガントクではこういう建物で新築する人はいない。斜面の街の限られた土地を有効活用するため、いきおい高層化することになる。建物がローカル色のあるものから、全インド共通のコンクリ柱とレンガで作る普遍的なものに置き換わったこと、加えて高層化により空が狭くなり、昼間でも通りが暗く、往々にして陽当たりも悪くなったといえる。

2011年9月に発生したスィッキム地震の際、斜面という元々地盤の軟弱な土地であることもあり、多かれ少なかれ被害を蒙った建物はかなりあったという話は聞くが、全壊してしまったビルもあったというから恐ろしい。地盤がゆるく、傾斜のきつい場所には不釣り合いなほど高層であったことが災いしたということだ。

2011年9月のスィッキム地震で全壊したビルの跡地

しばしば地震が起きるスィッキム州。こういう建物もかなり危険なのではなかろうか。

それはともかく、MGマールグ界隈では、申し合わせがあるのか、それとも条例で定められているのか知らないが、コンクリート造の建物の外装は薄緑色になっているため、ガントクらしい雰囲気と統一感はある。現在では車両乗り入れ禁止の遊歩道となっており、通りの中央には花壇がしつらえてあるなど、なかなか洒落た感じになっている。ライトアップされた夕方以降など、なかなかいいムードになる。

なかなか洒落た眺めのMGマールグ

それでも午後8時を回ると、開いている商店もごくわずかとなり、まるで深夜のような静けさとなるため、これが州都の中心地であるとはにわかに信じ難い気もする。

こんなカフェも現在ではあって当然の州都ガントクのMGマールグ

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