東日本大震災

3月11日に発生した東日本大震災は、複数の大きな地震が同時多発するという想定外のものであるとのこと。地震直後に東北の太平洋側沿岸等を大津波が襲った。甚大な被害により、ほぼ消失してしまった町や集落も少なくなく、電気や通信その他にライフラインが寸断されていること、被災により現地の行政機構が機能を失っているところも多々あるようで、被害の全容が明らかになるまで、まだしばらくかかるはずだ。 

地震発生当日の朝、それまで宮城県周辺で続いていた群発地震は終息の方向にあるとの気象庁による観測がウェブ上で伝えられていただけに信じられない思いがした。地震は現代の技術をもってしても予測し難いものなのだろう。 

地震発生直後から、内外の様々な友人から心遣いの電話、メール等をいただいて大変ありがたく思っている。同時に日本在住のインド人の方々、とりわけ日本語がよくわからない人たち、あるいは日本語の会話は相当できても、日本語の読み書きのできない人たちは少なくない。すると震災に関する迅速な文字情報の欠如により、日本に住んでいながらも海外から伝えられるニュースに頼る部分が少なくないことに気がついた。もちろんこれは在日のインド人に限ったことではなく、その他すべての国の人たちに共通するものであるのだが。 

2005年12月のスマトラ沖を震源とする巨大地震により、インドネシアや周辺各国に押し寄せた津波被害を彷彿させる、恐ろしい映像がテレビ等で流れているのを見て「これは大変なことになっている」と背筋が凍る思いをしていると、今度は福島県の原子力発電所の爆発事故のニュースが飛び込んできたのは昨日のこと。地震・津波被害に加えて、スリーマイル島、チェルノブイリに続く重篤な原発事故発生か?と日本国内外のメディアが注視しているところだ。まるで近未来の大災害を描いたSF映画のシーンかと思うような映像や出来事が次々と伝えられている。 

私たちのライフスタイルがいかに進化しようとも、突如降りかかってくる天災の前では無力である。ほぼ定期的に繰り返される大地震のメカニズム、それに伴い発生する津波等から自らを守る手段はない。ひとたびそうした災害が発生すれば、普段はごく当たり前に享受している幸福、安心、平和が一瞬のうちに吹き飛んでしまう。 

観測史上初とされる未曾有の大災害で亡くなられた方々のご冥福をお祈りする。被災地では今も避難されている方々、救助を待っておられる方々も多い。これらの土地ではまだ気温が低く、雪が舞っていたりもする。被災された方々の心痛、また救援活動に従事される方々の苦労は測り知れないが、どうか一日でも早い復興をと願わずにはいられない。

キングコブラの生態

先日、インドで放送されているナショナル・ジオグラフィック・チャンネルにて、キングコブラを取り上げた番組を見た。

体長最大5.5mにもなる大型種であるとともに、象をも倒すといわれる最強の毒蛇であり、30年も生きる長寿のヘビでもある。南アジア、東南アジアそして中国南部あたりにまで広く棲息しているが、最も棲息数が集中していると言われるのがインド南西部の西ガーツ山脈。風光明媚で降雨や多様な植生に恵まれた土地だが、同時にヘビの仲間たちにとっても好ましい環境であるらしい。

番組の前半部で、そうした地域のある民家にキングコブラが侵入し、一家が大慌てで逃げ出すところからストーリーが展開していく。家の人はキングコブラの保護と生態の研究をしているARRS (アグンベー・レインフォレスト・リサーチ・ステーション)に電話で連絡して、これを捕獲しに来てもらう。

この組織については、この団体のウェブサイトがあるのでご参照願いたい。

ARRS (Agumbe Rainforest Reserch Station)
上記のウェブサイト上で、ARRS NEWSKing Cobra ArticlesKing Cobra diariesといった項目にて、彼らの活動やその日常等を世間に広く発信している。またQuestion & Answersでは、キングコブラ飼育者(主に動物園か?)その他からの質問に対して回答している。

この番組では、ARRSが世界で初めてキングコブラに電波発信器を取り付けて追跡することに成功したことを取り上げている。捕獲したオスとメスにそれぞれ麻酔をかけて電波を発信する装置を埋め込む手術を施した後にこれを再び野山に放す。これらの動きを追うことにより、これまであまりよくわかっていなかったキングコブラの生態を調査しようという試みである。

加えて人里近いところに棲み着いていたコブラを人間の生活圏から離れた場所に放した場合、果たして新しい環境に居つくのか、それとも元々居た場所に戻ってしまうかについて知るという目的もあるとのことだ。つまり捕獲してから、住民に害を及ぼさない場所に移すというリロケーション行為自体が意味のないこととなる可能性もあるらしい。

そう懸念されるにはもっともな理由があるようだ。人口の増加に伴って人々の生活圏が広がるに従い、水田等の耕作地も増える。するとその地域では人々が生産する穀物を求めて集まり繁殖するネズミが増える。ネズミを主な獲物とするラットスネークという無毒のヘビもそのエリアで数を増やすことにつながる。だが体長が最大2.5mにもなるラットスネークの天敵はキングコブラであるとのこと。前者は後者の好物であるのだ。

キングコブラの体内に埋め込んだ発信器は2年間に渡って、その個体がいる場所を発信するとともに体温の情報も伝える機能を持っているが、電波は自体微小なものであるようだ。そのためアンテナを持ったボランティアたちがジャングル内を徒歩で分け入り、ヘビから発信されるシグナルを拾い続ける様子も取り上げられている。ひとたびシグナルが途切れて追跡を継続できなくなってしまうと、その時点でプロジェクトが失敗となってしまうのだ。

映像で眺めても、キングコブラの存在感には圧倒的なものがある。サイズはもとより、鎌首を持ち上げたときのおどろおどろしい姿、他のヘビも捕獲して食べてしまう獰猛さ、加えて水場での泳ぎの巧みさにも驚かされる。水上をしなやかに滑るようにして高速で進んでいく。

この猛毒ヘビの移動範囲は非常に広く、それはまさに懸念されたとおりであったそうだ。とりわけオスのほうは7か月で75キロも移動していたというから驚きだ。つまり捕獲したキングコブラのリロケーションにはあまり意味がなかったということになる。

繁殖期のキングコブラの求愛行為、交尾等も取り上げられている。そしてオスが他のオスに縄張りを奪われて追放されるという出来事が続くのだが、すでに体内に卵を宿しており、新たにやってきたオスにとって思い通りにならないメスがこれに噛まれて死ぬという凄惨な映像もあった。

一般的にコブラは他のヘビや同種のコブラの毒に対する耐性があると考えられているようだが、オスは相手を執拗に噛んで大量の毒を注入(キングコブラは相手に与える毒の量を自身で調節できる)させていた。死んだメスはARRSで解剖され、17個の卵を持っていたことが確認されたという。

他のキングコブラのメスによる巣作りの様子も取り上げられていた。表面がクシャッとした感じの卵が孵化して出てくる小さなヘビたちの姿が映し出される。赤ちゃんということもあってか、生まれたての顔はなかなか可愛かったりする。だがすでにこの時点で非常に強い毒を持っているのだという。

それでも身体が小さいうちは、肉食の鳥類や他のヘビ類の餌食となってしまうか餌をうまく捕食できずに死んでしまうため、無事に成長して大人になることができる個体はごく一部だそうだ。

とても興味深い番組であったのでindo.toで取り上げてみたいと思ったが、その番組をフルに見られる動画がネット上に存在しないと話にならない。そこでYoutubeで探してみると、まさにその動画がアップロードされていた。

Secrets of the king cobra National geographic Channel India Part 1

Secrets of the king cobra National geographic Channel India Part 2

Secrets of the king cobra National geographic Channel India Part 3

Secrets of the king cobra National geographic Channel India Part 4

この番組はすでにインドの他のチャンネルでも放送されているようで、News 9 TVによる同じ映像もあった。こちらは英語版である。

THE KING OF KARNATAKA 1

THE KING OF KARNATAKA 2

THE KING OF KARNATAKA 3

上記のリンク先に限ったことではないが、ウェブ上に出回るこうしたテレビ番組からの動画は往々にして著作権上の問題をはらんでいるものだが、同時にそれを目にする機会を逃してしまった人たちや放送される地域外の人々に貴重な『知る機会』を与えるものである。エンターテインメントを除いたこうした『堅い』内容のプログラムについては、二次利用できるようにより社会に還元される部分も大きいのではないかと思う。

蛇足ながらコブラ関係でこんな動画もあった。

Leopard Cub Vs King Cobra

やんちゃな幼い豹がキングコブラをからかう様子だが、このヘビの怖さを知らないので無邪気なものだが、画面で見ているこちらはハラハラさせられてしまう。

※プリー 4は後日掲載します。

プリー 3 悲しい浜辺

 浜辺を散策する。海の広々とした眺めが気持ちいい。だが水平線ばかり眺めて歩くわけにもいかない。すぐ裏手が漁村になっており、このあたりの住民たちのトイレも兼ねているからである。 

そんな海岸だが、ある思いもかけない生き物の姿を見つけたときには嬉しくて飛び上がりそうになった。 

「おぉ、海亀じゃないか!」

ドキドキしながら近寄って眺めていると、通りがかりの観光客とおぼしきインド人グループも立ち止まってそれを見ている。

3、4人が立ち止まっていると、さらに4、5人、さらに数人・・・と人が増えてくる。

 

「動かないね・・・」

その中のひとりが恐る恐る近づいて、つま先で軽く突いてみるが反応なし。

「死んでるのかな?」と他の者が近づいて覗き込む。寿命の尽きたカメが波に打ち上げられたのであろうか。特に大きな外傷なども見当たらない。

だが浜辺を北に向かって進んでいくと、さらに幾つかの海亀たちの遺骸を見つけた。ひとつ、ふたつ、みっつ・・・全部で10匹は見かけただろうか。それらを仔細に調べてみるまでもなく、なぜ彼らが死んでいるかがわかった。多くは漁師の網が絡みついていたからだ。ちょうど産卵期に当たることもあり、海亀たちは沿岸を回遊している。そのためこうして仕掛けにかかってしまうのだ。

私にとっては水族館以外で初めて目にする野生の海亀であったのだが、こういう形で対面することになったのは残念だ。もちろんこのあたりでも保護動物に指定されている生き物であるとはいえ、海で生計を立てる人々が生業のために活動するエリアと重なるがゆえの悲劇である。

死んでしまった亀たちはどうなるのかといえば、どこかの国なら食肉として売りに出されそうなものだが、ここでは砂地に埋められてしまう。浜辺を歩いていると、そうした亀の身体の一部が砂地から露出している様子もいくつか目にした。

波打ち際にそのまま放置される個体もある。それらはどこからともなく集まってくるカラスその他についばまれることになる。

オリッサ沿岸ではオリーヴ・リドレー(日本語ではヒメウミガメと呼ばれる)という種類の海亀が多く棲息していることで知られているが、同時にこうした漁業関係による事故、港湾建設や内陸の都市化からくる環境の変化や汚染等により、今後が懸念されているということだ。

Endangered Olive Ridley Turtles (The Wild Foundation) 

ちょっと歩いてみただけでずいぶん多くの海亀たちの死を目にしてかなり気になったが、その反面この地域の自然がまだまだ豊かであることの裏返しかもしれない。

また、こうした状況は放置されているわけでもないようだ。NGO等の努力により、オリッサ州総体としては亀たちの死亡数はかなり減っているともいう。 

Huge drop in sea turtle mortality at Orissa rookery (express india)

もちろん行政としても、海亀をはじめとする野生動物の保護活動に取り組んでいることはよく知られている。

 Sea Turtle Conservation (Forest & Environment Department, Govt. of Orissa)

環境保護といえば何でもそうだが、人々の活動と環境をいかにうまく両立させるか、私たち人間が環境に与えるネガティヴな影響をいかにミニマイズするかという試みである。

プリーの海岸に限ってみても、これは漁師たちだけの問題ではなく、彼らの獲った魚を食べている私たちはもちろんのこと、地域全体で漁民たちの生活や魚という食材の供給と海亀の棲息をいかに両立させることができるかという観点も大切だ。

漁村近くのあちこちに海亀の遺骸が散在しているほど、この海に棲む大型爬虫類の棲息数に恵まれている今のうちに、私たちが取り組まなくてはならないことであろう。

<続く>

番外 Googleで眺める景色 チリカー湖

 オリッサ州のチリカー湖といえば、世界で2番目に大きな汽水湖として知られている。太古には湾であったものが、潮流の関係でサンドバーが形成された結果、奥行きのあまりない低地に遮られた湖が出来上がることになったとされる。 

例によってGoogleで眺めてみても、非常に面白い地形であることがよくわかる。長く続く浜のすぐ背後に湖がある。

 ここが海とつながっている部分で、潮の状態により湖と海の水が行き来するのだろう。

 広大な低湿地帯とおぼしき地域も多く、湖内もエリアによって水深が大きく異なるはずだ。

貴重な自然環境であるとともに、イラワディ・ドルフィンが棲息していること、渡り鳥その他の多様な野鳥の宝庫であり、それらが餌とする魚類や甲殻類も種類が豊富であることがよく知られている。 

モンスーン期には非常に沢山の雨が降る地域であることから、雨季と乾季とではずいぶん異なる景観が広がることだろう。 パソコンの画面で眺めていても、大地の姿というものはとても興味深い。 

さて次の休みにはどこに出かけてみようか・・・?

Googleで眺める景色 4  ガンジス上流と水源地

 やがて流れはハリドワールからリシケーシュへとたどると山間部にと入ってくる。

 デーワ・プラヤーグコーテーシュワル・ダムと遡上していくと、すでに山間の深い谷間を流れている。地形からしてかなり急流であろう。大規模な崖崩れの痕らしきものも見える。川沿いにいくつか集落も見える。特に橋もないようなので、両岸はすぐそこに見えても、互いに『ヨソの世界』みたいな感じではないだろうか。 このあたりで景色が開けているところといえば、テヘリー・ダムとその先でちょっとした扇状地が広がる集落。 

さらに進むとウッタルカーシーの町がある。少しでもまとまった平坦な土地があれば、居住地あるいは農地として有効に活用されている印象を受ける。だがそこから先に行くと町らしきものは見当たらなくなってくるし、規模の小さな集落も少なくなってくる。 しばらく進むと、ローハリーナグパラー・ハイドロ・プロジェクトと表示されているものが目に入ってくるが、このあたりにダムを造る計画でもあるのだろう。 

さらに上流へとたどると急峻な山岳の合間を縫うように進むことになるのだが、突然広い川床が見えてきた。周囲の景色に雪らしきものが見えるため、川床が白くなっているのは砂ではなく、降雪のためなのかもしれない。気候も厳しく、何かにつけて不便な土地に違いないと思うが、それでも川沿いの斜面には集落があり、人々が暮らしている。 やがてガンゴートリーの集落が見えてくるあたりになると、周囲を4000~5000メートル級の峰々が囲んでいる。 

ガンゴートリー氷河の端であり、ガンジス河の始まりでもあるゴームクはこのあたりだ。そこからさらに上の氷河の張り付いた山の姿はこんな風になっている。 

ガンジス河の本流に限らず、下っていくに従い合流してくる支流も同様に、こうした氷河なり、山間の積雪や湧水なりを水源としている。沢山の細い流れが次第に合わさり、やがて大きなひとつの河となる。最後には海へと注ぎ込まれるわけだが、今度は大海から蒸発した水分が雲となり、雨となって大地に降り注ぐことにより、それがまた河の水となって流れていく。 

私たちの身体には常に血液が流れているが如く、絶え間なく水が循環している大地もまたひとつの大きな生命体であることが感じられ、人間もその大きな命の中の一部(限りなくちっぽけな存在だが)であることを思い起こさずにはいられない。大地は生きている。 

<完>