続 劇場『雑踏』 1

しばらく前に、The Trainという映画を観た。
妻子とともにバンコク在住、広告会社に勤める演じる主人公ヴィシャール・ディクシト(イムラーン・ハーシミー)が、通勤時にBTS車内で知り合った人妻ローマー・カプール(ギーター・バスラー)と恋に落ち、連れ込んだホテルの客室でふたりは暴漢に襲われる。ヴィシャールが殴打されて気絶している間にローマーは暴行されてしまう。
その後、ヴィシャールの連絡先や家族構成などを知ったトニーという名の犯人にたびたび金を要求される。ドナーさえ現れれば、すぐにでも臓器移植を必要とする一人娘のため夫婦で蓄えてきた貯金にまで手を出すことになってしまう。
しかしここにきて、実は不倫相手のローマーという名は彼女が勤めていた職場の別人のもので、しかも彼女と暴漢はグルで同様の手口で様々な男たちから現金を巻きあげる常習犯であることが判明し、ヴィシャールは娘の手術費用と妻から失った信用を回復すべく立ち上がるというもの。
イムラーン・ハーシミーがよく出演する不倫のもの映画のひとつで、半月もすれば観たことさえも記憶からキレイに消え去ってしまう程度のものではあった。近年インド映画の撮影でよく利用されるタイだが、街中の色彩豊かな盛り場風景はこういう作品中でなかなかサマになってカッコいいと改めて感じ入った次第である。同時に、その場限りではなくこのようにして後から後から脅されるような目に遭ったら恐ろしいなぁと思っていたら、昔初めて海外旅行に出たときの記憶が、ふとよみがえってきた。

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素敵な図版満載のガイドブック

EYEWITNESS INDIA
『これはなかなかいいよ』
手にとって薦めてくれたのはインドに長く暮らす親友L君だった。彼にはいつも何かと世話になっている。
イギリス系の出版社DK (Dorling Kindersley)から出ているEYEWITNESS TRAVEL GUIDESというシリーズのINDIAという本である。表紙のデザインは凡庸だが、ひとたびページを開いてみれば、他の多くのガイドブックとの違いは明らか。エントリーされている土地の多さでは、LP(ロンリープラネット)のINDIAに匹敵する。しかしこれとはまったく性格が違う本なのだ。

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名車の系譜 2

ミニ
ミニ
兄の子
ところで『ミニ』といえば、世界で最もポピュラーなイギリス車であることに誰も異論はないだろう。1959年から2000年にかけて、40年以上の長きに渡り数々のマイナーチェンジを繰り返しつつ、ヴァン、ピックアップ、モーク(あまり知られていないが軍用のジープのようなタイプ)そしてスポーツカーとしてのミニ・クーパーと様々なバリエーションの車種を世に送り出してきた。
ミニのジープ仕様は主に軍用
このミニに、どこかインドのアンバサダーの面影を感じる人も少なくないと思う。それもそのはず、モーリス社のオックスフォード・シリーズ?のインド版が現在のアンバサダーだが、先述のベイビー・ヒンドゥスターンの本家モーリス版であるマイナーをデザインした<アレクス・イグノスィス(Sir Alexander Arnold Constantine Issigonis)が、同じくモーリス社のミニ・マイナーとして開発したのがこのミニなのだ。そんなわけでアンバサダーことオックスフォード・シリーズ?から見れば、兄の子つまり甥にあたる。
ともに長く親しまれたイギリス発のクルマ
イギリスのモーリスとは、もともと自転車を製造していた創業者が1910年に設立した会社で、イギリスの自動車産業を代表する企業にまで成長した。1952年には長年ライバルであったオースティン・モーターと合併してBMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)となる。その後1967年からはBLMC(ブリティッシュ・レイランド・モーター・コーポレーション)の傘下企業となる。そして1994年からはBMW社により買収されて以降、これまで保有してきたブランドをめぐる合従連衡の動きの中、これらの一部が独立したり切り売りされたりといった変遷があったが、もともとモーリスが開発した『ミニ』ブランドは、現在もBMWの手中にある。
オックスフォード・シリーズ?とミニ、どちらもイギリス発の最も長い期間親しまれたクルマとして人々の記憶に残ることだろう。
やはり血は争えない?
現在も生産が続くアンバサダーと、フルモデルチェンジする前のミニに共通する面影があるように、2001年に出たアンバサダーの新型モデルAVIGO(従来のモデルと並行して生産)とフルモデルチェンジ以降のミニのデザインの方向性もずいぶん近いように感じる。ああいうカタチのクルマをモダナイズすると似た感じになってしまうのかどうかわからないのだが、今や相互の行き来や縁もなくなってしまったとはいえ、やはり『近親者』であるがゆえのことかもしれない。
新型アンバサダー AVIGO
フルモデルチェンジ後のミニ
〈完〉

名車の系譜 1

Morris Oxford Series?

インドを代表するクルマ
各国のメーカーが参入してきてホットなクルマ市場となって久しいが、今でもこの国の道路でインドらしさを主張しているのが、現在もまだ多く走っているクラシカルな形をしたクルマたちの存在だろう。その中の代表格といえば言うまでもなくアンバサダーだ。パーキスターン、バングラーデーシュなど周辺各国では、それぞれ近接地域のインド国内とよく似た眺めが広がっているが、街中の看板の中に見られる文字が違ったり、企業名が馴染みのないものであったりといったことと同時に、このアンバサダーの姿が普遍的に見られるかどうかが、インドと『異国』の眺めの違いを特徴づけるひとつの要素となっていることは言ってもよいのではないだろうか。
記録的な長寿モデル
冒頭に登場した写真、チラリと眺めてインドのアンバサダーにしてはグリルの形状が違うな?と気づかれたことだろう。実はこれはイギリスのモーリス社が1956年から59年にかけて製造していたオックスフォード・シリーズⅢというモデル。このクルマの『インド版』がヒンドゥスターン・モータースにより現在も生産が続くアンバサダーである。本国でとうの昔に生産が中止となり、クラシックカーとして人気のクルマである。
しかし海の向こうのインドでは生産開始から現時点まで、なんと50年間も『現行モデル』として親しまれている非常に稀有な長寿モデルとなっている。
もちろんその間、幾度も細部の仕様の変更が重ねられており、心臓部にあたるエンジンは生産開始当初のものとは違うもの(日本のいすゞが設計)が搭載されており、本家のオリジナル『オックスフォード・シリーズⅢ』と比べて内装にプラスチック部品が多用されるようになっている。内装は日本の20年くらい前の大衆車や商用車のそれみたいな調子でいまひとつだ。この部分についてはやはりインドにおける『実用車』なので、あまりに多くを期待するわけにはいかないのだろう。加えて独自のいろんなバージョンのラインナップもあることから、50年前のものとまったく同一とは言い難いが、それでも一度もフルモデルチェンジを行うことなく製造されてきた単一モデルであることは間違いない。
モーリスがインドに送り出した三代目
アンバサダーの製造メーカーであるヒンドゥスターン・モータースは、インドがまだ英領であった第二次大戦中に設立された会社だ。当時のイギリス自動車産業を代表するモーリス社と深いつながりがあった。
モーリスが本国で1938年から48年にかけて製造していたモーリス・テン・シリーズMというモデルは、記念すべきインド初の国産車ランドマスターとして1942年に生産開始された。
Morris Ten Series M
このモデルを引き継いで出てきたのが1950年代初頭からモーリス・オックスフォード・マイナーのインド版ベイビー・ヒンドゥスターンだ。
Morris Oxford Minor
イギリス本国では1948年から54年にかけて造られていたモデルである。このモデルは今でもごくたまに現役で路上を走っていたり、展示されていたりするのを目にすることがある。これは1957年にインドで現地生産が始まったモーリス・オックスフォード・シリーズⅢに取って替わられることになる。まさにこのモデルこそが、今私たちが目にしている「アンバサダー」である。
Morris Oxford Series ?
Morris Oxford Series ?の運転席

『新車で購入できる』ヴィンテージカー
アンバサダーのオリジナルであるモーリスのオックスフォード・シリーズⅢ自体が人気のヴィンテージカーのひとつであることはもちろんのこと、こんな大昔のモデルを新品で買うことができるというメリットに魅かれる人は少なくないらしい。インド国外で、日本を含めた諸外国にも少なからずファンがいるようで、そうした人たちが愛車(つまりアンバサダー)について語るサイトも散見される。

現在製造されているクルマとはいえ、もともとの設計が古いこと、生産体制や品質管理の問題もあってか故障・トラブルが頻発してなかなか大変らしい。このクルマを扱い慣れた修理屋や部品類の豊富な供給があるインド国内ならともかく、外国に持ち出してこれを乗り回すとなると、相応の覚悟とメカニカルな知識等が要求されるようだ。
だが、今でも生産されているクルマであるため、手間暇さえかければあらゆる純正パーツを手に入れることができるという安心感はあるだろう。
〈続く〉

コピーは巡る

いつの時代にあっても、音楽、映画、パソコンソフト、書籍、装身具、衣類と、あらゆる分野で海賊版、コピー商品といったものが出回っている。発売元が複製されることを防ぐため様々な工夫を重ねても、行政に圧力をかけて法の整備へと働きかけても、違法コピーが続く状態に大きな変わりはない。
とりわけデジタル製品、CDやDVDといったメディアの中に収まるソフトについて、往々にしてまっとうなオリジナル商品と品質に大差ないという点が、その他の工業製品のコピーものと異なる部分だ。
購買者たちにとって、海賊版を手にすることのメリットとは何だろうか?と問うまでもない。
・新作がすぐに見られる。
・古い作品が安く手に入る。
・数人で回すことによりさらに非常に安い出費で楽しめる。
といったところに集約されるのではないだろうか。
購買者あっての『市場』なので、そこに需要がある限りこれがなくなることはないだろう。誰もが限られた収入で日々暮らしている以上、『同じもの』が手に入るならば、安いほうに流れる。
法的に問題があることをはじめ、海賊版の氾濫が映画産業の利益を損ない、結果としてそのツケが映画ファンたちへと回ってくるといった大所高所からの視点を欠くこともあるだろうが、いくらメディア等を通じて市民に対する啓蒙を試みても大した効果は上がらないかもしれない。非合法な銃器や薬物のように、人目につかないところでコッソリと取引されているのならともかく、白昼堂々と街中で販売されていれば、こうしたものを買うことに対する罪悪感もあまりなかったりするところも問題だ。

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