名車の系譜 1

Morris Oxford Series?

インドを代表するクルマ
各国のメーカーが参入してきてホットなクルマ市場となって久しいが、今でもこの国の道路でインドらしさを主張しているのが、現在もまだ多く走っているクラシカルな形をしたクルマたちの存在だろう。その中の代表格といえば言うまでもなくアンバサダーだ。パーキスターン、バングラーデーシュなど周辺各国では、それぞれ近接地域のインド国内とよく似た眺めが広がっているが、街中の看板の中に見られる文字が違ったり、企業名が馴染みのないものであったりといったことと同時に、このアンバサダーの姿が普遍的に見られるかどうかが、インドと『異国』の眺めの違いを特徴づけるひとつの要素となっていることは言ってもよいのではないだろうか。
記録的な長寿モデル
冒頭に登場した写真、チラリと眺めてインドのアンバサダーにしてはグリルの形状が違うな?と気づかれたことだろう。実はこれはイギリスのモーリス社が1956年から59年にかけて製造していたオックスフォード・シリーズⅢというモデル。このクルマの『インド版』がヒンドゥスターン・モータースにより現在も生産が続くアンバサダーである。本国でとうの昔に生産が中止となり、クラシックカーとして人気のクルマである。
しかし海の向こうのインドでは生産開始から現時点まで、なんと50年間も『現行モデル』として親しまれている非常に稀有な長寿モデルとなっている。
もちろんその間、幾度も細部の仕様の変更が重ねられており、心臓部にあたるエンジンは生産開始当初のものとは違うもの(日本のいすゞが設計)が搭載されており、本家のオリジナル『オックスフォード・シリーズⅢ』と比べて内装にプラスチック部品が多用されるようになっている。内装は日本の20年くらい前の大衆車や商用車のそれみたいな調子でいまひとつだ。この部分についてはやはりインドにおける『実用車』なので、あまりに多くを期待するわけにはいかないのだろう。加えて独自のいろんなバージョンのラインナップもあることから、50年前のものとまったく同一とは言い難いが、それでも一度もフルモデルチェンジを行うことなく製造されてきた単一モデルであることは間違いない。
モーリスがインドに送り出した三代目
アンバサダーの製造メーカーであるヒンドゥスターン・モータースは、インドがまだ英領であった第二次大戦中に設立された会社だ。当時のイギリス自動車産業を代表するモーリス社と深いつながりがあった。
モーリスが本国で1938年から48年にかけて製造していたモーリス・テン・シリーズMというモデルは、記念すべきインド初の国産車ランドマスターとして1942年に生産開始された。
Morris Ten Series M
このモデルを引き継いで出てきたのが1950年代初頭からモーリス・オックスフォード・マイナーのインド版ベイビー・ヒンドゥスターンだ。
Morris Oxford Minor
イギリス本国では1948年から54年にかけて造られていたモデルである。このモデルは今でもごくたまに現役で路上を走っていたり、展示されていたりするのを目にすることがある。これは1957年にインドで現地生産が始まったモーリス・オックスフォード・シリーズⅢに取って替わられることになる。まさにこのモデルこそが、今私たちが目にしている「アンバサダー」である。
Morris Oxford Series ?
Morris Oxford Series ?の運転席

『新車で購入できる』ヴィンテージカー
アンバサダーのオリジナルであるモーリスのオックスフォード・シリーズⅢ自体が人気のヴィンテージカーのひとつであることはもちろんのこと、こんな大昔のモデルを新品で買うことができるというメリットに魅かれる人は少なくないらしい。インド国外で、日本を含めた諸外国にも少なからずファンがいるようで、そうした人たちが愛車(つまりアンバサダー)について語るサイトも散見される。

現在製造されているクルマとはいえ、もともとの設計が古いこと、生産体制や品質管理の問題もあってか故障・トラブルが頻発してなかなか大変らしい。このクルマを扱い慣れた修理屋や部品類の豊富な供給があるインド国内ならともかく、外国に持ち出してこれを乗り回すとなると、相応の覚悟とメカニカルな知識等が要求されるようだ。
だが、今でも生産されているクルマであるため、手間暇さえかければあらゆる純正パーツを手に入れることができるという安心感はあるだろう。
〈続く〉

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