コピーは巡る

いつの時代にあっても、音楽、映画、パソコンソフト、書籍、装身具、衣類と、あらゆる分野で海賊版、コピー商品といったものが出回っている。発売元が複製されることを防ぐため様々な工夫を重ねても、行政に圧力をかけて法の整備へと働きかけても、違法コピーが続く状態に大きな変わりはない。
とりわけデジタル製品、CDやDVDといったメディアの中に収まるソフトについて、往々にしてまっとうなオリジナル商品と品質に大差ないという点が、その他の工業製品のコピーものと異なる部分だ。
購買者たちにとって、海賊版を手にすることのメリットとは何だろうか?と問うまでもない。
・新作がすぐに見られる。
・古い作品が安く手に入る。
・数人で回すことによりさらに非常に安い出費で楽しめる。
といったところに集約されるのではないだろうか。
購買者あっての『市場』なので、そこに需要がある限りこれがなくなることはないだろう。誰もが限られた収入で日々暮らしている以上、『同じもの』が手に入るならば、安いほうに流れる。
法的に問題があることをはじめ、海賊版の氾濫が映画産業の利益を損ない、結果としてそのツケが映画ファンたちへと回ってくるといった大所高所からの視点を欠くこともあるだろうが、いくらメディア等を通じて市民に対する啓蒙を試みても大した効果は上がらないかもしれない。非合法な銃器や薬物のように、人目につかないところでコッソリと取引されているのならともかく、白昼堂々と街中で販売されていれば、こうしたものを買うことに対する罪悪感もあまりなかったりするところも問題だ。


先進国や中進国にあっても、ハリウッドや自国制作の作品など、自国映画関連産業の目が行き届く分野においては厳しく監視していても、それ以外の第三国のものとなるとその当事者からの圧力がほとんどないため、野放しとなっていることが多い。
マレーシアのようにタミル系の人口が多い国では、もちろんのこと各地の映画館でタミル映画が上映されている。インドの娯楽映画の人気は高く、ボリウッド映画が公開されているのを目にする機会も多い。どちらもマレー語の字幕とともに上映されており、ファンはインド系人口に限ったものではない。ベンガーリー語その他の言語の作品も店頭に並んでいるのをよく見かけることから、この国の『インド映画世界』はなかなか奥行きの深いものがあるようだ。
そういう土地柄なので、インド系の人々が集住しているエリアでは必ずインド映画ソフトを販売している店がいくつもある。もちろんそれらの多くがきちんとしたライセンスのもとで製品化されたものではない。
インド映画界にとってみれば、自国の法の及ばない他国でインド映画の海賊版の生産と販売がひとつの産業となっていることは由々しき事態だろう。これらは周辺国をはじめとしたアジア各国にも広く輸出されていことは広く知られているところだ。近年、インド政府は同国政府に対して海賊版取締りを強く求めるようになっている。その結果、マレーシアは自国内で規制等を強めるなど努力しているようだが、今のところさほど効果を上げていないように見える。
海賊版を扱う末端の販売者たちを叩いてみても、次から次へと違うチャンネルを通じて販売されることになるのではないかと思う。正規版として市場に出回っている映画ソフトはコピーガードで保護されているとはいえ、複製することがまったく不可能というわけではないうようだ。デジタル製品という性質上、ひとたびマスターとなるデータが手に入ればいとも簡単に、かつ際限なく同じものを作り出すことができる。不特定多数の大衆に公開することにより収益を得ている以上、その中にどんな人たちがいるか知る由もない。作品による利益を享受すべき関係者たちにとっては頭が痛いところだろう。
だが映画関係者たちにも襟を正すべき部分がある。新作封切同時、あるいはそれ以前に出回るコピーについては、作品の興行収益を代表する映画配給システム内部からの流出が指摘されており、映画関係業界自ら厳格な『身体検査』を行なう必要があるようだ。
DVD等の媒体による新作映画のソフト発売時期については、『封切りと同時に』という声も業界内にはある。しかし興業者たちの多くは、そこからくる収益減を懸念して反対に回っているようだ。
また映画ソフトの製造販売は、関連大手企業によるほぼ寡占状態、その結果として価格が統制されがちなことにつながる。映画界の利益を確保するために必要なことであるとは思うのだが、他のモノに比較して価格に市場原理が働きにくい構造になっていることも海賊版が横行する原因のひとつであろう。
また海賊版が出回りながらも正規版の販売がほとんどなされていなかったり、購入可能なタイトルがごくごく限られていたりするといったインド映画の浸透度が低い地域においても、ファンが幅広いタイトルの中から好きなものを容易に購入可能なルートを開拓する努力が必要だろう。人気の作品が正規版で存在しないのに『海賊版追放!』と叫んでもそれを是が非でも観たいと欲する人は納得しないだろうし、先に海賊版が市場を席捲している状態になっているとすれば、必然的に高い価格となる正規版が後から『参入』するのは容易ではない。
国境を越えて、インド映画のさらなる広がりと市場の健全な発展、ひいてはより良い作品がより多く制作されることにより、業界関係者と私たち映画ファンが大きなメリットを分け合うことができるよう願いたい。
Pirate threat to Tamil films (BBC South Asia)

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