素敵な図版満載のガイドブック

『これはなかなかいいよ』
手にとって薦めてくれたのはインドに長く暮らす親友L君だった。彼にはいつも何かと世話になっている。
イギリス系の出版社DK (Dorling Kindersley)から出ているEYEWITNESS TRAVEL GUIDESというシリーズのINDIAという本である。表紙のデザインは凡庸だが、ひとたびページを開いてみれば、他の多くのガイドブックとの違いは明らか。エントリーされている土地の多さでは、LP(ロンリープラネット)のINDIAに匹敵する。しかしこれとはまったく性格が違う本なのだ。

旅行案内書の世界的ベストセラー、LPのガイドブックでは北東州のナガランドやミゾラム等といった入域に制限があるエリアを除き、メジャーな観光地から外国人がほとんど訪れないマイナーな土地まで、見どころ、交通手段、宿泊施設等々細かな情報について、とかくプラクティカルな情報が一杯で旅行の際にとても役に立つ。虚飾や図版を極力排し、ありとあらゆる事柄に関する情報が細かい文字でギッシリ詰め込まれている。同社のガイドブックの日本語版がいくつか出ているのを除けば、この類のガイドブックは日本の出版社から発行されたことはないだろう。
発行元の経営者はもちろん、執筆者たちや編集陣も旅慣れた人たちであることから、ほとんど文字情報のみであっても、システマティックに構成されているので使いづらいことはまったくない。必要に応じて市内地図、ときには部分的な拡大地図も入っているが、これらもとかく移動する、観光するという目的に絞って描かれているため、旅行者という立場においては非常に実用的である。
このDKのINDIAについては、これと路線がまったく異なる。カラフルな写真やイラスト等を豊富に使用して各地の魅力を伝えることに徹している。またそれぞれの土地で目にする建築物、絵画、音楽、街区のプラン、少数民族、動物等々について図説を用いての概説がなされており、これらを眺めているだけで楽しくなってくる。文字だけで書かれていると、イメージを頭に描くことできずに読み飛ばしてしまうようなものでも、実際にきれいな図で示されていると訪れたくなってしまうところが多々あるのではないだろうか。Braganza House という植民地地域で大きな影響力があった名家の屋敷内が一部公開されており、以前ゴアに行ったときにここを訪れていたく感動したのだが、これについても見開き２ページ用いた魅力的な記事となっている。国立公園に関する記述も多いが、これまた動物のイラストや写真とともにエントリーされているのでわかりやすい。
変に色気を出しすぎてアレもコレもと詰め込んだ結果、あまり使えない代物になってしまったガイドブックは書店でゴマンと見かけるが、LPとDKについて前者は旅の方法と手段に、後者は土地そのものに関する知識に特化した潔さこそが成功の理由であろう。
実際に旅行に出かけるときはプラクティカルなLPを持参するにしても、家で『どこに行こうかな？』と思いを巡らすとき、旅行を計画するときなどには想像力をかきたてられるDKの本が大いに役立つことだろう。編集陣や執筆者たちの大部分がインド人。道理で内容がしっかり充実しているわけだ。
ページをめくりつつ『ホントだ、これいいねぇ！』と夢中になってのめり込んでいると、L君がすでに購入しており私にプレゼントしてくれた。以来、この本は自宅の机の上でパソコン脇に鎮座しており、表紙を開くたびに旅心を大いに刺激してくれる。L君、素敵な本をどうもありがとう！
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書名：EYEWITNESS TRAVEL GUIDES 『INDIA』
発行元：Dorling Kindersley Limited
ISBN：1-4053-1249-1
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