世界一の大仏プロジェクト

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 カルナータカ州都バンガロールからマイソール方面へ50キロほど進んだラーマナガラムで計画されている「世界最大の仏像」の製作計画に対する環境保護団体等の反発が世間の耳目を集めるようになっている。
 インディア・トゥデイ6月6日号に写真入りで記事が掲載されているのを見た。どこか記憶の片隅にある風景だと思えば、昔の記録的大ヒット映画SHOLAYの舞台であった。取り巻き連中と馬に乗って地域を荒らしまわる大盗賊ガッバル・スィンと若き日のアミターブ・バッチャンとダルメンドラが扮する主役が対峙するインド版西部劇みたいな舞台にまさにぴったり、巨岩ゴロゴロの大地にサボテンならぬ潅木がチョボチョボ生えている広大な景色だ。
 予定されている大仏とは、そのロケーションといい規模といい2001年3月に当時のタリバーン政権により爆破されたアフガニスタンのバーミヤンの石仏を彷彿させるものらしい。こちらは大きなものが高さ55メートルだが、ラーマナガラムで予定されているものは何と217メートルという途方もなく大きなものだ。
 サンガミトラ・ファウンデーションによる「プロジェクト・ブッダ」と呼ばれるこの事業にかかる費用は3億ルピー、500名の彫刻師と2000名におよぶ土木作業員が動員されるという。中央政府の環境・森林省およびカルナータカ州政府の認可を得ているということだが、今後しばらく紆余曲折が続くことになるのだろうか。
 断崖に石仏を彫り出すだけではなく、広報、教育、啓蒙、医療、福祉、観光、商業活動といった様々な活動の拠点となる施設の建設が予定されているという。荒地を耕す以外にこれといって何もない土地に新しい事業が誘致されるということは、地元の活性化や雇用機会の拡大等々、非常に好ましく思えるのだが。表面上は事業主体である同ファウンデーション対複数の環境団体の対立という形をとっているものの、背景には大きな政治勢力の駆け引きがあるのだろう。
 ともあれ大きなものを見物するのは大好きだ。建造にかかる費用以上に価値のあるものになるはずもないが、完成した暁には高さ200メートル超の大仏を眺めにぜひ出かけてみようと思う。さぞ迫力のある眺めに違いない。
Greens see red over Buddha statue project (The Hindu)

追放される喫煙シーン

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 近年、インドでタバコを吸う人がずいぶん減っているように思う。鉄道その他公共の場所での禁煙化がとみに進んでいるこの国、日本に比較して喫煙率はかなり低いようだが、それでもインドで喫煙が原因とされる病気で亡くなる人の数は年間80万人から100万人と言われる。
 そんなインドの保健省から、今年の8月から(あるメディアには7月とも)映画やテレビで喫煙シーンを流すことが禁止されるとの発表があり、波紋を呼んでいる。
 現在のところ未確認とのことだが、ひょっとするとインドは映像から喫煙シーンを排除する世界最初の国となる可能性もあるらしい。
 今後、スクリーンに登場する悪役たちをどう演出していくのかちょっと気になるところだ。安易に紫煙で斜に構えた役柄や退廃した雰囲気を出すのではなく、それなりの工夫が求められるようになる。禁止以前の古い映画については喫煙シーンが映る際に「タバコは健康を害する」と警告を字幕で流すのだという。
 表現の自由にかかわることとはいえ、映画の大衆性と影響力を考えればそういう判断もまあ是とも非とも言えない気がする。喫煙行為への風当たりがとみに強くなっている昨今である。
 だが下記のリンク先(BBC South Asia)記事中の「今度は暴力を助長するから銃器を見せることを禁止するんじゃないか?」俳優アヌパム・ケールのコメントにあるように、政府によるさらなる干渉を危惧する声もあるのはもっともなことだろう。
 個人的にはタバコよりもある意味同調できる部分がある。近年のボリウッド映画の中で、かなり行き過ぎた暴力シーンが少なくないように感じる。ある程度自粛ないしは規制がなされてもいいのではないかと思うのは私だけではないだろう。
 
फ़िल्मी पर्दे पर धूम्रपान पर रोक (BBC Hindi)
Anger at Indian film smoking ban (BBC South Asia)
Smoking scenes banned on screen as India steps up anti-tobacco war (YAHOO ! NEWS)

ビデオ撮影は破格の贅沢?

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 ケララの南沿岸部から州境を越えて少しタミルナードゥに入ったところにあるパドマナパプラム宮殿の入口で入場料とカメラ持込料を支払う。前者が10ルピーで後者は25ルピー。この国でこういう場所でたいていそういうことになっているので、インド人たちは特に何とも思わないのだろう。でも外国人の目からすれば、本来ならば主たる入場料に付随するはずのものに倍以上払うのはヘンな気がする。
 入場券売場の壁には料金一覧表がかかっていた。ビデオ持込料の金額を見て目を疑う。なんと1200ルピーと書かれているからだ。120人分の入場料にして、スチルカメラ48台分の持込料に相当する。「あるところから取る」にしても、ずいぶん法外な金額ではないだろうか。
 おおむね写真撮影よりも撮影者が静止する時間が長いため、スムースな人の流れを阻害するという部分はあるかもしれない。今のインドでは特に貧しい層でもなければ、機種さえ選ばなければ何かしらのカメラは購入できるが、ビデオカメラの場合はまだまだそうはいかないので、特別な贅沢品であることも間違いない。
 だがスチルカメラ自体がピンキリで、安いコンパクトカメラからプロユースの高級カメラまでいろいろある。ハイエンドモデルを手にして撮りまくる外国人は多いし、インド人の中にもそういう人たちをチラホラ見かけるようになってきているではないか。近ごろでは多機能なデジタルカメラの普及により、カメラとビデオの境目が曖昧になってきているのが現状だ。
 ひょっとすると撮影料収入そのものが目的なのではなく、本音はこうした障害を設けることにより機材を持ち込む人を減らしたいのではないか、ビデオ撮影はテレビ局などその道のプロのみが行なうべき行為だと認識されているのではないかと想像したりもする。
 〈原則禁止〉で、思い切り吹っかけた金額を「ハイ、どうぞ」と気前良く払ってくれる人だけは特別に扱おうといったところだろうか。観光客はともかく、そこを取材することを目的に訪れた人ならばこれを支払わないわけにはいかないだろう。
 文化遺産以外でも、国立公園などでもビデオ撮影に関してこんなビックリするような額を徴収するところが少なくないようだ。どうもよくわからないが、管理側する側からみてこの手の機器がそれほど憎いのだろうか。
 スチルカメラ、ビデオカメラの別を問わず、インドでは撮影が許可制となっているところが多い。国有財産となっておらず、まだ個人が所有している宮殿等では、カメラの持ち込みそのものが禁じられているところが少なくないようだ。
 規制する側にはそれなりの論理があるのだろう。しかし国の機密に関するもの、治安・保安上問題のあるもの、信仰にかかわるもの除き、特に制約をかける必要があるとは思えないツーリストスポットでの撮影については、もっと鷹揚になってくれてもいいように思う。  
 宿泊施設や交通機関のみならず、こうした「撮影の自由」もまた立派な観光インフラの一部ではないだろうか。
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インドを撮ろう!

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 私たちが日常的に手にするカメラがほぼデジタル化されて久しい。汎用機から高級機種までさまざまなモデルが機能性や画素数を競い合い、短い商品サイクルで次から次へと登場しては消えていく。この流れは間違いなく今後も続くことだろう。
 ひとたびカメラや周辺機器を購入すれば、プリントせずパソコンで眺めている分には「撮る」コストが実質タダになる。手のひらに収まる小さな機種が増えており、また携帯電話にもカメラ機能が内蔵されるようになったので、写真を撮ることが以前よりもずっと手軽に、そして日常的な行為となった。デジタルカメラを手にしたユーザーがシャッターを切る回数は、銀塩時代の三倍以上になったと何かの記事で読んだ記憶がある。
 デジタル写真といえば、ひところまでは画質に満足できるようなものではなく、記録メディアの容量も小さくメガバイト当たりの価格が高かった。ちょっと撮ったらパソコンにデータを落とすか、CDにでも書き込む必要があり余計な荷物や手間がかかるので、旅行には種類やグレードを選ばなければどこでも現地調達できるフィルムを使用する従来のカメラのほうがよほど楽でもあったことがウソのようである。
 デジタルカメラの高画質化と低価格化が並行して進み、メディアも以前よりも安い価格で大容量のものが手に入るようになった。そしてパソコンを介さずメディアを挿入して直接書き込みできる画像データのストレージ機器が市場に出回っている。
 それだけではない。かつてはやたらと画素数にばかり重点が置かれていたのとはうってかわり、カメラそのものの表現力や機能性、そして操作性もずいぶん向上しているようだ。システムの設定等のスムーズな取り扱いはもちろん、電源を入れてからの起動時間、そして連写機能も飛躍的に短くなってきている。ユーザーたちの目的や予算により選択できる幅が大きく広がっている。

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スニール・ダット天国へ召される

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 サンジャイ・ダットの父、インド映画史上に残る大女優であった故ナルギースの夫、1960年代を中心に一世を風靡したスター俳優にして現職のスポーツ及び青年育成大臣のスニール・ダットが、本日5月25日午前3時ごろ、ムンバイの自宅で心臓発作により亡くなった。享年75才、6月6日に誕生日を迎える直前であった。
 1929年、現在のパキスタンのパンジャーブ生まれ。分離独立時にインドに移住し、ムンバイのジャイ・ヒンド・カレッジで学ぶ。ラジオ番組のパーソナリティ兼インタビュアーの仕事を始めたことをきっかけに銀幕の世界に足を踏み入れた。俳優として代表的な出演作には「ミラーン」「ハムラーズ」「マザー・インディア」「メヘルバーン」「グムラーハ」などがある。
 1984年に国民会議派に加入、21年間の政治家生活の間、5回連続で国会議員に当選を果たし、昨年より初めて中央政府大臣職に就くなど、政界でのキャリアも華々しい。
 1981年に「ロッキー」に出演以降、アクション派俳優としての階段を登りつつあった息子サンジャイ・ダットが、80年代後半から90年代前半にかけて自ら引き起こしたドラッグ問題、武器不法所持等々のスキャンダルから立ち直ることができたのは、この偉大な父あってのことであろう。
 近年そのサンジャイと「ムンナー・バーイー M.B.B.S.」で共演すれば「国会会期中にサボッてロケに行くなんて」との声が上がり、昨年12月の津波災害の直後に被災地を視察、「サッカーで気晴らしをすれば」との発言が物議を醸すなど、とかく世間の耳目を集める人物であった。
 本日、遺体が荼毘に付されるのを前にムンバイのサンタクルーズの葬祭場には、政界の大物たちや映画界の大スターたちをはじめ様々な人々が弔問に訪れているようである。
 故人のご冥福をお祈りします。
Parliamentarian Sunil Dutt is dead (Economic Times)