五輪の歴史の中でインドが獲得してきたメダル数は?

いよいよ昨日7月21日から一部種目の競技が始まり、明日23日に開会式が行われる東京五輪。

Tokyo Olympics 2021, Full India Schedule: Events, Dates, Times, Fixtures, Athletes (THE TIMES OF INDIA)

上記リンク先は、インド選手たちが出場する競技の一覧。女子のカヤックと同じく女子の水泳は、インドから初参加の競技・・・と書くと意外かもしれないが、それよりも「意外!」に謂われるかもしれないことは、五輪の歴史の中でインドが獲得したメダル数(色は問わず)は、通算でわずか28個しかないことだ。2012年のロンドン五輪ではボクシングなどで合計6つのメダルを獲得したことは、インド史上初、空前の快挙であったのだ。

ちなみにこの「通算28個」というのがどういう数字であるのか、リオ五輪での主要国のメダル数と比較すると、その少なさがよくわかる。米国121個、中国70個、ロシア56個、日本41個、韓国21個であった。これらの国々がたったひとつの大会でこれだけ獲得しているのに、人口13億のインドが「すべての大会分合計して28個」なのである。人口規模で拮抗する中国は世界有数のメダル獲得王国であることと較べると、実に対照的だ。

これにはもちろん理由がある。五輪を国威発揚の有効な手段とする社会主義国を除けば、五輪の世界は「先進国クラブ」であった(現在もそういう傾向は強い)ため、あまり縁のないものであったこともあるが、インドでクリケット以外では、国際的なレベルの選手たちが出にくい環境であったこともある。庶民の関心の対象がほぼクリケット(東部や南西部など、一部においてはサッカーも)に限られること、それ以外のスポーツで身を立てるということがかなり狭き門となっていることには、やはりスポーツの価値への認知度があまり高くないという文化的・社会的な要因も大きいように思う。

それも2,000年代に入ってからは、かなり大きく変わりつつあるようだ。クリケット以外の分野でも、人々が豊かになるにつれて、健康への関心も高まり、スポーツを楽しむ人々が増えてきていることが裾野を広げているとともに、体育施設の拡充、各種競技の協会が先導するナショナルレベルの選手たちの強化への取り組みも強化されているようだ。近年、陸上競技、レスリング、ボクシング、重量挙げ、テニス、バドミントンなどの国際大会で活躍するインド選手が増えていること、五輪でもメダル獲得者が出ていることは、その現れだろう。

女子スポーツについては、地域的にかなり偏りのある分野もあり、陸上競技といえばパンジャーブ州、ボクシングといえばパンジャーブ州、ハリヤーナー州か北東のマニプル州、重量挙げならばこれもマニプル州というように、頂点を占める選手たちの分布が極端に集中している種目がある。母体となる競技人口そのものに大きな偏りがあるのでは?と想像するに難くない。(おそらくそうだろう。)

これまでが大国にふさわしくない低い水準にあったインド、今後の伸びしろは大きいはず。東京大会での飛躍を期待したい。

しかしながら気になるのは新型コロナの感染状況。7/20時点でインドの1日の新規感染者数は3万8千人余り。いっぽう日本では3,758人であった。インドの人口は日本の約10倍であるため、人口当たりで比較した新規感染者数の規模はほぼ同じだ。インドは「第2波」の収束方向にあり、いろいろ規制等を緩和していく中での下げ止まりといった具合で、日本は「第5波」がまさに爆発しようかという状況。そんな中での五輪開幕だ。とても喜べるような状況にはないことがとても残念であるとともに、大会と「第5波」の行方がとても気がかりである。

東京五輪特集

インディア・トゥデイ2021年7月21日号

こちらはインディア・トゥデイ7月21号。今号の特集は、今月23日に開幕する東京五輪出場のインド人選手たち。

私たちにとっては「こんな時期に正気の沙汰ではないオリンピック」だが、ベストを尽くしてこの大会まで自身のコンディションを上げてきた選手たちには罪はない。出場選手たちが最高のパフォーマンスを発揮できるように祈るとともに、1年の延期というたいへん厳しい試練を乗り越えてきたアスリートたちを心から応援したい。

もちろん応援できるのは、テレビ画面その他のメディアを通じてのみ、ということになるが。せっかく日本で開催されるにも関わらず、地元との交流がほとんどないのは、もちろん仕方ないとはいえ当然残念。

次に開催される五輪は、このようなケチがつくことなく、誰もが気持ちよく楽しめる、そして選手たちが地元と交流も行なうことができる、本来の平和の祭典であることを信じたい。

金メダルをインドにもたらすか? 東京五輪出場のヴィカース・クリシャン

インドから3度目の五輪出場となるヴィカース・クリシャン・ヤーダヴ。インドのボクシング界の至宝と呼ばれ、メダルへの期待が大きい選手。インドの男子ボクシングといえば、ハリヤーナー州のビワーニー地区が有名だが、やはりこの人もそこで強くなったそうだ。

特徴的なのは、「明日のジョー」みたいな具合で頭角を現すボクサーが多いインドで、この人の出身は中流家庭で物質的な不足はなく、経済的に恵まれた環境に育ったらしい。裕福な男子が早いうちから高いレベルのトレーニングを積んで、世界レベルで闘うというエリートコースがすでにインドのボクシング界でも出来上がりつつあるのかもしれない。

ヴィカースが、東京五輪でもっとも良い色のメダルを得て表彰台の頂点に立ち、ジャナガナマナが流れる様子をテレビで観たいものだ。

 

スシール・クマールの転落

先月、インドの有名レスラー、スシール・クマールの逮捕のニュースが流れたときは、心底びっくりするとともに、ともに警官の息子という共通点、兄弟子、弟弟子という先輩・後輩の関係にある23歳の若いレスラーを殺害したとあって、よほど深い確執というか、怨恨があったのかと暗い気持ちになった。

だが、「THE WEEK」の最新号によると、実はそんなものではなくて、ともに対立し合うギャングに所属していて、そのギャング組織同士の抗争によるもので、銃器を使用しての殺害であったとのことで、本当に驚いた。

インド政府から国民的な大活躍をしたスポーツ選手に与えられる「ケール・ラトナ」、加えてアルジュナ賞、パドマ・シュリーといったインドで一流の表彰を受け、今は後進の指導に当たるだけではなく、学生スポーツの振興に当たる団体のトップも務めているというのに、そんな彼がギャングの一味で、その抗争で殺人まで犯したとは!

国外的には、レスリングで北京五輪の銅メダリスト、ロンドン五輪での銀メダリストと言ったほうがわかりやすいかもしれないが、一流のレスラーであり、オリンピアンであり、これまたインドでもトップクラスのアスリート出身の名士のはずだったのに。

記事を読んだ後、どうしようもなく陰鬱な気分になってしまった。

 

Sushil Kumar’s road to perdition (THE WEEK)

東京五輪で金メダルなるか?ミドル級女子選手、プージャー・ラーニー

プージャー・ラーニー選手

インドの女子ボクシングといえば、これまで各種大会で華々しい成績を挙げてきたフライ級のレジェンド、メアリー・コム選手のおそらく花道となるであろう東京五輪。メアリーの活躍が期待されるところで、ぜひ良い色のメダルを持ち帰って欲しいところだ。同じくメダルが期待されているミドル級のプージャー・ラーニー選手。こちらはインド女子選手ながら重量級というのも頼もしい。

こちらの動画は本日までUAEで開催されていたアジアボクシング連盟のチャンピオンシップの決勝戦の様子。プージャーはウズベキスタン選手に判定勝ちして優勝。女子の分野でもウズベキスタン、カザフスタンというボクシング大国の選手たちが大勢上位入賞している中、そうした強豪を倒して見事優勝してみせるとは大したもの。相手のリードパンチをかいくぐり、距離を詰めてインファイトで勝負するのが彼女のスタイルらしい。良いコンディションを維持して、ぜひとも東京五輪に臨んでもらいたいものだ。

2021 ASBC Finals (W75kg) MAVLUDA MOVLONOVA (UZB) vs POOJA RANI (IND) (YOUTUBE)

この選手についても、先述のメアリー・コム選手と同様、ボクシングという競技を始めたとき、そしてキャリアを続けていくには、いろいろな曲折があったそうだ。ハリヤーナー州のビワーニー地区出身。デリー首都圏に近いエリアではあるとはいえ、保守的な地方の田舎の村の出。「ビワーニー」といえば、国際大会で活躍するボクサーを輩出してきた土地柄だが、それでも女子がこれを目指すとなると、また別の話であることは想像に難くない。

こんなときに五輪?と思うし、そもそも東京への招致活動の段階から「日本でやらなくたって・・・」と思っていたし、それは今でも変わらないのだが、すでに開幕まで本日6月5日時点で、あと48日。実際に始まったらしっかり楽しむつもりでいる。