敵は意外に身近なところにも

先月25日にバンガロールで、26日にアーメダーバードで、それぞれ連続爆破テロが起きた際、テレビなどはこぞって『次はどこが狙われるのか?』と報道していた。今後さらに他の地方都市で同様の事件が起きるのかどうかわからないが、テロリストたちにとって当面の最大のターゲットといえば、やはり独立記念日であり、祝典の開かれる首都であり、ということになる。ゆえに当局としても、これは是が非でも死守しなくてはならないものだ。
そうした背景もあり、特に人の多く集まるところでは、多数の警官たちが動員され、車両の行き来が制限されていたり、徒歩以外の往来を封鎖していたりというところも少なくなく、そのエリアに住んでいたり、仕事等の用事があって出入りしたりするごく普通の良き市民たちにとっては、そうせざるを得ない世相になっているということは、実にハタ迷惑ということになるのだろうが、やはりそういう脅威があるのならば、甘受しなくてはならない必要悪である。
空港、ショッピングモール、ビジネス街の大きなビル、特に重要な名跡といった部分については、それなりにガッチリと保安上の措置が取られているように思うが、不特定多数の人々が、常に流れる水のように大小の道路や路地などから出入りする市街地では、やはり警察その他の治安関係者たちにとってかなり分が悪いことは想像に難くない。

続きを読む 敵は意外に身近なところにも

ひと続きの世の中

2月にアフガーニスターン・パーキスターン両国国境地帯で失踪した駐カーブルのパーキスターン大使ターリク・アズィーズッディーン氏が、ターレーバーンの人質となっていることが明らかになっている。これまでもNGO、国連、報道その他の関係者が連れ去られ、現政権との交渉のカードとして利用されてきた。ターリク氏はターレーバーンたちが仲間の釈放を求める交渉の材料として誘拐監禁されている。
パーキスターンの支持あってこそ、かつては国土の大半を手中にしたターレーバーンであったが、2001年9月11日にアメリカで発生した同時多発テロ以降、地域の風向きが大きく変わると自分たちを捨てて去っていったかつての親分に刃を突きつけた形になる。この事件は、現在のアフガーニスターン政府にとっても、かつて傀儡ターレーバーンを育んだパーキスターンにとってもまた大きな難題だ。
支配者側への揺さぶりとして、本来の対立する相手ではない第三者を誘拐して、自らに有理な状態を引き出そうという手法、そうした勢力からの報酬目当ての『誘拐産業』にもスポットが当たるようになっている昨今だが、どうも世間で起きているこうしたニュースを目にすると気が滅入る。モラル云々以前の問題ではあるが、いやしくも一度は政府を構えた勢力が行なうべきことではありえない。現政権と対峙するにあたり短期的には何がしかのメリットがあるとしても、これまで以上に対外的な信用を失うとともに、国内的にも人心掌握どころではないだろう。
ただし現在のアフガニスタン政府にしてみても、アメリカによるターレーバーン攻撃という好機に乗じて政権を簒奪した複数の派閥が、西側の支援を得る反ターレーバーン勢力という共通項のみからなる足元の危うい合従連衡のもとで、利益の奪い合いを展開している中、そうそうまっとうなものは見当たらない。勝てば官軍、武力による統治という現状こそがアフガーニスターンの最大の不幸だ。インドと同様に『多様性』に満ちたモザイク国家アフガーニスターンだが、長い内戦を経て、すっかり壊れて散り散りになってしまったカケラを集めて、ふたたびひとつの国にまとめあげるには、どのくらいの時間と犠牲を払わなくてはならないのだろうか。
歴史的につながりが深い近隣国インドのことを思い合わせれば、『民主主義』や『自主独立』といったものの尊さ、ちゃんと機能する『政治』の大切さをひしひしと感じる。そうしたことについて無頓着でいられる境遇とは、実に幸せなことなのである。たとえば今の日本のような政治への関心の低さは、裏を返せばそれほど深刻な問題が生じていないということでもあり、それ自体は決して悪いことではない。
ただしこうしたトラブルを抱える地域への関心は常に持ち続けたい。歴史的な境界あるいは為政者の都合による『国』という区分で細分化されている世界だが、どこに行っても人々の暮らす社会があり世間がある。国境のこちらと向こうでいろいろ事情が違ったりもするが、つまるところ同じ人間が暮らすひと続きの『世の中』なのである。でも距離が遠くなるにしたがい、なかなか見えてこなくなるし、縁が薄い地域の話はあまり聞こえてこないこともある。
ゆえに周囲の無関心の中、非道が大手を振ってまかりとおっていたりするのはとても残念なことだ。状況や内容はまったく異なるが、それはアフガーニスターンしかり、チベットしかりである。
Taliban holds Pakistan’s ambassador (Al-Arabiya News Channel)

ネパール 革命成就・・・なのか?

20080414-MAOIST.png
ネパールの総選挙結果が、事前には思いもよらなかった方向に展開している。
紆余曲折あったが、なんとか今回の選挙に参加することになったネパール共産党マオイスト派である。長年武装闘争を続け、ネパール政界を左右するひとつの重要なカギを握る勢力である。国民のある部分から一定の支持を得ることができるにしても、あくまでも主流派に対する抵抗勢力として、どこまで票を伸ばすことができるかが云々されていた。さらにはその結果が、彼らにとって満足いくものでなければ、選挙の公正さに対する疑いを理由に、再び武闘路線に戻るのではないかという懸念もあった。そもそも今回の選挙の焦点のひとつには、国内の不安定要因の最たるもののひとつであったマオイスト勢力をいかに平和的かつ継続的に政治参加させるかという問題があった。
ところがどうしたことだろう。現時点ですべての結果が出揃ったわけではないが、すでにマオイストが第一党となることは確実な情勢で、開票後かなり早い段階において勝利宣言も出ている。これはまたマオイストたちによる『革命の成就』と表現することもできるだろうか?
政府と対立して武装闘争を展開してきた過激派が、総選挙で過半数にわずか及ばないまでも、堂々たる第一党に選ばれてことを受け、大政党にしてこの国最古の政党であるネパール会議派がマオイストに連立を打診している。力による弾圧という路線から対話と政治参加を促して、武装したマイノリティ集団のマオイストたちを一政党として自らのシステムに取り込もうとしたのはマジョリティ側であったが、総選挙の予想外の結果により、まさに主客転倒となった。
数の論理で堂々と不条理がまかりとおることもある民主主義体制の中、狭い国土ながらもインドと同じく多様性に富む国土の広範な民意のうち、これまで既存政党が吸収できなかった部分を代表し、道理にかなったやりかたで国政に反映させる、必要とあればマジョリティの独走に歯止めをかけるチェック機能としての存在は、諸手を挙げて歓迎されるべきものである。そもそもマオイストたちの中に占めるマイノリティ民族や女性の占める割合は高く、これまであまり省みられることのなかった層の人々の意思を代表しているともいえる。
マオイストたちにしてみれば、国民の総意を結集した選挙で第一党となることで、『政党』として自らの主義主張の正当性についてのお墨付きを得たことになり、これまでの行いは『造反有理』であり、これが社会が払ってきた犠牲についても『革命無罪』ということになってしまうのだろう。政界のどんでん返して、ネパールは今まさに本格的な変革の時期を迎えたことになる。しかし注意しなくてはならないのは、予想外に大量の票がなぜマオイストに流れたかということだ。票のかなりの部分は既存政党への不信任票といえるだろう。しかしだからといって、そのすべてがマオイストたちの方針に諸手を挙げて賛成というわけではないのではないかということは容易に想像できる。選挙前にはマオイスト支持とは予想されなかったカテゴリーの人々のうち、どういう立場の人たちが彼らに票を投じたのか、詳細な分析が出てくるのを待ちたい。
ところで、マオイストたちに政権担当能力はあるのだろうか。彼ら自身、とりあえずは政局に強い影響力を持つ野党陣営の一角を占めて、議会政治の世界で着実に地歩を固めることができれば良かったのではないかと思う。いきなり第一党に躍り出てしまい、最も当惑しているのは他でもないマオイストの幹部たちなのではないかという気がしないでもない。時期尚早ではないだろうか。
これまで農村部や山間部で人々をオルグあるいは強制的に徴用したり、政府に対する武装闘争を展開したりしてきたマオイストたちが、こんどは公平かつ責任ある統治者として、『反動的』あるいは『反革命的』他陣営をも含めた様々な意見をまとめあげる有能な調整者として、これまでとまったく違う役割を担うことになる。こうした経験のない集団が、あまりに過度な期待を背負っていったい何ができるのかは未知数だが、まずはお手並み拝見といったところか。先に勝利宣言を発したプラチャンダ議長は、彼らが第一党となることに対する周辺国ならびに諸外国の懸念を払拭するため、『我々は民主主義を尊重し、諸外国とりわけインドと中国との友好関係を維持していく』との声明を出したことからもうかがえるように、今のところ自分たちの立場についての自覚はあるように見えるのだが。
今回の選挙が、懸念されていたほどの大過なくほぼ平和裏に投票を終了し、政権交代へのプロセスを円滑に進めているように見えることについて、現象的には国民統合の象徴とも民主主義の勝利ともいえるかもしれない。だがその実新たな混乱のはじまりがやってきたのではないかと懸念するのは私だけではないだろう。今度はマオイストを軸とする新たな合従連衡が展開されていくことになると思う。ネパールの『革命』と『闘争』はこれからもまだまだ続く。マオイストが主導することになりそうな新政府、そして新たな憲法起草による新しい国づくりの中で、あまりに性急な変化を志向すれば、かならずや大きな揺り戻しを呼ぶことになるだろう。
目下、革命いまだ成就せず・・・ということになるが、同様の信条のもとに武装闘争を続けるマオイスト勢力を抱えるインドにとっても、ネパールにおけるマオイストをめぐる様々な動きや事態の展開には、今後いろいろ参考になるものが出てくるのではないかという気もする。今後の進展に注目していきたい。
CA Election 2064 Results (kantipuronline.com)
ELECTION COMISSION, NEPAL
マオイスト共産党の選挙シンボル

テロで変わるもの

1978年に第一回大会が開催され、『パリダカ』の名前で日本でも親しまれてきたダカール・ラリー。いくつもの国境を越えて、非常に条件の悪いルートを走破するこの過酷な競技の映像を目にすれば、モーターファンならずとも大きな驚きと感動をおぼえるとともに、出場者たちに大きな拍手を送りたくなることだろう。
そのダカール・ラリーは今月開催されるはずであったのが、まさに直前になって主催者より中止の発表があったのはご存知のとおり。すでに各種メディアで報じられているとおり、原因は治安面での不安、つまりテロの標的となる可能性があるとのことだ。
主催団体ASOのコメントにもあるように、社会的影響や経済的損失を考慮したうえでも、中止を決断しなくてはならないところまで追い込まれたとのことだが、これは尋常なことではない。フランスの諜報機関筋が具体的なテロ計画の情報が把握したことがこの判断につながった理由のひとつだというが、テロ組織がASO自身に直接脅しをかけていたのかもしれない。
今後もコースとなる北アフリカ地域での治安状況に不安はつきまとうことから、来年以降のラリー大会開催について他地域も視野に入れているようで、すでに南米を視察したとのことだ。
インドでは、首都デリーで『1月15日からIDの携帯義務化』の動きが議論を呼んでいる。ここでいうIDとは、運転免許証、有権者登録証、配給証、学生証、勤務先の職員証、外国人の場合はパスポートや外国人登録証等々など。IDとして認められるものの範囲が広いのでなんとかなるかといえば、そうでもないのがインフォーマルセクターで働く人々であり、さまざまな形で首都に入ってきて社会の底辺を成す移民の人々でもある。
この件について様々な反論や反響が報じられている。そういうものを常時携帯することを強制することは民主的でないという声があるとともに、総人口のおよそ半数が身分を証明するものを何ら持ち合わせていないと推定されるこの国で、突然このようなものを身につけろというのは実際的ではないという批判、そして電子データ入りの統一された身分証明証を発行して携帯させるべきであるという意見もある。

続きを読む テロで変わるもの

私立探偵

私立探偵を主人公とする推理小説作家は数多い。アガサ・クリスティ、エラリー・クイーン、コナン・ドイルといったこの分野を代表する大家の作品を読んだことがないという人はまずいないだろう。また少年向けのマンガでも『名探偵コナン』『金田一少年の事件簿』などがある。老若男女を問わず、探偵とは人々の興味や関心を呼ぶ魅力あるテーマらしい。私自身、子供のころ『大人になったら探偵になりたい』と思っていた。

続きを読む 私立探偵