漢字から眺めたインド

 普段、日本人の私たちは漢字圏の国ぐにの地名・人名を漢字で表記し、そのほかの地域についてはカタカナを使っているが、中国語では当然のことながら世界中のあらゆる土地の名前を漢字で書いている。東南アジアの河内(ハノイ)、バンコク(曼谷または盤谷)、ヤンゴン(仰光)、シンガポール(新加坡)などは、現地でも華人が多いため、こうした綴りをよく目にする。
 インドの地名はどうなっているのだろうか。国名「印度」はともかくとして、徳里(デリー)、恒河(ガンガー)、古吉拉徳邦(グジャラート州)、孟加拉湾(アラビア海)などローマ字表記と照らしてみれば「なるほど」と思うが、日本では馴染みがない。
 周辺国の都市を見回せば、伊斯蘭堡(イスラマバード)、廷布(ティンプー)、馬累(マーレ)など。加徳満都(カトマンズ)なんていうきらびやかな綴りもある。漢字で書いてみると、ちょっぴり「大唐西域記」のムードが漂っている(?)気がする。

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「長生き」って素晴らしい

 昨年5月に「世界一ながい老後」として紹介した125歳(本人によると132歳)の、ラージャースターン州在住ハビブ・ミヤーンさんがふたりの曾孫さんとともにメッカ巡礼に参加した。
 藩王国時代からジャイプルで暮らし、ガーンディーによる塩の行進(1930年)が行なわれたころ、すでに52才。インド独立(1947年)の時点で、69才になっていた人が、2004年、メッカに旅立つなんて信じられない。両目の視力はすでに失われているとはいえ、この年齢で長距離の移動をできるのだから恐れ入る。
 巡礼を実現させるため、寄付をよせてくれた人々に感謝し、彼はいま、神の祝福と加護を全身で感じているに違いない。長生きはなんと素晴らしいことか!
▼世界最高齢のメッカ巡礼
http://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/3455781.stm

混乱の中から生まれるもの

 先日、デリーで友人に誘われ、シュジャート・カーンのコンサートに行ってきた。
 やはりこういうところに来ているのは、裕福な人たちだ。顔立ちといい、格好といい、インテリジェンスに満ちた雰囲気が…と持ち上げるのは大げさだが、かなりスノッブな感じがする。古典音楽に関心を持ち、わざわざ足を運ぶからには、それなりに文化的な人たちなのだろう。
 開演前の会場では、携帯電話を使う人が沢山いた。司会者による演奏者紹介がひとしきり終わっても、鳴り止まない着信音に耐え切れなくなった観客のひとりが突然立ち上がって、会場全体に大声でこうアピールした。
 「どうか皆さん、お手持ちの携帯電話の電源が入っていれば、今すぐにオフにしてください。そして今日の演奏を大いに楽しみましょう」
 そんな勇気ある忠告があったにもかかわらず、演奏が始まってからも、着信音はあちこちから響いていた。受話器を耳に当てて、そのまま話し込んでいる人もいて、少々憂鬱になる。上流の紳士淑女が集まる演奏会でこの程度のマナー。思えば、携帯電話のないころはずいぶん良かった。

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POSTE RESTANTE 局留郵便(3)

 10年前、中国でひと月ほど行動をともにしたスイス人がいる。10年来、毎年年の瀬には、彼からクリスマスカードが届き、私はニューイヤーカードを送っている。とはいえ、いま彼が何の仕事をしているのか、独身なのか、結婚したのかまったく知らない。年月を経て記憶が薄れ、おたがい老けたり太ったりしているだろう。もしどこかですれちがっても気がつかないかもしれない。

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POSTE RESTANTE 局留郵便(2)

 手紙の受け取り方法は局留めだけではない。日本大使館や領事館、それら附属の文化広報施設などで旅行者宛ての手紙を預かってくれるところもある。
 ニューデリーのネパール大使館近く、日本大使館附属の施設屋外に置かれた大きな箱の中、イニシャル別の区切りから自分宛てのものを探す。一応「職員に声をかけて持っていくように」と書かれているものの、旅人宛ての手紙など、持ち去る者などおるまいということか、それほど厳密に守られているわけではなかった。
 「マナリーから大量のガンジャを大使館気付の自分宛てで送った」などと吹聴している日本人がいたので、まさかと思い、彼より一足先に行ってみると、サイズの割にやけに軽い封筒で彼宛ての手紙が届いていた。そっと表面を押してみると、乾燥した植物が入っているような感触。「大使館宛てで送れば、大事に届けてくれる」という彼の言葉どおり、開封された形跡は無かった。

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