サルの天下(2)

シムラーのリッジにある、街のシンボルの教会裏手の道をしばらく登ると、ハヌマーンを祀るジャクー寺がある。登り口のところでは杖を売ったり、レンタルしたりしている店が多く目につく。足腰に問題を抱えた老人向けというわけではなく、サル除けなのだと言われた。よもやそんなものが必要になるとは思わなかったが、子連れなので念のため一本用意して寺へ向かうことにした。これが意外に役に立つ代物であることに気付くまで、そう時間はかからなかった。
三人ほどがなんとか肩を並べて歩くことができる狭い道、複数のサルたちが我が物顔で歩いていたり、真ん中に陣取ってこちらを睥睨していたりする。牙をむき出しにしてこちらを威嚇しようとするものもある。ときに路面をガーン、ガーンと打ち鳴らして散らせてこいつらと距離を保たないと危ない。
寺近くまで来るとそこから先は石段になっている。このあたりのサルたちはなかなか手ごわかった。前から下ってきた四人連れの若いインド人男性たちが、サル軍団の襲撃を受けている場面に遭遇。ズボンのポケットに前足を突っ込まれるなどして皆成す術なしといった具合でパニックに陥っていた。
サル集団が本気になれば、大の男たちが束になっても素手では敵わないようだ。このあたりはすでに寺の敷地内である。ハヌマーンの寺なので仕方ないのだが、僧侶や世話人たちがサルたちにふんだんにエサをやっていることが、悪戯ザルたちを助長しているに違いない。手前の参道のサルたちも大胆不敵だったが、ここのサルたちはあたかも自分たちこそこの地の支配者だと勘違いしているようで、人を恐れる様子がまったくない。

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サルの天下(1)

Arukakatさんの『これでインディアExpress』に『猿の猿退治』と題して、アカゲザルに対する他種のサルを用いた捕獲作戦の話が出ていたが、このアカゲザルときたら体力と知力ともに高次元でバランスが取れており、しかも集団行動するので私たち人間にとってかなり手強い相手だ。
インドでよく見かけるアカゲザルは、オナガザル科マカク属に分類され、同じくマカク属のニホンザルと近縁だ。種が近いために交雑も可能。日本国内で飼育されていたアカゲザルが野生化し、ニホンザルとの雑種の出現が懸念されているのだとか。このサルはアフガニスタンから南アジア全域、そしてインドシナや中国にまで広く分布している。
よく子供向けの物語で、サルといえばユーモラスなキャラクターで描かれることが多い。しかし実際は野犬などよりかえって危険で非常に厄介な動物であることはいうまでもないだろう。平面的かつ直線的な動きが多く、石や棒などを軽く振り回せば簡単に動きを封じることができる犬と違い、予想もしない動きと上下左右への変幻自在な身のこなしに加え、相当高い知能を持ち合わせるこのサルと素手で渡り合うのはあまりにリスキーだ。
ちょっと脅せば『おぉ、勘弁してくれ』と、手にした食べ物を放りだしてしまう人間を前に、サルたちは自分たちの序列の感覚から『オイラが先に食べる=奴よりも立場が上』と解釈して、さらに図に乗って大胆な行動を取るようになってくる。自然界に存在しない人口的な味覚を覚えるとともに、サルが威嚇せずとも自ら進んでエサとしてくれたりする人間たちを前に、サルたちは『弱いヤツが強いサルに上納している』としか思っていないのかもしれない。
人間たちとの接触が濃厚な地域ほど、お互い困った問題が生じている。日本でもサルとの関係に手を焼いているところは少なくない。いろいろ工夫しても知恵のある動物なのであまり効果がなく、サルが匂いを嫌うとされるヤギの放牧をするといった消極的な対抗策を試みている地方もあるらしい。
〈続く〉

劇場『雑踏』

昔、20歳前後の大学生だった私が初めてインドに来たとき、鉄道でマイソール駅に夜明け前に到着。しばらく時間を潰そうと待合室に入り、荷物を床に置いて一息ついた。近くに座っていた、きちんとした身なりの男性ボソボソと話しかけてきた。
『I need your help. 実は夜行列車でサイフをスラれてしまいまして・・・』
彼はバンガロールから列車でやってきたのだという。寝ている間に・・・というのはときに自分自身も不安に感じることがあり、身につまされるものがあった。
『後日、必ず返しますからお金を貸してください』

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Namaste Bollywood #08

Namaste Bollywood #8
早いもので、ボリウッド専門情報誌Namaste Bollywoodも第8号目である。前号に引き続いて今号の特集は『Bollywood Beauty part 2』だ。前回取り上げられていたマードゥリー・ディクシト、ジューヒー・チャーウラー、カージョルといった顔ぶれの次の時代を担うアイシュワリヤー・ラーイ、スシュミター・セーン、ビパーシャー・バスーといった女優たちが登場する華やかにして艶やかな誌面。

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ナマステ・インディア2007

 
 
曇りときどき雨という予報どおりの天候のもと、東京渋谷区の代々木公園で『ナマステ・インディア2007』が開催された。
午前中、ときおり雨がやや強く降りベッタリと湿った天気のもと、人出もまばらで閑散としていたものの、昼すぎからほぼ雨が止むと会場が急に込み合うようになり、昨年同様の賑わいとなってきた。
日本人のインド舞踊家たちによるバラタナティヤム、UPとハリヤナーおよびラージャスターンの舞踊団、古典音楽などのステージの人々の目が釘付けとなり、カラフルな衣装で踊るバングラー、ボリウッドのダンスともなれば、舞台の前で派手に踊りまくる人たちも大勢あり、素晴らしい盛り上がりを見せていた。

 
人気のプログラムは多かったが、会場で配布される案内のチラシに『ヨーガ・レクチャー』とあり、誰が来るのかな?と思っていたら、なんとスワーミー・ラームデーヴであったのには非常に驚いた。ついに日本でも大きなブームを呼ぶのだろうか。ビリーズ・ブートキャンプの後に続くのは、スワーミー・ラームデーヴのヨーガビデオなのかもしれない?何かにつけて『インド』がブームのこのご時世、ありえないことではない。
Swami Ramdev
Swami Ramdev
このイベントは1997年にすみだリバーサイドホールで開催されたのがはじまりであったと記憶している。規模といい来場者数といい当時とは比較にならない。また会場で目にするインドの人々の数も飛躍的に増えている。それだけ日印間の距離が近くなり、日本におけるインドという国、インドの人々のプレゼンスが向上したことの証でもあろう。
9月30日も引き続きこのイベントが同会場で催される。明日の空模様も同様らしいが、きっと本日以上の大盛況となるに違いない。