インド発DNAコロナワクチン

インドで世界初の人間用DNAコロナワクチン承認とのことだ。ファイザーやモデルナのmRNAワクチンも遺伝子情報を利用したものだが、このDNAワクチンとどう違うのかは、私自身はよくわかっていない。このワクチンは3回接種となるらしい。
もともとインドでは綿花やオクラなどの農産物、とりわけ虫害の多い作物に対して遺伝子組換え作物を積極的に導入してきたが、いっぽうで日本その他、遺伝子組換え技術に懐疑的な国々も多い。またインド国内でもこれに警鐘を鳴らしてきた専門家やジャーナリスト、それに賛同する市民も少なくないようだ。
mRNAワクチンの普及、そして今回のDNAワクチンの承認は、とりわけ体内に「遺伝子組換え物質」を注入するわけで、より心配されてもおかしくないわけだが、新型コロナウイルス感染症の爆発的な広がりが、そうした警戒感を一蹴することとなった。ワクチンの必要性があまりに急を要するもので、まさに「待ったなし」の状況にあるからだ。
これが「ゲームチェンジャー」となり、ワクチン以外の分野でも遺伝子組換えへの抵抗感が社会で相当薄れていくような気がしなくもない。

India approves world’s first DNA Covid vaccine (BBC NEWS)

「インドにおけるタリバーン的思考」

一昨日、国営ドゥールダルシャンで放送されたBharat mein Talibani soch ? (インドにおけるタリバール的思考?」と題した討論番組。

出演はインドのある識者、BJP幹部、そしてふたりのイスラーム学者たち。学者たちは身なりからしてもムスリムのかなり保守層に属すると思われる。

こういう番組でしばしばあるのが、開始前から結論ありきの集団リンチ的な展開だ。まずは左のアナウンサーで司会を務めるアショーク・シュリーワスタヴが「カーブルで、タリバーンからの布告で15歳から35歳までの女性を登録するために兵士が家々を回り始めている」「インドの社会党議員のひとりがタリバーンによる首都制圧を『アメリカからの独立』と称え、タリバーンを『自由の戦士』と褒めたたえた」ということから話をひとりひとりにふっていく。

もちろん出演しているインドのイスラーム学者たちもタリバーンを肯定せず、前のタリバーン政権のときの二の舞いとなることを懸念する発言などをしているのだが、右寄りの識者とBJP幹部が意図的にイスラーム教そのものを挑発するような発言をして、これに対する学者たちの反論、言葉尻をとらえてのヒンドゥー右翼による再反論・・・という形に対話が流れていく。

こうした不毛な討論番組は民間放送にもよくあるのだが、国営放送でこうしたバイアスがかかるというのは、政権からのそうし誘導があるのではないかとか、世論誘導のためのツールとしているのだろうとか、いろいろ考えてしまう。「国内でのタリバーン的思考について」考察するという目的から、「国内のイスラーム教徒を不審視する」という流れで、大変不健全なものだ。

また、こういう番組にヒンドゥー保守派とイスラーム教徒保守派というふたつの両極端な人たちを出席されて討論というのもあからさまな意図が感じられるようだ。

大統領宮殿での記者会見

一昨日のタリバーンによる大統領宮殿への入場と記者会見の動画。アルジャズィーラが放映したもの。田舎侍みたいな男たちがきらびやかな宮殿内で、少しオドオドしながら記念写真を撮っていたり、物珍しそうに眺めていたりもするように見えるが、彼らを率いている立派な身なりをした3名(4名?)の偉そうな人物たちはタリバーン幹部なのだろう。彼に随行している兵士たちも組織内ではかなり上の存在のはず。市内ではこれまで警官がやっていた交通整理や検問の実施などもタリバーン兵がやっているという。そんな場ではなく、こんな「勝利宣言」の席の幹部の護衛で来ているのだから、「エリート」兵士たちのはずだ。

この大統領宮殿。これまでは権力の中枢であった場所で、タリバーンにとって平和裏に実権が移行したことを内外にアピールするにはもってこいの場所だ。そこに「PRESS」と背中に書かれたクルーとインタビュアーを伴ってやってきているわけだ。

こうした形でメディアとその先にいる世界中の視聴者たちを明らかに意識した姿勢は、かつて政権にあったときのタリバーンとはちょっと違うような気がする。「怒れる若者たち」だった幹部上層部も中高年になって成熟したのか、世の中の変化とともに彼らも多くを学んできたのか。

これからタリバーンが何をしようとしているのか、どんな統治をしようとしているのかは、まだしばらくわからないかもしれないが、まずはメディアに対してどのように振舞おうとしているのかについても注目していきたいと思う。タリバーンが目指しているのは首長国なので「情報公開」のような意識のかけらすらないかもしれないが、少なくとも国外とどのように付き合っていこうとしているのか、そういうつもりはあるのかについては見えてくるかもしれない。

Taliban enters presidential palace in Kabul (Al Jazeera)

アフガニスタンの8月16日

文末に埋め込んだ動画は、アフガニスタンに関するアルジャズィーラによる首都カーブル陥落当日のリポートだ。

やはりタリバーンによる旧政権側市民等への報復などの人道被害、女性への差別行為、外部のテログループへの庇護や支援、難民流出などが危惧されるとともに、前のタリバーン政権時代の記憶から、これらが再現されることが最も懸念されている。市内からの映像ととともに国連の会合の様子も伝えられており、ここでも同様の懸念が示されている。

先進国等によるタリバーン政権の承認はおろか、積極的な支援や関与というのも期待できないだろう。ここでやはりキーになってくるのは自国を中心とするCIS加盟国中の中央アジア諸国と隣接するロシア、そしてかねてよりタリバーンとの接触が伝えられていた中国、とりわけ迅速に動くのは後者だろうか。

「内政不干渉」を旗印に、悪魔とでも平気で手を結ぶ中国の目的は通商と軍事的なロジスティックの構築。支援対象国からすると、自国内のイデオロギーや宗教に対してニュートラルな立場で関与してくれる北京政府、通商と軍事ロジ以外の関係では一切口出しをしないので、たいへんありがたい存在だろう。ただし貸し付けたカネはあらゆる形でキッチリ回収にくるので、本当はとても恐ろしい相手なのだが。予想よりもずいぶん早く崩壊した旧アフガニスタン政権にうろたえる国際社会を前に、中国共産党は「先見の明があった」ということになるかもしれない。

国連の会合では、崩壊したばかりの政権から派遣されていた「アフガニスタン国連大使」のグラーム・イサクザイが発言をしていたが、この人を含めて旧政権から国際機関や在外公館などに派遣されていた人たち、当然そこには在日アフガニスタン大使館の人たちも含まれるが、大変不安なことだろう。不安といえば、そうした大使館に勤務する現地職員も同様。

米国の国連大使は、首都を制圧した勢力に向けた自重と人権擁護を訴え、テロ組織への関与のないようにという注意喚起、国際社会に向けてはアフガニスタンへの人道的関与、新型コロナ対策に係る支援、国外に流出するであろう難民への理解と支援を促すなど、自制の聞いた内容の発言をしていた。てっきり声を上げて強く非難するのかと思っていただけに、少々意外でもあった。米軍撤退完了の前に首都陥落で、大いに面目をつぶされた形になるが、やはりそれでもアフガニスタンへの関与は順次薄めるという方針には変わりがないのだろう。ただし、彼女のスピーチの中で、アフガニスタンとの関わりについて「Time to step up」と発言しており、この部分について現地リポーターとスタジオの間で「これは何を意味しているのか?」「さあ、私にはわかりません」と話題になっていた部分は気になった。時間がない中でも推敲を重ねた発言内容であるはずなので、何か示唆するものがあるのかもしれない。

それはそうと、今後のタリバーンにより市民生活がどう変わっていくのか、案外変わらず様々な観測は杞憂に過ぎないのか、国際社会はこの政権を承認するのか、タリバーンは国際社会に参加する意思はあるのかないのか。自国の強い影響圏CIS内の中央アジア諸国がアフガニスタンと隣接するロシアはどう動くのか、中国はどのような関与をこれから始めようとしているのか、パキスタンはどう動くのか等々、注目していきたい。

Taliban fighters patrol streets of Kabul (Al Jazeera English)

第二次タリバーン政権樹立間近

アフガニスタンで米国の傀儡政権が陥落しようとしている。現政権と懇意にしてきたデリーの外務省は慌ただしくなっていることだろう。民間人たちも市内のラージパトナガルあたりのアフガンコミュニティでは、身内などの脱出のために手を尽くしている在印アフガニスタン人たちも多いだろう。

またタリバーンの生みの親であるパキスタンの軍統合情報部(ISI)も逆の意味で忙しくなっているはず。パキスタンにとってはアフガニスタンに親パ政権を樹立させることは対インドの安全保障上の重要課題。地理的な「戦略的深み」のためである。インドに対して平べったく接する形のパキスタンにとって、有事の際にインドによる攻撃圏外に要人、司令部、戦闘能力その他を退避させることが可能な場所を確保することは、いつの時代も最優先課題。

アフガニスタンの社会主義政権時の内戦時代に様々なムジャヒディーン勢力がそれぞれ米国、サウジアラビア、パキスタンなどの支援をうけてカーブル政権打倒のために活躍したが、この時期にパキスタンが最も強く支援していたのはグルブッディーン・ヘクマティヤル。ただし彼が繰り返す合従連衡、周辺勢力との協調性の無さと配下の組織の狼藉ぶり等々に愛想を尽かしたパキスタン軍が目をつけたのがアフガニスタン出身の神学生たちであったとされ、これを同軍が育て上げて当時混乱を極めていたカーブルの政権を陥落させたのは90年代半ば。当時はなぜ若者たちの徒党が雪崩を打って拡大して首都まで落とすようになったのかミステリーであったが、「パキスタン軍からの出向者」も要所に配置されたパキスタン軍の子会社みたいな組織であったため統率は取れていたのだろう。

タリバーンという組織は、ムジャヒディーンを名乗りながらも実質は野党集団が牛耳る政権、政権の勢力圏外では各地軍閥が支配する無秩序で危険な国土に安定と良好な治安を回復させることを目的に旗揚げした集団であったため、各地で好意をもって迎えられたことをすっかり忘れている人たちも多いようだ。タリバーンは平和をもたらしたのだ。

その後、行き過ぎたイスラーム主義の暴走による人権侵害、女子教育の否定、映画や音楽そして舞踊などの娯楽の禁止、バーミヤン遺跡の破壊などにより評判を落とすとともに、1999年12月に起きたカトマンズ発デリー行きのインディアンエアラインスのハイジャック事件で実行犯たちが飛行機をアムリトサル、ドバイその他へ着陸させるなど混乱を極めた後、最後に交渉の場をカンダハル空港に定め、ここでタリバーン政権仲介のもとで、現地に駆けつけた当時のインドの外務大臣、ジャスワント・スィンが交渉を続けた。この際に人質との交換でインドの刑務所に服役中であったパキスタン人テロリストを釈放させ、犯人たちはタリバーン政権が用意したクルマで悠々とパキスタン国境へと消えて行った。このあたりから「タリバーン=テロ組織支援勢力」という評判がついてまわるようになったようだ。そして2001年の米国での同時多発テロ以降、黒幕のオサマ・ビン・ラーデンを匿っているとして米国に名指しされたことにより、日本でも「テロ組織」ということになったように記憶している。その後、ご存知のとおり米国主導の戦争により、タリバーン政権は崩壊。

パキスタンの文民政権の関与できない工作活動なども軍主導で進んでいることだろう。政権と並立する形で軍の権力が存在するパキスタンの危険な二重構造は長年の問題だ。現在のイムラーン政権は軍寄りではあるものの。

日本のメディアでは、米国との関係性で語られることはがりが多いアフガニスタン情勢。視野をアフガニスタン周辺国にひろげてみるともっといろいろなものが見えてくる。

「第一次タリバーン政権」では、同政権を承認したのは、たしかパキスタン、UAE、サウジアラビアなどの数少ない国々。孤立した政権は資金等などをチラつかせた国際テロ組織(アルカイダだけではない。ムンバイでの同時多発テロを実行したパキスタンのあの組織とも)などにも利用され、これらに隠れ場所を提供することにさえなった。

第二次タリバーン政権樹立にあたって、国際社会はこのアフガニスタンの新しい記事政権に積極的に関与して、国際社会と互恵的な関係を結ぶよう務めるべきだろう。こういう事態を見越してか、中国などがタリバーンとの関係性を深めていることは、ある意味朗報とも言える。

ただパシュトゥーン人主導のタリバーン政権再樹立となった場合に懸念されるのは、その他の勢力つまり現政権側の民族への報復行為と、あまりに偏ったイスラーム主義の強制。西欧その他の「民主主義」の手法が、なかなか実現しにくい土壌ということもあり、数多くの人権侵害の事案発生が心配だ。

それでも遠からず傀儡政権は倒れるだろう。タリバーン新政権は周辺国その他と、どのような関係性を築いていくのだろうか。あるいは前回同様に孤立した政権となるのか?タリバーンそのものの姿勢がどうかということもあるが、かつて「テロとの戦い」と銘打った戦争で追い出した政権であるとともに、人権侵害や性差別といったイメージもあり、欧米をはじめとする先進国が自国世論を前に、彼らの政権を承認しにくいこともある。

これが今後の政権の性格を左右し、アフガニスタンの運命を決めるカギになることは間違いないだろう。

タリバーン、アフガン第2の都市も制圧 州都陥落13に (朝日新聞DIGITAL)