青蔵鉄路

インドと関係のない話で恐縮ながら、インドの隣国にして中国による武力占領地のチベットの鉄道に関するNational Geographicによるドキュメンタリー作品。

内容は政治的なものではまったくなく、2006年に開通した青海省のゴルムドからチベットのラサに至る青蔵鉄路建設に関わるストーリー。

National Geographic – Extreme Railway: Qinghai Tibet Railway (YouTube)

単線から成るこの鉄路だが、1950年代から構想が始まり、建設に当たってはチベット高原における高低差を克服するだけではなく、永久凍土上の地層、つまり冬季には凍結して嵩を増し、夏季には溶解して沈み込むとともに、場所によっては泥濘状態となる大地とどうやって折り合いをつけるかという難問もあった。

どのようなアイデアでこれらを克服していったかについて、淡々と綴られているものの、その背後にこの事業に関わる人々による飽くなき探求心と情熱、深い知識と応用力あってのことだろう。

こうした中国は、ネパール国境まで鉄道を延伸させる計画、さらには首都カトマンズまでこれを伸ばしていく構想まで持っている。

China to extend rail to Nepal (ekantipur.com)

中国の鉄道は、隣国ネパールを将来大きく変えることになるかと思うが、これはまたインドとネパールの関係、ひいては南アジアにおけるパワーバランスに多大な影響を与えることとなる。

W杯アジア二次予選 アフガニスタン代表

サッカーのワールドカップのアジア二次予選の組み合わせが決定した。

日本、シリアなどと同組…サッカーW杯2次予選 (YOMIURI ONLINE)

非常に有利なグループ(日本・シリア・アフガニスタン・カンボジア・シンガポール)に入ったとメディアで取り上げられているが、そのとおりだろう。また、個人的には組み合わせはともかく、アフガニスタンと一緒のグループに入ったことについて興味深く感じている。

2011年にアジアカップ一次リーグでシリアと対戦して、2-1と日本が苦戦した相手シリアはともかく、まったくノーマークのアフガニスタンに注目したい。FIFAランキングのシリア126位と同じく、アフガニスタンの135位はどちらも苦しい国情のためもあり、国際試合の機会が希薄であることからくるもので、実力を反映したものとは言えない。

南アジアで開催された国際大会やアフガニスタン国内リーグなどをネット中継で観戦したことがあるが、南アジアサッカー連盟加盟の8か国(アフガニスタン、インド、スリランカ、ネパール、パーキスターン、バーングラーデーシュ、ブータン、モルジヴ)の中で、アフガニスタンは一線を画す存在だ。

南アジア選手権においては、2011年大会に大躍進を見せて準優勝、続く2013年大会では見事優勝している。この大会の決勝戦で対戦したのは、2011年大会と同じくインド代表であったが、2-0でこれを下した。ちなみにこのときのインド代表には、日本で生まれ育った日系インド人(父親がインド人、母親は日本人)のMFプレーヤー、和泉新(いずみあらた)選手が出場していた。アルビレックス新潟のサテライト(シンガポールのSリーグ加盟)でプレーしていた選手だが、日本のアマチュアチームを経て、インドのIリーグの名門イーストベンガルに加入後、同じくIリーグのマヒンドラ・ユナイテッドFC、そして現在はプネーFCでプレーしている。

さて、長年国内リーグを安定的に運営してきたインドをはじめとする国々が出場する大会で、これまでサッカーのインフラもなく、復興に向けてゆっくりと歩みを重ねつつある国の代表が制するというのは尋常ではないが、実はそれには訳がある。

アフガニスタン国内を横断するトップリーグ「ローシャン・アフガン・プレミアリーグ」は2012年に始まったばかり。それでいながら、報酬を得てプレーする「プロ」選手も少なくない。現状はよく判らないが、少なくとも発足当時、選手たちは年契約ではなく、試合ごとに「日払い」で報酬を受け取るというのが普通であったようだ。もちろん勝敗や個々の活躍ぶりによって受け取る額は変動したのだろう。

しかしながら、国内リーグの惨状とは裏腹に、海外のクラブにて活躍中で、母国の代表に招集される選手たちの存在と彼らのポテンシャルの傑出した高さがあるのがアフガニスタン代表の特異なところだ。代表選手たちの半数ほどは欧州を中心とする様々な国々のクラブでプレーしており、国外生まれの者も少なくない。

よって、スタメンで出てくる主力は海外仕込みの選手たちとなるであろうことから、日本が相手にする相手の大半は、本格的なサッカー環境とはほど遠いところで育った「アフガンの地場産の選手たち」ではなく、外国の2部や3部のクラブに所属とはいえ、紛れもない「本場仕込みのプレーヤーたち」であることを念頭に置く必要があり、他の南アジアサッカー連盟に加盟している国々の代表とは格が違うのは当然ということになる。

地域では突出しているとはいえ、日本代表が圧倒されるケースは想像しにくいが、「意外にいいサッカーをする!」と評価される可能性があるアフガニスタン代表だ。国内が安定して成長が見込めるようになると、今後さらに急伸していく可能性もある。

アジア二次予選では、ホーム&アウェイ方式で二試合ずつ、合計8試合行われることになるが、情勢が緊迫しているシリアもさることながら、果たして首都カーブル(「カブール」という表記がメディア等で見られるが、ペルシャ文字で「کابل」と綴るので、「カーブル」が適切)で今年9月8日に予定されているゲームが実現できるのか、第三国での開催となるのかについても注目したい。

安全確保が最優先であるのは当然だが、関係者たちの努力により、カーブルでのアフガニスタン代表のホームゲームが開催されるとなれば、アフガニスタンサッカー界にとって歴史的な快挙となるだけではなく、アフガニスタンのサッカーファン、とりわけ元気な子どもたちへの大きな贈り物にもなる。また、長く続いた内戦でズタズタになった国で、異なる民族の人々が声をひとつにして「私たちの代表」を応援できるということは素晴らしいことだ。

スポーツが平和のためにできることはいろいろある。勝ち負けだけではない「絆」や「共感」を持つことができることもまた、スポーツの国際大会の大きな意義のひとつだろう。アフガニスタンのサッカーファンにとっては、今や世界的な強豪国の一角となった日本を迎え撃つ「ワールドカップ予選試合」をホームで実現することは、日本がこの二次予選、そして最終予選を制して6度目の本大会に出場する以上に大きな意味のあることだ。勝敗はともかく、これを実現するということは、人々の心に届く、真に勇気ある国際平和貢献となることは言うまでもない。

はなはだ残念なことであるが、シリアにしても、アフガニスタンにしても、こうした大きなイベントは反政府勢力にとって格好のターゲットとなり得ることは間違いない。スポーツに政治を持ち込むことなく、誰もが心ひとつにして自国代表を力いっぱい声援できる環境を造ることは、思想や主義主張を越えて、FIFAや日本とアフガニスタンサッカー協会関係者たちはもちろんのこと、アフガニスタンの行政、治安当局や反政府勢力等々にかかわるすべて大人たちひとりひとりに課せられた責任でもあるとともに、私たち日本人もまた実現に向けて世論を後押ししていくべきだろう。

アフガニスタンで、後世に語り継がれる「伝説の試合」が現実のものとなることを期待したい。

ニュース雑誌 Northeast Today

インド北東地域の通称「セブン・シスターズ」。アッサム州、アルナーチャル・プラデーシュ州、トリプラー州、ナガランド州、マニプル州、ミゾラム州、メガーラヤ州のことだが、「充分にインドらしさがある」アッサム州とそれ以外の州では様相が大きく異なる。

地理的には隣接していながらも、民族的にも文化的にも差異が非常に大きく、それぞれ別々の国であるかのようだ。ヒンドゥー教や仏教に取り込まれることがなかった地域さえある。
北東地域を総括する共通項といえば、「どれもインド共和国に所属している」ということくらいではないだろうか。

そんな民族のモザイクのような魅力に溢れる北東地域だが、アッサム州を除けば巷にこの地域の情報があまり多くないのは、同州以外は経済的に重要な地位を占めていないという事情はもちろんのこと、人口が少なく、地元マスメディアのインフラが貧弱であることなどがあるだろう。情報発信力が弱いだけではなく、記事の質や信憑性といった面でも、アッサム州を除く北東地域以外とは比較にならないといって間違いない。

そんな中で、北東インド地域を包括する月刊ニュース雑誌Northeast Todayはなかなか重宝する。アッサム州の州都グワーハティーをベースとするメディアだが、ヨソではあまり話題にもならない「セブン・シスターズ」各地のニュースを精力的に取り上げている。

興味深いことは他にもある。誌面で取り上げられる中央政界のニュース、対中国その他の国際関係の記事などが、北東地域の視点から書かれていることだ。

近年は、MAGZTERで定期購読もすることができるようになっているのだから、インド世界も狭くなったと言えるかもしれない。月刊誌であることから、トピックのフレッシュさの面で不利になることは少なくないため、同誌のウェブサイトのほうも併せてチェックしていくといいだろう。

ニュース番組Aaj Takの 「So Sorry スワッチ・バーラト最新版」

おい、あんたたち!
ちょっとキレイにしたらどうだ!
家の中だけじゃなくて小路も、道路だけじゃなくて溝も、自宅周辺だけじゃなくて地域をキレイにしようぜ。
家だけじゃない、屋敷だけじゃない、寝室だけじゃない、庭だけでもない。
そもそも君たち、インドはなぜ汚いんだ。

・・・といった具合の歌とともに、清掃を呼びかけるモーディー首相が人々に訴える。

So Sorry: Swachh Bharat

ニュース番組Aaj Takの中でしばしば流れる風刺アニメのシリーズだが、これは昨年10月にモーディー政権がSwachh Bharat Abhiyan(クリーン・インディア運動)を打ち出した直後にリリースされたSo Sorry: Swachh Bharat Abhiyanの最新版だ。

番組でしばらく間をおいて同じアニメが何度も出てきたり、これが毎日繰り返されたりすると飽きてしまうものの、So Sorryシリーズにはなかなか秀逸なものも多いので、見応えがある。何かちょっとした出来事があると「どんな具合に取り上げるのかな」と期待したりもしてしまう。

政治がエンターテインメントの具にもなるのはインド人たちの政治意識の高さならではのことであるし、辛辣な風刺も少なくないことに、メディアのしたたかさ、批判精神の旺盛さを感じたりもするだろう。

2月にデリー首都圏の選挙があり、AAP(Aam Aadmi Party)が70議席中67議席を占めるという大勝で新政権が発足したが、この選挙戦の迷走ぶりについてこのようなものがあった。

So Sorry – Aaj Tak – So Sorry: On ‘parachute netas’

So Sorry:’Kiran raise’ BJP’s hope

インドの政治動向をフォローしていないと、何のことだかよく判らなかったりするかもしれないが、多少なりとも関心があれば、今後フォローしていくと楽しいことだろう。

ナガランド 暴徒による性犯罪者のリンチ殺害事件の背景

2月24日にナガランド最大の街であるディマープルで起きたナガ女性に対する暴行事件で逮捕された男性が収監される刑務所が暴徒に襲われ、この男性が外の往来に引きずり出されて殺害されるという凄惨な事件が3月6日に発生した。

Indian ‘rapist’ who was lynched by mob who broke into prison and beat him to death had ‘offered his victim £50 to keep quiet about the attack’, she claims (MailOnline)

メディアが掲げるヘッドラインを目にする限りでは、インドで近年増加している性犯罪に対して業を煮やした市民たちの怒りが社会の秩序と正義を求めて暴発という具合に読めるだろう。もちろんそれには間違いないのだが、もうひとつの側面がある。

文化も人種も異なる「抑圧者」インドに長年虐げられてきたとされる鬱積とベンガルやアッサムからの移民流入に対する不満の爆発で、こちらは前述の社会秩序や正義とは大きくベクトルが異なるコミュナルなものとなる。

今回の事件については、ディマープルでしばらく続いていた市民による抗議活動の延長線上にある。

Protest against Feb 24 rape rattles Dimapur city (Nagaland Post)

レイプ事件を起こした犯人はアッサム州出身のムスリム男性(2月24日の事件発生後以降しばらくはそのように伝えられていた)であった。そして被害者は地元のナガ女性。ディマープルは、ナガランドの最大都市でありながらも、州内のその他の土地と異なり、アッサム州に隣接する平地にあり、人口の相当部分がナガランド州外の平地から来た日々とであるため、まったくナガランドらしくない普遍的な「インドの街」に見える。
そんなディマープルの刑務所に押し掛けた数千人とも言われる群衆の大半は地元ナガランドの人々であったようだ。

ナガランド州首相は、この事件の背景にコミュナルな対立の構図があることを否定しているが、同州内のいくつかの有力な在野政治団体がこの機を利用しないことはないだろう・・・というよりも、そうした組織がこれを絶好の機会とみて、市民による抗議活動の中に活動家を合流させて扇動し、数の力に任せてこの事件を起こしたと捉えるほうが正しいことと思われる。この事件は、現在それなりの安定を手に入れたナガランド州をふたたび不安定な状況へと陥れる導火線となり得るかもしれないため、今後の進展から目を離すことができない。

また、2月24日にこの事件が起きた際の報道では、犯人の男性は「アッサム出身のムスリム」ということになっていた。また3月6日のこの事件を受けて、アッサム州首相は、おそらくこの事件がナガランドの野党勢力中の政治団体による反ベンガル人、反アッサム人のシンボルとして利用されていることを念頭に置いて、デリーの中央政府に対する治安強化を促す発言をしている。

殺害された性犯罪者について、いつしかナガランドポストのような地元メディア、そして全国をカバーする大手メディアでもこの男性をアッサム人ではなく「バングラデシュからの不法移民であることが疑われる者」と報じるようになっている。「外国人による犯罪」とすることにより、国内でのコミュナルな色あいを薄めようという当局の意思が反映されているのか、報道機関による自制ということなのかもしれない。あるいは隣国から不法に移住したがゆえに、逮捕された際に自らのアイデンティティーを偽っていたことが後になってから判明したということなのかもしれないが。

Centre concerned as tensions run high in Nagaland (The Hindu)

北東インドでコミュナルな色合いの濃い流血事件が起きると、その背景には奥深い闇が横たわっていることが多々ある。