ドンデン返し

カンケールの宿の上階に入っている映画館で「ZERO」の入場時間を待っていた。
係員が来て、ごくわずかしかいないお客たちに告げる。
「え〜、本日の『ZERO』の上映は中止となりました。」

それで踵を返して去ろうとするので、お客たちが詰め寄る。
「で、どうするんだ?」
係員は涼しい顔で告げる。
「お客さん少ないもので。SIMMBAに振り替えてもいいですが、どうします?」

そんなわけで、すでにSIMMBAを観た人は払い戻しを受け取り、私は仕方なくSIMMBAを観ることに。
ポリスもののアクション映画。ちょっと気が進まなかったが、観た結果、やはりどうもなぁ・・・という感じだった。
ストーリーが終わると、すぐにバタバタと席を立って帰途につく潔さはインドどこでもそうだが、制作クレジットが流れる前のところで、上映をブチっと切って終わらせてしまう粗忽さには笑ってしまう。

それはともかく、時間直前で上映中止、他の作品に振替というのはヒドイなぁ!
とにかく、物事がちゃんと始まるまで、何が起きるかわからなかったりするので、なかなか気が抜けないインドである。

ありがたい宿

チャッティースガル州都ラーイプルからバスタル地方のジャグダルプルまでの道のりの中間点にあるカーンケールという町のバススタンドに着いた。

その正面に「カーンケール・シティセンター」という商業ビルがあり、そこのセカンドフロアー(日本式に言えば3階)にホテル・アーナンダムという宿が入っている。1泊あたり760Rsという料金に似つかわしくないバリューのある部屋だと感じた。

ホテルに併設されているレストランがやけに立派で、出される料理も田舎町とは思えないほどちゃんとしている。いずれもとても美味しかった。

さらに嬉しいことにホテルのひとつ上のフロアーには、映画館が入っていることだ。日中散々歩き回ってからレイトショーを見に行く。日中の行動時間が映画で削られてしまうのは困るのだが、さりとて映画は観たい。だから最も遅い時間に出かけるのが好ましい。

それでいて、帰りの足や野犬を気にすることなく、階段でひとつ下の階に下りれば、自分の寝床があるのだ。これは素晴らしい。

チャッティースガリー映画

北インドのボージプリー映画もそうなのだが、ムンバイで製作されるヒンディー語映画がどんどんグローバル化していく中、やはり田舎の映画ファン、田舎から出稼ぎで都会に来ている人たちは疎外感をおぼえることになる。

そうした人たちをターゲットにヒンディー語圏の方言地域での映画製作も盛んで、歌や踊りがふんだんに出てきて、ストーリーの展開も唐突な「昔々のヒンディー語映画」が今も方言映画でどんどん制作されている。そんな中のひとつがチャッティースガリー(チャッテースガル方言)映画だ。

そうしたスクリーンは、現地の役者たちの活躍の場だが、同時にヒンディー語映画のトレンドからこぼれ落ちてしまった俳優女優のセカンドキャリアの場である。ときには、ヒンディー語映画のビッグネームもそうした作品に出演して田舎の大衆の心を繋ぎ留めたりする。「アンタらのことを忘れてないぜ」「あなたたちのこといつも想っているのよ」と。

ラーイプルの街のあちこちにこのポスターが貼られていた。
タイトルは「ナーグとアルジュン」どういう筋書きか知らないが、やはり90年代初頭以前のムードが感じられる。
何かを彷彿させると思いきや、脳裏に浮かんでくるのは、シュリーデーヴィーの「NAGINA」。

Nag Aau Arjun – नाग आउ अर्जुन | Official Trailer | Chhattisgarhi Movie | Chandrashekhar | Tania (YouTube)

各地のパーン勢揃い

バリエーション豊かな品揃えのパーン屋さん。売り手のお兄ちゃんは西ベンガル出身とのことで、やたらとカルカッタ式のものを勧めてくる。
私はパーンを嗜む習慣はないので、それぞれどのような特徴があるのかについては、トンと見当もつかないのだが。
映画「Don」に出てきた挿入歌にKaike Paan Banaraswalaというのがあったが、その「バナーラスワーラーはどれだい?」と尋ねると、下の画像上部に見える小さなちまき風のものがそれだとのこと。
(アミターブ・バッチャン主演で1978年に公開された「Don」は、シャールク・カーン主演でリメイクされ2006年にリリースされている。)

ターリー定期券

バスでローハルガルを後にして、スィーカルに到着。バススタンドに面した新築のホテル内にあるレストランに入る。
なんと、ここでは「ターリー定期券」なるものが設定されている。ひと月3500Rs支払えば、何回来ていくら食べてもOKというシステム。ここのターリーは簡素だが味はよかった。この町に単身赴任していて、住居がごく近いというような一定の条件が揃っている人にとっては、なかなか魅力的かもしれない。

「ターリー定期券」月3,500Rs