Namaste Bollywood #44

Namaste Bollywood #44

今年もIFFJ (Indian Film Festival Japan)の時期がやってきた。東京(10/9~23)と大阪(10/3〜22)にてそれぞれ開催され。上映スケジュールについては、こちらをご参照いただきたい。

Namaste Bollywoodの今号の巻頭特集は、このIFFJ。今年も選りすぐりの素晴らしい作品が目白押しだ。特集記事で紹介されている上映作品の紹介をじっくりと読みながら、どれを観に行くかとあれこれ検討してみよう。また、IFFJと時期が重なるが「マルガリータで乾杯を!(原題:MARGARITA WITH A STRAW)が、10月からシネスイッチ銀座を皮切りに、全国で順次ロードショーが予定されるにあたり、主演女優カルキ・コーチリンのインタビュー記事もあり、こちらも注目だ。

さて、この号に掲載されている、同誌主宰のすぎたカズト氏による「ボリウッドにおける性描写の変貌」という記事は、IFFJでの鑑賞予定を考える際に大変参考になることだろう。また、1990年代の「インド映画ブーム」でフィーチャーされた作品群、当時いくつも出版されたインド映画の案内書に記されている内容とは、ずいぶん印象が違うことに気付かれるに違いない。

1990年代以降のインドは激動の時代であり、経済面における社会主義的手法から大きく舵を切っての経済自由化、それにともなう外資の怒涛の勢いでの流入、国営放送による寡占状態であったテレビ放送については、ケーブルテレビ、衛星放送などが一気に普及することにより、外国からのニュースやエンターテインメント等々の番組がお茶の間に突然大量に雪崩れ込むとともに、当時はまだ目新しい存在であった民放各社も、そうしたトレンドをうまくつかまえて、これまでにはなかった新しい番組や映像を視聴者の元に届けるようになった。

そんな時代が唐突にやってくると、まず最初に感化されていくのは若者たちだ。とりわけ1992年、1993年あたり以降に青春期を過ごすこととなった世代と、それ以前の世代では、物事の価値観、道徳観、性に対する意識等が大きく異なってくるのは当然のことで、もちろんそうした時代の変化は映画作りにも如実に反映されることとなった。時代を代表する作品を眺めてみるだけでも、1980年代から1990年代初頭、1990年代半ばから終盤にかけて、そして2000年代に入ってから現在にかけてと、作品のテーマや映像の質感が大きく違ってくるのは、こうした時代の大きな変化を反映したものであるといえる。

さて、1990年代の日本で沸き起こった、先述の「ブーム」はかなりバイアスのかかったもので、同じような方向性の作品ばかりが日本に立て続けに上陸していたこと、製作された地域や言語域による違いを考慮することもなく、「インド映画」と荒っぽく括られていたことに加えて、当のインドで製作された映画に関する知識を踏まえない「面白おかしな」解説が、大手メディアで堂々と一人歩きしてしまうとう弊害も少なくなかった。

今となっては20年ほどが経過しているにもかかわらず、今なおそのときに刷り込まれてしまったイメージが後を引いていることから、ボリウッド映画をあまり観たことがない層においても、「B級以下」「なぜか音楽と踊りばかり」「単純なストーリー」というようなネガティヴな先入観を抱いている人が少なくないことは非常に残念だ。

だが、幸いなことに、今の20代の映画ファンの多くは、そうした過去のしがらみとはあまり縁がない。インドは若年人口が圧倒的に厚い国であることから、10代後半から30代前半にかけての年齢層が大きなマーケットとなることから、ちょうどこのあたりの年代の人たちは、IFFJで上映される近年のボリウッド映画界のヒット作(今回の上映作品は2013年から2015年にかけて公開されたもの)について、先入観なしに映画を楽しむことができる感性を持っているのではないかと私自身は期待している。

どこの国の映画も同様だが、作品が製作された国や地域の文化、固有の価値観、社会のありかたなどが色濃く反映されるものだ。これについては日本の映画ファンの多くがニュートラルな立場で鑑賞しているつもりのアメリカのハリウッド映画についても例外ではなく、銀幕の背景にあるそうした諸々の事柄を理解することなしに、ストーリーの中に巧みに張り巡らされている仕掛けや伏線を読み取ることは容易ではない。

まさにそのあたりを理解するために、Namaste Bollywood誌では、様々な著者による異なる角度からインドの文化面を含めた解説、インドの社会現象が作品に与えた影響や反対に作品が社会に及ぼした効果、ボリウッド映画界内部の動向などを伝えており、インドから遠く離れた日本のファンが、より楽しく、そして深く作品を楽しむことができるようにと情報発信をしてくれているのである。

蛇足ながら、私も「インド雑学研究家」として、小さな記事を書かせていただいており、今号においては、ある作品で幾度か出てきたムンバイーにある小ぶりながらも美しいモスクについて取り上げてみた。

Namaste Bollywood誌は、IFFJの会場でも販売されるが、それ以外の購入先については、以下、同誌ウェブサイトをご覧いただきたい。

Namaste Bollywood

※「上海経由デリー行き3」は後日掲載します。

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