イスラーム世界とユダヤ社会

リンク先の記事だが、書いてあることは驚くべきことでも何でもなく、ごく当然のことだろう。イスラーム教徒とユダヤ教徒の対立の歴史は浅い・・・と書くと、いろいろ反論されるかもしれないが、イスラエル建国運動が現実の動きとなり、イスラエルが建国される前は、そんな「対立」はなかったわけで、イスラーム教とユダヤ教の長い長い共存共栄の歴史の中では、「ごく最近の現象」であると言える。

アラビア世界各地にユダヤ人地区があり、彼らはイスラーム教徒たちと共存していた・・・というよりも、それぞれの現地で、ユダヤ教徒たちは「ユダヤ教を信仰するアラビア人」であった。

インドにおける、いわゆる「バグダディー・ジュー」と呼ばれるアラビア方面から渡ってきたユダヤ教徒たちもそうで、当初は自らも「アラビア人」として、アラビア式の生活様式、アラビア式の装いをして、インドで商業活動を広げた。やがて彼らの上層部を形成する層は、英国植民地当局の買弁としての活動が広がり、急速に植民地支配者側の体制の人たちとなっていく中で「欧風化」していった。商業活動、とりわけ貿易業に携わるバグダディーが住み着いた地域は、ムンバイ、カルカッタ、ラングーン(現ヤンゴン)などの港町が多かったが、いずれもムスリム地区にある。それほどイスラーム教徒の取引のネットワークとユダヤ教徒のそれは、深い繋がりがあったのだ。

独立後、ユダヤ教徒は海外流出により、ごくわずかなものとなっているが、どこの街でもシナゴーグなどの保守に当たるのは、現地のユダヤ教徒世話人から託されたイスラーム教徒たちである。イスラエル建国により、国レベルでは、イスラーム教の国々や様々な国々に暮らすイスラーム教徒との間で感情の軋轢が新しく生まれてしまったが、もともとはイスラーム世界の一部を成すユダヤ社会であったわけだし、今に至るもそれは継続している。

UAEとイスラエル国交樹立により、前者の経済活動にイスラエルから多数参画するようになったのは、今の時代にあっては新しい現象ではあるものの、実は「大昔からそうであった、あるべき姿に戻った」といえるのだ。リンク先記事で、このあたりを押さえておかないと、あたかもイスラーム教徒とユダヤ教徒が何百年も千年も長きに渡って対立してきたかのような誤解を読者に与えてしまいかねないと気になるのだが、これが杞憂であれば幸いである。

(世界発2021)かつての敵国、急接近 イスラエル・UAE、国交樹立半年 (asahi.com)

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