マハーラーシュトラで「クーデター発生」

インド軍が反乱を起こしたわけではないが、シヴセーナー(シヴァージーの軍団※シヴァージーは中世のマラーターの武将)内で、「シヴセーニク(シヴァージーの兵士、戦闘員)」と呼ばれる党員や活動家たちの間で起きて現在進行中。軍が政府を倒したわけではなく、政党内での混乱だが、ある意味クーデターのようなものだ。

同州の政権党シヴセーナーで、党首ウッダヴ・タークレーに対して、同党所属の州議会議員の多くが、前触れもなく突然離反することにより、政権が突然にして瀕死状態になっている。

2年半前にシヴセーナーはBJPと共闘して州議会選挙に勝利するも、ポスト配分をめぐり両党が衝突して組閣前に連立崩壊。それまで仇敵だったナショナリスト会議派と国民会議派と手を組むこととなり、呉越同舟の連立政権が生まれた。マラーティー右翼と中道左派という、これまで不倶戴天の敵同士だったふたつの勢力が、ひとつ屋根の下で長続きするはずがない、というのがおおかたの見立てだった。

ところが蓋を開けてみると、まもなくやってきたコロナ禍の中でも安定した政権運営を見せ、同じ右派勢力でも対立関係にある勢力によるコミュナルなテンションを煽る活動にも上手に対処してきた。野党にあるときには、過激な破壊活動でも知られるシヴセーナーが?と思うような変貌ぶりにメディアや評論家たちもシヴセーナーの意外な柔軟さに、これまでと違う一面を見出したかのようでもあった。

しかし政権の亀裂は協力関係にある他党からではなく、一枚岩と思われていた党内から生まれた。長年、ウッダヴの右腕として活躍してきた幹部のエークナート・シンデーが同党の42名もの州議会議員を引き連れて反旗を翻すという未曽有の大反逆である。

これまでシヴセーナーの歴史の中で、州首相まで務めたことがあるナラヤン・ラーネーが脱党して国民会議派に入った(近年再度脱党して現在はBJP)り、先代党首のバール・タークレーが亡くなってしばらくは、息子で現代の党首のウッダヴと甥のラージの2頭体制だったものの、しばらくして後者が袂を分ったときも手下を連れて出ていき、新党MNS(Maharashtra Navnirman Sena=マハーラーシュトラ再建党)を結成などといったことがあったが、今回のシンデーのように党所属の州議会議員56名のうち、42名を連れて反乱というのは前代未聞。他の政党、会議派やBJPなどでも、これほどよ規模の反乱は記憶にない。まるで映画のような劇的な事件だ。

事の背景は、やはり連立政権の運営にあったようだ。ポスト配分はもちろんのこと、政権運営についても「本来の協力政党ではない相手に対して譲歩し過ぎ」「会議派のいいなり」という不満が募ってのことらしい。党首の弱腰を憂う志士たちが決起したという形だ。

議席数288の同州議会で、シヴセーナーを中心とするUPA連立政権の議席数は169。内訳はシヴセーナー56、ナショナリスト会議派53、国民会議派44、その他16である。他方、BJP率いるNDAは113。そしてその他の勢力は5、空席が1。

シヴセーナーの持つ議席数56から42が脱退すると、UPAの議席数は127。そのままでは過半数を大きく割り込んでしまう。

シンデーたちが、このままBJPのほうへ移籍するのかと言えば、BJP側は関与を否定しているとともに、ムンバイ市内では故バール・タークレーとその相棒が、党首のウッダヴ抜きでシヴセーナーを名乗るポスター等も現れるようになったり、シンデーに忠誠を誓う活動家たちの一派が動き始めるなど、党執行部をそのまま乗っ取るような動きもあるということで、大規模な脱党というよりも、党内クーデターの様相を示すことになるかもしれない。

シンデー率いる反乱勢力は、グジャラート州のスーラトに集結(決起集会のようなものか)した後、アッサム州のグワーハーティーに移動して現地のホテルから党首ウッダヴへに宛てた抗議文書の内容を明らかにしているが、まもなく一行はムンバイに戻るらしい。党内のウッダヴ支持派とシンデー支持派の衝突が発生することもあるだろう。

シンデーの乱により、政権が瓦解するのか、それとも「創業家」の2代目ウッダヴが追放されて、シンデーが今後シヴセーナーを率いていくのか?今後の展開から目が離せない。

Maharashtra Political Crisis: Can’t scare us, says Shinde after Sena demands disqualification of rebel MLAs (THE TIMES OF INDIA)

インドでアーディワースィー(先住民)の大統領誕生なるか?

次期のインド大統領選について、ちょっとビックリするニュースが入ってきた。先住民の女性がインド大統領、つまり形式上は英領時代の「インド総督」の立場に相当する存在であり、国家元首である。

インドの先住民族のひとつであるサンタル族出身の女性が、そういう立場に就く可能性が高いのだ。BJPを中心とするNDA(National Democratic Alliance)と国民会議派が率いるUPA(United Progressive Alliance)がそれぞれ候補を立てて、国会の上院と下院、連邦直轄地の立法議会の議員及び各州の立法議会の議員による投票により選出される。

出馬することが決まったのはBJP所属の先住民女性、ドラウパデイ・ムルムー氏。政治に関わるようになったのは出身のオリッサ州でBJPに加入し、同党のオリッサ州組織の先住民部族部会の長を務めるまでになった。

BJPが駆け出しの頃には都市部の中間層をコアな支持基盤としていたが、その後急速に都市部では国民会議派や左派政党の地盤、地方でも国民会議派や地方政党の票田を切り崩しながら支持を広げていった背景には、こうした地元の人々をも囲い込み、そうした人々を登用したうえで、先頭に立って働いてもらったことも背景にある。

反ムスリム、反クリスチャン的な行動で、社会の亀裂を深めているいっぽうで、社会の底辺にいたり、容易に社会から差別される存在になり得る低いカーストの人たち、先住民などを広い懐で包み込んで、機会を与えていることについては、正当に評価されるべきだろう。現在首相のモーディーだって、先住民やアウトカーストではないが、テーリー(油絞り)という低いカーストの出だ。

ブラーフマン、カーヤスタ、ラージプートといった高いカーストの人たちが政界を牛耳る時代はずいぶん昔に終わり、80年代後半以降はヤーダヴを始めとする「その他後進諸階級(OBCs)」が台頭した。90年代のビハール州は、そうした「成り上がり」を抑え込もうとするタークルその他、古くからの在地支配層と急伸するOBCsの間で暴力的な衝突、誘拐、報復などが相次ぎ、「カースト戦争」とまで揶揄された時代があった。

90年代以降のビハール州の政界のリーダーシップは、OBCsとダリットの三つ巴、四つ巴の戦いの場となり、今後もずっとアッバーカーストの人たちが牛耳ることはないだろう。

どこの州でも多かれ少なかれ、そういう流れになっており、政治の分野ではカーストの上下ではなく、カーストをベースとするコミュニティーの人口規模の多寡が政治力を左右するようになっていると言ってもよい。そうした背景がヤーダヴを筆頭とする後進階級出身の政治家たちが持つ、汲めども尽きぬパワーの源泉だ。

ビハールから部族地域が分離してできたジャールカンド州のように、マジョリテイーが先住民部族の人々の州となると、もう政界上層部、中層部を牛耳るのは部族の人々、州政府の閣僚も普通は部族という、政界ではあたかも部族でなければ人ではない、というような感じにすらなっている。

さて、このムルムー氏だが、その後はオリッサ州政府の大臣職を歴任。そしてジャールカンド州では知事にもなった人。対するNDAからの候補者は、現在トリナムール・コングレス所属のヤシュワント・スィンハー氏。この人は以前はBJP所属で党副総裁を務めていた頃もあったし、ヴァジペイー政権で財務相、外務相を歴任したこともあった大物政治家だったが、党と袂を分かちNDAとは対立関係にあるUPAにあるトリナムール・コングレスに加入。

どちらが大統領職に就くことになるか判明するのは7月20日過ぎになるが、やはり全国的に数で優勢なNDAの擁立するムルムー氏が勝利する可能性のほうが高いのだろう。

大統領職は名目上の立場であり、実権は首相が率いる内閣の手にあるため、シンボル的にマイノリティーであるムスリムが擁立されたり、スィク教徒が就任したり、女性がその職に就くといったことはこれまでもあった。

・・・とはいえ、かつてインドを支配した総督の立場に、独立後のインドでも引き続き社会の底辺にいた先住部族民出身の女性が就任するかもしれない、ということは、インド社会が大きく変化したことをダイナミックに象徴しているようで興味深い。

7月後半、この人が本当にインド大統領となることが決まったら、日本のメディアでもおそらく取り上げられることだろう。ドラウパデイ・ムルムーという彼女の名前は記憶しておくと良いかもしれない。

Teacher, MLA, Jharkhand Governor: Meet Droupadi Murmu, First Adivasi Woman To Become Presidential Candidate (Outlook)

蛇足ながら、こちらの動画は大統領候補となったムルムー氏を祝福するために彼女の自宅に集まる支援者たちとそれを迎えるムルムー氏の姿を伝えるもの。偉ぶらない人柄と謙虚な態度が感じられるようだ。

People Gather To Greet Draupadi Murmu At Her Residence (Kanak News)

ついにゴアでも「復興運動」を展開へ

ヒンドゥー右翼たちにより、デリー、アーグラー、マトゥラー、バナーラス等において、イスラーム教関係の施設や遺跡などに対して、「元はヒンドゥー教の寺であったものを、イスラーム教徒侵略者たちが破壊してモスクその他のムスリムの施設などに変えた」として、いろいろな運動が展開されているのはご存知のとおり。

そうした中で同時多発的に裁判も進行中で、「ヒンドゥー教徒による礼拝を認めろ」だの「ヒンドゥー教寺院であった証拠はこのリンガム状の物体だ」などとして、専門の学者ではなく、裁判所に認定を迫るかのような姿勢で、既成事実化して、しまいにはそれらの施設や遺跡を乗っ取りそうなムードだ。

これらは少なくとも表向きはBJPその他のサングパリワールと呼ばれる一連の関係団体によるものではなく、ごく普通の市民が縦横の連帯すらなく、自発的に始めた運動のようになっている。しかしたとえばバナーラスやデリーの事例のように、普通の主婦たちがわざわざそんなことに血道を上げるだろうか。いかにも怪しい。

こうした上げ潮の勢いが先日のBJPの広報担当者による預言者モハンマドを侮辱したとされる発言が出るまでに至ったのだろう。こうした動きはこれまで北部が中心であったが、イスラーム教徒ではなく「クリスチャンに侵略されたゴア」でも始まった。かつて存在したヒンドゥー教寺院、ポルトガル当局に破壊されたお寺を復興しようという動きだ。

ポルトガル時代に9割を越えたクリスチャン人口は、ポルトガル当局による苛烈なヒンドゥー教への弾圧に加えて、改宗すれば人種の違いに寛容なポルトガル植民地社会というインセンティブもあり、多くの人々がヒンドゥー教から離れてカトリックを受け入れたことが背景にある。

そんなゴアだが1961年のインドによる軍事侵攻により陥落し、強制的にインドに併合された後、当然のことながら相互で人口の大きな移動があり、現在はゴア人口の7割近くがヒンドゥー教徒となり、カトリックはマイノリティーに転落して久しい。

インドによる脅しと侵略への恐怖が現実化していた1950年代後半には、ゴア市民はこうなる事態、すでに「ゴアン」としてのアイデンティティーを確立していた人々は、インド人の大海に呑み込まれてしまうことを危惧していたのだ。当時のゴアはインドに対して比較的裕福で、インドはとても貧しかったこともそうした嫌インドの背景にあった。

インドがポルトガル領ゴアに経済封鎖を実施していた頃は、ポルトガルが支配するところのゴアとパキスタンは蜜月状態にあり、生活物資、食料その他の必需品がカラーチーの港からパナジの港へと大量に運ばれたという。

これまでゴアでクリスチャンとヒンドゥーの関係は悪くなかったが、こうした右翼の動きが浸透していくようなことがあれば、すでに多数派となっているヒンドゥー社会からクリスチャンが次第に排除されていく未来もあるのかもしれないし、今の時代を生きるカトリックのゴアンの人々の間から嫌インドという動きも出てくるかもしれない。

今後の推移を見守っていきたい。

Goa’s Own Gyanvapis: Govt To Reconstruct Temples Destroyed During Portuguese Regime? (Outlook)

もしかしたら朗報?効力停止されていたインドの発行済e-visa(tourist)も復活?

2020年春に効力停止されたe-visa(tourist)が、いつの間にか再度有効になった?昨年10月あたりに、観光ヴィザ以外は再度有効化のアナウンスが出ていたと思うけど、ついに観光のも息を吹き返したのか?

何しろ「(i) Currently valid e-Tourist Visa issued for five years, which was suspended since March 2020, shall stand restored to nationals of 156 eligible countries with immediate effect. Nationals of these 156 counties will also be eligible for issuance of fresh e-Tourist visa.」と書かれているのだ。しかし取り直したほうがいいような気もする。よくもわるくもインドであるし、「Nationals of these 156 counties will also be eligible for issuance of fresh e-Tourist visa.」ということなので、「新たに取得してもいいよ」というわけだ。

以下はインドの入国管理局ウェブサイト内の「観光ヴィザ、観光E-VISAの効力回復」の記事からの引用。今年の3月に発表されたものとのこと。

Restoration of Tourist/e-Tourist Visa for Foreign Tourist

MHA O.M No.25055/24/2022-F.V/F.I Dated March 15, 2022

In continuation of this Ministry’s O.M. of even number dated 21.10.2020 on the above mentioned subject and keeping in view the improvement in COVID-19 situation in India, the Government has considered the need for further relaxation of visa and travel restrictions.

  1. Accordingly, with immediate effect it has been decided that:

(i) Currently valid e-Tourist Visa issued for five years, which was suspended since March 2020, shall stand restored to nationals of 156 eligible countries with immediate effect. Nationals of these 156 counties will also be eligible for issuance of fresh e-Tourist visa.

(ii) Currently valid Regular (Paper) Tourist visa with validity of 5 Years, issued to foreign nationals of all countries, which remained suspended since March 2020, shall stand restored. Fresh Regular (Paper) Tourist visa up to 5 years validity may also be issued to the nationals of the eligible countries subject to the restrictions imposed from time to time.

(iii) Currently valid old Long duration (10) Regular Tourist Visa which remained suspended since March, 2020 shall stand restored for the nationals of USA and Japan. Fresh Long duration (10) Tourist Visa can also be issued to the nationals of USA and Japan.

  1. The Foreign nationals of Tourist/ e-Tourist Visas may enter into India only through designated Sea Immigration Check Posts (ICPs) or Airports ICPs by flights, including those under the Vande Bharat Mission or ‘air bubble’ scheme or by any flights as allowed by the DGCA or Ministry of Civil Aviation. In no case the foreign nationals will be allowed to enter through Land border or riverine routes on Tourist Visa/e-Tourist Visa. Order for opening of Land ICPs and riverine routes will be communicated separately.
  2. These instructions will not be applicable to Afghanistan nationals who will continue to be governed by the separate instructions issued by this Ministry regarding grant of e-Emergency X-Misc. Visa. All other health/ COVID-19 related matters, extant guidelines of the Ministry of Health and Family Welfare shall be adhered to.

以下は、インドのe-visaの申請サイト。

Bureau of Immigration (e-visa application)

観光用で有効期間30日間は25ドル、有効期間1年間だと40ドル、5年間になると80ドルということになっているが、日本旅券であれば期間にかかわらず一律で25ドルなので、5年間を申請するのがよいだろう。可能な入国回数はマルチプルで、1回の滞在は180日間を越えないことというのが条件になっている。

e-visaの場合は陸路入国が認められないというハンデはあるものの、大使館で申請する従来型のヴィザよりも有効期間が長いこと、大使館に出向く必要がなく、往復の航空券の提示も求められないなど、メリットは多い。申請から発行まで、現在のところは大変スムースで、多くは翌日には発行されているのも魅力だ。

そんなわけで、今すぐに行く予定はなくても、とりあえず取得しておいて、いつでも渡航できるようにしておくのもよいかもしれない。

AGNI PATH

17歳から21歳までの期間限定 インド軍のAGNI PATHという新たなリクルートのスキームがニュースになっている。AGNI PATH(アーグニ・パト=炎の道)という、昔のアミターブ・バッチャンの映画にあったようなタイトルだが、17歳から21歳まで4年間のみ限定のリクルートの形だという。

軍というものは、若くてフレッシュなマンパワーを大量に必要とし、年齢が上がってくるとそうした下のランクの兵士たちは不要になってしまう。そんなわけで、インド軍ではこのような形で毎年4万人程度の新兵を期間限定で採用し、22歳に至ったら除隊して社会に戻ってもらうというもの。その代わり、在籍する間の給与は思っていたよりも良さげな感じだ。

ただし、兵士といっても中途半端な期間と熟練度で、4年後に社会に放り出されても何もできない若者が毎年4万人も発生するとして、退役軍人からも批判があるようだ。アメリカのいわゆるGI BILLのように、一定期間従軍後、大学進学のための奨学金を払ってくれる(ゆえに「GI BILL」と通称される)ような制度であれば良かったかもしれない。

Agnipath scheme for four-year military tour of duty unveiled (India Today)