仕事とともに西へ東へ

近年、経済成長めざましいインドだが、同時に海外に多数の仕事人たちを送り出す出稼ぎ大国としての側面もある。単純労働者から高度な知識や技術を必要とするエキスパートまで、日々さまざまな人々が国境のこちらとむこうを行き来する。北米では、知的な専門職に就き社会をリードする立場にあるインド人、インド系の人々などが多く、東アフリカや中東などでも、大きな商いにたずさわる人々は沢山いる。
湾岸危機発生より前の時期にイラクを訪れたことがある。昨今伝えられる状況からはまったく想像もできないようないい時代であった。当時の政権の強力なリーダーシップのもとで非常に治安もよく、政治・宗教活動が厳しく制限されていたためでもあるが、過激派の活動などもなかった。イランとの間の戦争が終結して間もなかった頃である。
名だたる産油国のひとつでもあることから、他国からの働きにきた人々を多数見かけた。特にアラビア地域の非産油国からの人たちが多いようだったが、私が陸路入国した際、いかにも出稼ぎ然としたタイやフィリピンからの労働者たちの姿も少なくなかった。
滞在中、所用で訪れたバクダード市内総合病院では、多くの看護婦も医者もインド人であったことにちょっと驚いた。もちろんその後急展開した情勢により、イラク在住の外国人たちはたいへんな思いをしたわけだが。南インド、特にケララは中東以外にも欧州や北米などにも、看護婦として働く多くの人材を供給していることは広く知られている。

続きを読む 仕事とともに西へ東へ

BBC の存在感

BBC Hindi.comのサイト内で、穀物、果物その他に関連する語彙をワンポイントで教えるLearning English Idiomsというプログラムがある。これまでBean, Bananaなどが出てきていたが、本日現在取り上げられているのは『Fish』だ。
いつも“Hello ! I’m a very interesting and an intelligent man….”で語り始めるややエキセントリックな表情のアナウンサーが、魚に関するイディオムをユーモアたっぷりに視聴者に教えている。ごく数分程度のプログラムだが、ネットに接続するついでに覗いてみるとなかなか楽しい。なお、BBC World Serviceのサイト上にはLearning Englishというページも設けられており、ここには豊かなコンテンツが用意されている。
それにしてもウェブ版のBBC、世界中で33ケ語によるニュースを提供しており、うちアラビア語は北アフリカと中東、ポルトガル語もアフリカと南米といった具合に別々のニュースサイトが用意されている。どの言語においても文字、画像、音声等による最新ニュースや旬なトピックが満載だ。南アジアのみ挙げてみても、ウルドゥーヒンディーベンガーリーネーパーリータミルシンハーリー、と6ケ語で、それぞれの言葉が使用される地域の関心ごとを中心に、ニュースが構成されている。またこれらに加えて、英語によるアフリカ南北アメリカアジア・パシフィックヨーロッパ中東南アジア、そしてイギリスといった各地域ごとのニュースサイトもあり、どれも豊かな情報量を誇る。
近年、イギリス政府の対イラク政策について批判的な報道から、自国政府と対立するスタンスも話題になったことからもわかるとおり、BBCの報道の中立性、コンテンツそのものの信頼性について評価が高いことは言うまでもない。中国やミャンマーをはじめ、自国の報道が政府の厳しい管理下にあり、非常に偏重したニュースしか流れないような国において、外国発の自国語によるニュースに触れる手段さえ持っていれば、『ホントはどうなっているのか』を知る大きな助けとなることだろう。質・量ともに、BBC World Serviceの圧倒的な存在感には脱帽である。

『民資主義』は善なのか?

インドのパスポート発行事務について、申請受付と引き渡しの部分が民営化されるのだとか。これについては数年前から旅券事務に関わる現場で働く公務員たちの組合による抗議活動などが報じられていたが、ついに民営化の大枠の部分は決まったようである。
ちょっと前のことになるが、インディア・トゥデイ3月5日号にこの関係の記事が出ていた。これにより、パスポートの発給が迅速化され、わずか3日間で可能となる見込みとのこと。だが現在までのところ、世界的にも旅券事務の民営化の例は稀で、同誌は機密保持の観点から生じる懸念に焦点を当てていた。

続きを読む 『民資主義』は善なのか?

総体としてしっかり

ムンバイーを本拠地として一定の影響力を持つシヴセーナー。地元マハーラーシュトラの民族主義を基とするヒンドゥー右翼政党だ。彼らの『ヴァレンタインデイ攻撃』については、よく外国のメディアにも取り上げられるところである。ヴァレンタインのギフトを売る店を襲撃したり、『西洋的な退廃の浸透だ』などと大げさなアピールをワアワア繰り広げたりする。
数年前、ムンバイーで彼らがBJPとともに実行した『ムンバイー・バンド』を目の当たりにする機会があったが、前日に地元に暮らすU.P.州出身の運転手から『セーナー(シヴセーナー)のバンドは本当に怖いよ』と聞いていたのだが、実際あまりに暴力的かつ脅迫的なリーダーシップ(?)と、徹底した実力行使ぶりには背筋が寒くなる思いがした。
ちょうどその時期、党の創設者であり最高指導者であったバール・タークレーが表舞台から退き、実権を息子のウッダヴに譲り移した時期だった。これまで長きにわたり強い指導力を発揮してきたカリスマが退くことにより、求心力が低下するのでは?という声を払拭するために、このときに起きたムンバイー市内でのバス爆破事件への抗議活動としてのバンドを実行するのは、都合が良かったのだろう。あまりに極端で過激な劇場型政治である。
やはり代替わりの時期ともなると、新体制やその中での個々のリーダーたちの位置づけや序列などをめぐり様々な摩擦や衝突がある。翌々年のこの時期には、かつてシヴセーナーとBJPが連立した州政府首相まで務めたことがある大物政治家、ナラヤン・ラーネーが党を脱退してコングレスに加入して世間を騒がせたし、それまでウッダヴとともにシヴセーナー新世代の顔として、大親分のバール・タークレーの直近下位にあったラージ・タークレーも党を離れることになった。ラージは、先述のウッダヴのいとこであり、バール・タークレーの甥だ。

続きを読む 総体としてしっかり

世界最大のヒンドゥー寺院

デリーのアクシャルダーム寺院
新年明けましておめでとうございます。
ウェブ上で初詣ということで、お寺の話題をひとつ。
グジャラーティー・コミュニティを中核に、国際的な広がりを持つヒンドゥー組織BAPS (Bochasanwasi Akshar Purushottam Swaminarayan Sanstha)による大寺院、2005年に完成したデリーのアクシャルダームがギネスブックの『世界最大のヒンドゥー寺院』と認定されたのは昨年12月半ばのこと。
アクシャルダームといえば、グジャラート州のガーンディーナガルにも同じ名前の寺院がある。こちらは1992年建立で、もちろんデリーのものと同じくBAPSのお寺だ。敷地のレイアウトや本堂の姿形もよく似ている。ただしこの寺院には非常に不幸な歴史もある。2002年に起きたテロリストによる襲撃により、境内で多数の人々が殺傷されるというショッキングな出来事のことを記憶している人も多いだろう。
さて、このデリーのアクシャルダーム、私はまだ訪れてみたことがないのだが、建設当時かなり話題になっていたようだが、特に気に留めることはなかった。だがこのほどギネスブックに載ったことで、どんなものかと同寺院のウェブサイトを覗いてみると、これがなかなか面白そうだ。
建物内外の壮麗さはもちろんのこと、広大できれいに整備されたガーデン、巨大スクリーンによる映像、夜間に美しくライトアップされる噴水、様々の工夫と趣向を凝らした宗教関係の展示など、夢か幻かと思うような設備満載で、いわば宗教テーマパークのような具合らしい。その一端は同ウェブサイト内のPhoto Galleryで垣間見ることができる。
建築的にどうなのかということはともかく、各地の様々な要素が一堂に集まっているようでなかなか興味深いものがありそうだ。非常にバブリーな雰囲気が感じられるのはもちろんのことだが、これもまたインドの今という時代を反映しているようでもある。建立時期がごく新しい巨大寺院は他にもあるが、今の時代の都会での信仰というもののありかたを示唆する貴重な一例であるように思う。
2008年が皆さんにとって良き一年でありますように!