インドの駅舎

インド鉄道旅行の楽しみのひとつには、植民地時代から存在している歴史的な鉄道駅舎を楽しむこともある。

ムンバイCST、ハウラー、オールドデリー駅のような壮大な英国植民地鉄道建築は言うまでもなく、ハリヤーナー州の旧パティヤーラー藩王国には当時の藩営路線部分であっただけに、駅舎は個性的なデザインが施されたものであるし、同様にラージャスターン州、グジャラート州にも藩営路線があったため、かつての藩王家専用のプラットフォームであったところが残っていたり、バス路線による輸送に押されて、独立後にあまり発展を見せなかった路線では、「ガーンディーの塩の行進の時代もかくや?」と思われるような非常に古めかしい駅舎のままで残っていたりもする。同様に、地元の建築様式を反映させた駅舎も南インドなどで多く、長い汽車旅でプラットフォームに降りたそのときから「異国感」を感じることも少なくない。

そんなわけで、まるで国内線飛行機に乗るがごとく、出発の2時間くらい前には到着して、駅舎内を眺めて回ったり、用事もないのに列車のタイミングを尋ねるふりをしながら、駅長室その他を「ああ、ちょっとすみません」と覗いてみたりするのである。古くからある駅では乗客の待合室天井にパンカー(ファン。電化される前の植民地インドでは、天井から吊るされた板状のファンをサーバントが紐で振って風を送っていた。王家などでの様子として、時代ものの映画などで見られるシーン)があるなど、古い時代の痕跡がいろいろ見られるものだ。

もちろんインドの人たちは、そんなものに興味関心があるわけではなく、古色蒼然とした鉄道駅が好きなわけでもなく、今どきのインドで改築されたり新築されたりする駅は、そのような感じの建物ではなく、レンガとコンクリの無味乾燥な建物となるわけだが、このところはかなり豪華なものも造られるようだ。

ロークサバー(下院)での選挙区はバナーラスに移したものの、やはりモーディー首相お膝元のグジャラート州。州都ガーンディーナガルの新駅舎は、一昨日モーディー自身により開業式が行われたところなのだが、駅の上に300室を持つ五つ星ホテルが入るなど、複合施設を持つ大きな駅。プラットフォームを覆うドーム状の屋根は「コラムレス」つまり柱を持たず屋根そのものが支える構造だとか。

このような豪華な駅は例外的であるにしても、各地で駅舎がどんどん建て替わっているこの時代、「インド魅惑の鉄道駅~英領のヘリテージ~」みたいな写真集がどこかから出ないと、個人所蔵の写真以外にその姿を残すとなく、この世から消え去ってしまうことだろう。

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