REAL & FAKE “HERITAGE” HOTELS 2

【グレート・イースタン・ホテル】

カルカッタに現存する「ヘリテージ・ホテル」として大変有名なもののひとつに、1840年にオープンしたグレート・イースタン。ホテルがある。開館当時は欧州人専用の高級ホテルであり、シンガポールのラッフルズ、ラングーンのストランド、サイゴンのマジェスティックと同じような立ち位置であった。若き日のエリザベス女王が独立まもないインドを訪問した際にレセプションが開かれたことでも知られている。

グレート・イースタン・ホテルのファサード部分は現在も工事中。本来はここが正面入口。
BBDバーグに面した側はまだ工事が続いている。

1970年代には、グレート・イースタンは州政府に接収され、州政府関係企業のマネジメント下に置かれた。それに先立ち、銀行などの多くが国有化されたことに代表される社会主義路線を邁進していた(当時はそれがトレンドだった)当時のインドだが、この時期の西ベンガルでは共産主義への期待が高まり、共産党政権が成立して2011年まで途切れることなく継続した。

そんなグレート・イースタンだが2005年に閉鎖されるまでは、なんと1,500〜1,800Rs程度で宿泊できるロワーミドルレンジ(当時の物価)の宿に成り下がっていた。先述のエリザベス女王のレセプション以外にも、国賓(ニキタ・フルシチョフ他)が宿泊したことで知られる高級ホテルが、そこまで落ちぶれながらも運営が継続的していたという例を私は他に知らない。グレート・イースタンはBBDバーグにあり、閉館前にお茶を飲みに訪れたことがある。見事な建物とその堕落ぶり、スタッフの着ている制服も汚れてヨレヨレなことに、没落貴族的なムードを感じた。

2005年に閉館というのは、ホテルを所有していた州政府企業はかなり前から売却を画策していたものの、なかなか買い手がつかなかったことに加えて、労働組合との争議(新聞のウェブサイトでこの関係の記事を幾度か目にした)もあり難航していたのが、このときようやく決着したことによる。

買収したラリットグループは、全館大改修を実施し、再びオープンしたのは2013年。
表通りに面したファサードの部分は今なお工事中だが、営業している背後の部分を見ると、改修というより、新築したと言ったほうが適切なようだ。

左側は工事中部分、右側は新築された部分。
この部分は新築であり、グレート・イースタン・ホテルのレガシーを継承しているわけではない。

ヘリテージ・ホテルとは、オリジナルの姿が大切に保存されていてこそのもの。「同じ場所にあり同じ名前で運営している」だけで、そう名乗るのはおこがましい。莫大な資本を投下しても本当の伝統は買えない。グレート・イースタン・ホテルは地上から永遠に姿を消し、今そこにあるのは「グレート・イースタン」を名乗る豪華な「別モノ」だ。私はこれをヘリテージ・ホテルとは呼びたくない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


上の計算式の答えを入力してください