タイ側のメーサイではタイ各地からそれなりに人々が集まってきて商売をしているように、ミャンマー側のタチレクでも同様にミャンマー各地から人々が集まって町を構成しているため、橋ひとつ渡ってきただけでも、ずいぶん町中の様相は異なる。
目にする文字が異なるだけではなく、通り沿いにある看板や商店に貼られた広告の類もそれぞれの国の企業のものになるし、食堂を覗いてみてもタチレクでは当然のことながらミャンマー料理の店がほとんどとなり、メーサイにはいくつもあるセブンイレブンのようなコンビニエンスストアはタチレクにはまだないようで、昔ながらのよろず屋が細々と商売している。
せっかくなので町中を観光してみようと思い、何台ものトゥクトゥクが客待ちしていた国境の橋のたもとに戻ると、さきほどのインド系巨漢のサリームがまだ居たので声をかけてみた。彼自身がトゥクトゥクを運転するようで、町中のお寺をいくつか回ってもらうことにした。
特にこれといった名刹があるわけでもなく、元々小さなマーケットしかなかったところで、近年人口が急増するに従って出来たような新しいお寺ばかりのようではあるが、それなりにミャンマーに来た気分にさせてくれるのは、これらがビルマ様式であるからだ。もっとも中には、祭壇にビルマ式の仏像とタイ風の像が同居しているケースもあり、それはそれで国境の町らしくて面白かったりする。
見物を終えて、国境の橋のたもとにあるマーケットを散策する。案外、洒落た店や大きな商店もあったりする。規模が大きな商店を経営しているのは、漢字が書かれたお札や祭壇など、店の佇まいからして、やはり華人が多いようだ。置かれている商品もセンスもタイには遠く及ばない感じだ。川を挟んだ国境の時差は、30分ではなく、30年くらいあるような気がする。もっとも30年前のタイ側のメーサイには、今のミャンマー側のタチレクのマーケットにふんだんに出回るケータイやスマホは無かったわけだが。
しばらく見物してからタイ側のメーサイに戻る際、サイレンを鳴らして進むミャンマーのナンバープレートを付けた救急車がタイ側に越境していくのを見た。やむにやまれぬ事態が生じた場合、タイ側の病院に移送して処置するという措置がなされているのだろうか。二国間関係は決して悪くないミャンマーとタイなので、さもありなんという気はする。
ミャンマーの入国管理事務所で、さきほど受け取った預かり証を渡してパスポートを返却してもらう。すぐ右手には小ぎれいなレストランと商店が入ったビルがあるが、洋酒類などを販売する「免税店」も入居していた。