まだ鉄道や現在のように整備された国道網もない時代、中世のインドで陸路旅する人々を震え上がらせた盗賊たちがいた。ダークーとタグである。前者はどこからともなく現れて強盗を働く武装集団で今もしばしば地方で列車やバスなどを襲撃する事件が新聞等に報じられているが、後者は当時のインド独特のものだろう。獲物となる旅の一座にしばらく同行して相手が信用しきったあたりで場所とタイミングを見計らい一気に全員を殺めて金品を奪う。多くの場合、大掛かりな武器はあまり持たずハンカチ一枚で相手の首を絞め上げて葬り去るというのが典型的な手口であったようで実に大胆不敵なものである。
まがりなりにも警察機構が国の隅々にまで行き渡っており、交通機関も整備されて切符を買って列車なりバスなりに乗り込めばどこでも好きなところに安全に移動することができる現代と違い、どこにどのような危険が潜んでいるかわからず自分たちの力だけが頼りの時代だ。ゆえにより多くの人数で移動したほうが安心感は大きかったであろうことは言うまでもない。まさに「旅は道連れ」である。自分たちと同じ方向に行くという相手がそれなりの身なりできちんとした印象の人であれば、喜んで迎え入れられたことは想像に難くない。裕福で地位もある人も多数被害に遭っているようなので、盗賊とはいえ気品、教養、風格などを持ち合わせた騙しのエキスパートたちであったのだろう。植民地時代のイギリス当局も彼らへの対応には手を焼いていたようだが、1830年代には彼らの活動をほぼ根絶することに成功する。
ちょっと古い記事になるが、インディア・トゥデイの7月25日号に「現在のタグ」と題した記事が掲載されていた。「鉄道内で知り合った相手に飲食物を勧められ、それを口にしたら意識が無くなり金品すべてを盗られていた」というものだ。昔からインド各地はもちろん他国でもしばしば耳にする古典的な手口であるが、パンジャーブのアンバーラーから西ベンガルのマールダーまで、つまり北インドを横断する鉄道ルート上において、近年この種の事件が急増しているのだという。
記事中には複数の実例が挙げられているが、そこには日本人とされる被害者ことも書かれていた。「ゴーギーマー(小嶋?)」という名前のその人はバナーラス近くのムガルサライから乗車し、ダージリンへ向かうルートへの入口となるニュージャルパイグリーが目的地であったが、彼が気がついたときは下車する予定であったその町の病院のベッドの上であったという。
睡眠薬類の錠剤を水に溶いたもの、あるいは最初から液状になっている薬物を注射器でパック入り清涼飲料水なり、包装されたビスケットなりに注入したものを犯行に使う。とこういう事件を起こす輩は、単身あるいは二、三人連れの男性かと思えば、そうとも限らないらしい。家族連れを装った仕込みかもしれないが幼い子を連れた夫婦であったり、一人で乗車している女性であったりこともあるようだ。もっとも実行犯はかならずしも薬物入りの飲み物や菓子類などを被害者に食べさせる者ばかりではなく、一味の者たちが複数、素知らぬ顔をして近くに座っているのかもしれない。
ビハールの鉄道警察関係者によれば、こうした薬物を使った昏睡強盗の手口を伝授するところが同州内にいくつかあるとのことだ。犯人たちは個々に単独で行動しているものとは限らず、かなり組織的なものが背後にあるのかもしれない。
現代の鉄道車内に跋扈する彼らが中世のタグたちと違い、被害者たちの命までは奪うことを意図していないとはいえ、出先で身ぐるみ剥がされたりしたらそれこそ大変なことになる。またこの類の事件で昏睡状態からそのまま死亡してしまったり、後遺症が残ったりというケースはときに耳にするところだ。
今のところこうした「現代のタグ」たちが暗躍するといえば、前述の北インドの鉄道路線上を走る列車の中でも、特に庶民たちが利用する下のクラスの車両が主たるものだとされるが、今後いろいろ広がりが出てくるかもしれない。多くの場合、土地に縁もゆかりもなく、地元の事情にも疎い外国人旅行者ばかりを立て続けに狙うようなケースも充分想像できるだろう。
停車駅から列車がガタン動き出すあたり、車内を人々がワサワサ行き交う時間帯には荷物の置き引きなどが多いが、これとあわせて「現代のタグ」にも充分注意したいものである。
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デンジャラスな『構造』
タクシーでアッサム州のシブサーガルの遺跡めぐりをしていると、ふたつの事故現場を目にした。どちらもトラックの右車輪が上を向いて路肩に止まっている。横転する直前でなんとか持ちこたえたという感じである。前輪左右をつなぐシャフトが折れていた。昔からこういう事故はよく目にするが、過積載が原因であるにしてもどうしてこんなところが折れるのだろう。もともと構造上問題があり強化すべき箇所なのかもしれないが、相変わらずこういう現象は多く目にする。
自動車、特にトラックの欠陥については日本でも近年、自動車メーカーによるリコール隠しが話題となっていたが、インドでも同様に構造不良による事故はかなり多いのかもしれない。でもよくよく考えてみるとインドでは本来設計時に織り込まれていない使いかたがなされることが多い。ギネスに挑戦しているかのようにびっくりするほど大人数を詰め込んで走る乗り合いのSUMO、荷台よりもはるかに巨大な積荷を載せて走るトラック、メーカー想定外の改造がなされた車両などが多いことを思えば、本来の仕様を越えた使い方にまで製造者が責任持つ必要もないはずだ。でもそれを承知で無理をする市場があることを知りつつ各メーカーは販売しているはずなので、ちょっと考えさせられるものがないではない。
ご存知のとおり、インドの好景気に乗り遅れまいと国内外さまざまなメーカーにより、以前は想像できなかったほど豊かなバリエーションの乗り物が市場に送り出されるとともに、海外から新規参入や既存メーカーの生産ラインの大幅な拡大が続いていることが報じられている。いっそのこと最初から同じサイズで『過積載仕様』に設計した『4人乗りバイク』『14人乗りSUMO』『20トン積みトラック』『屋上座席付きバス』といった超ヘビー・デューティーなクルマをリーズナブルな価格で投入してみては?なんて無理なことを夢想してしまう。
HIT & RUN

アッサム州のジョールハートの空港に着いた。運が良いことにちょうどそこからシブサーガル行きのバスがあるとのことで乗り込む。空港からしばらく走るとジョールハートの市街地に出る。ジョールハートは、アッパー・アッサムへの玄関口であるとともに、ここから南東へ続く道はナガランド州へ、北西への道路はアルナーチャル・プラデーシュ州につながる交通の要衝でもある。郊外に出たバスはシブサーガル方面には国道37号線に乗り入れる。
片側二車線で舗装の状態も良好な快適な道が続いている。運転手はギアを一段下げてアクセルを大きく踏み込みバスをガガーッと加速させていく。まさにそのときだ。進行方向向かって左側に何かが衝突し、バス左側面にそれが嫌な音を立てながら引きずる音がしたのは。
車内の十数人ほどの乗客たちが総立ちになって左後方へ顔を向けている。そこには自転車とともに路面上に横転した男の姿があった。背後から陽が差しているため外傷があるのか、流血しているのかはわからないのだが、男はなんとか立ち上がって自転車を運ぼうとしているように見えた。
後続車がなかったのは幸いであったにしても、加速中のバスに衝突して無事であるはずはないだろう。街にどの程度の救急医療施設があるのかわからないが、急いで病院へ搬送されるべきである。
デリー発ラーホール行き列車でテロ
デリーからパーキスターンのラーホールに向うサムジョーター・エクスプレスは現在往復週二便運行されているが、日曜日にデリーを出発したこの列車が深夜前後にパーニーパト付近を通過中に二度爆発し炎上。乗客の7割以上がパーキスターン国籍の人々であったとされるが、現在までこの列車に乗り合わせていた人々のうち66名の死亡が確認されている。
タイミングからして、明らかにパーキスターン外相が今月20〜23日の予定でインドを訪れる直前を狙って印パの対話を妨害しようという、両国間の関係改善の流れに揺さぶりをかけようという試みなのだろう。犯行グループが所属すると思われる組織名がふたつばかり挙がっているものの、まだどちらからもテロ実行に関する声明は出ていない。いかなる主義・主張があろうとも、こうして人々を巻き添えにする暴力が正当化されることはないし、一般市民の共感を得ることはあり得ない。
それでも両国の人々にとって相手国への不信感を生じさせ、今後政府間の対話に大きな差し障りを生むことは確かだろう。まさにそれこそが犯人とその背景にあるものの目的であり、現在の両国の対話ムードに冷水を浴びせることができれば大成功といったところであろう。それにしても印パ分離以来すでに60年経とうかというこの時代になってもその悲劇を逆手にとってこうした事件が起きるのは実に悲しいことである。
どの国にあっても、私たち普通の市民にとって一番大切なことは世の中が平和であること、日々の暮らしが安全であることなのだ。血を流すような抗争、身内や自分自身が命を落とすかもしれないような争いなど誰が欲するものだろうか。不幸にもこの事件で犠牲になられた方々の御冥福をお祈りするとともに、無辜の市民を犠牲にする暴力に対して大きな怒りを表明いたしたい。
Samjhauta Express blasts (The Times of India)
狂気が駆け抜ける!(2)

Wikipediaの狂犬病に関する記事にアクセスしてみた。狂犬病とはすべての哺乳類に感染する病気であり、発症後は躁と欝の状態を繰り返すらしい。また恐ろしいことに発病したら治療法がなく、症状が現れてから遅くとも一週間で前後でほぼ100パーセント死亡するという。なんでも2004年に発病しながらも自然治癒したという例がアメリカにあるそうだがこれはギネスブックに載ることになったというほど稀で幸運なケースであるそうだ。
狂犬に噛まれた場合は予防注射をしていた場合は2回、そうでない場合は6回ワクチンを打つ必要があるという。また噛まれる場所により潜伏期間が違うらしい。体内に入ったウイルスが1日に数ミリから数十ミリ程度の速度で進み、神経系を介して脳神経組織に到達したときに発病するものであることから、要は咬まれる部位が脳に近いほど潜伏期間が短いということになり、二週間から数ヶ月という具合に大きな幅が出てくる。そのため脳にごく近い顔の部分を咬まれたりすると、ワクチンの接種を開始しても間に合わなくて発病というケースもあるらしい。だから『感染の可能性がある動物を抱え上げて遊んでやっている際にやられた』なんていう場合には、即座に病院に急行すべきである。
咬まれるだけではなく、感染している動物の唾液が目や口などの粘膜に触れるだけでも感染し得るということにも注意が要るだろう。だから『犬が咬んできたけどズボンに穴が開いただけで済んだ』とか『上着だけ咬まれた』という場合であっても、その衣類の扱いには相応の注意を払ったほうがいいかもしれない。