『旅行人』2008年上期号はグジャラート特集

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年10回発行から季刊、そして年2回発行(6月と12月)へと移行してきた旅行人。内容も旅先の宿の情報ノート的なものから、地域の文化やアート等の紹介も含めた旅行情報誌へと脱皮してきた。特集記事については、学術関係を含めた該当分野の専門家による記事も載るなど、好奇心あふれる若いバックパッカーのための旅行情報誌から、旅をテーマに落ち着いた大人向けのクオリティ・マガジンへと変化してきている。
発行元の事情もさることながら、旅行雑誌『旅行人』の前身であったミニコミ誌『遊星通信』時代からの読者も含めて、読者がそれなりの年齢層になってきているということもあるようだ。水モノの旅行情報よりも土地の魅力そのものの紹介、記事内容と印刷ともに量よりも質を重視した(年10回発行のころよりも号ごとのページは増えた)誌面構成になっている。その旅行人の最新刊である2008年上期号でインドのグジャラート州を特集している。
もともとグジャラートといえば、歴史、宗教、自然のどれをとっても偉大な遺産の宝庫であり、隣のラージャスターン州に負けず劣らずのきらびやかな観光スポットに恵まれた地域という印象を受けていたが、なぜか観光客がさほど多く訪れない穴場的な地位に甘んじていることについて私自身、常々不思議に思っていた。
デリーやムンバイーからのアクセスが悪いわけではなく、インドでも経済面で先進的な州のひとつということもあり、文化的かつ便利な地域である。ただマイナス面といえば、連邦直轄地で行政的にはグジャラート州外にあるダマン&ディーウを除けば禁酒州であること、夏が非常に暑いこと、2002年にゴードラー駅で起きた列車焼き打ち事件をきっかけに発生した大規模な暴動によるネガティヴなイメージくらいだろうか。
この特集で取り上げられているのは、アーメダーバードに点在する、ルイス・カーン、コルビュジェといったモダニズムの巨匠たちによる現代建築、チョーター・ウダイプル近辺の先住民のペインティング、カティアーワル半島の魅力的なスポット、カッチ地方の中心地ブジとその周囲の村々、この地域に暮らす少数民族ラーバーリーの人たちの生活文化などである。
数々の美しい写真とともに、読みごたえのある内容であった。残念ながらどこの本屋にでも置かれているという訳ではないので、心当たりがなければ同社のウェブサイトで購入することも可能だ。ぜひご一読されることをお勧めしたい。

PEN 『新しいインド 永遠のインド』特集

pen
遅まきまがら、現在発売中のPEN12月1日号はインド特集。『Amazing INDIA』のキャッチコピーとともに取り上げられている内容は、デザイン、テキスタイル、音楽からはじまり、料理に教育、ITに旧王族といった具合だ。スポットを当てるフィールドそのものには新鮮味や未知の発見があるわけではない。昨今のインド特集といえば、ことさら伝統的なものや古い側面と、最新のトレンドや華やかな消費生活を対比させて、『多様性の国だ』と演出しているものが多いが、そういう扱い方自体や紹介の対象となるモノ自体がマンネリ化しており、逆に『インドはこうですっ!』と、やけに画一的な印象を与えてしまいかねないことが気にかかるこのごろである。
それでもインド建築研究家による署名記事とともに、特集の協力者名に各方面専門家や有識者の名前があるなど、『クオリティ・マガジン』を謳う同誌らしく、インドのモダンな部分と伝統的な部分両方を、一般読者に伝えるために質の高い特集を目指しているようである。それぞれの記事は決して悪い内容ではなかっただけに、すでに手垢のついた手法で特集が組まれていたことのみが惜しまれる。
コンテンツそのもの以外に注目すべきことのひとつとして、この号で主要三都市として挙げられているのはデリー、ムンバイーに加えてバンガロールであることが挙げられる。最初のふたつは首都と最大の商都であるから当然のこととして、三番目が昔ながらの『四大都市』の残りふたつ、コールカターとチェンナイではなく、90年代以降急浮上してきたカルナータカ州都。在留邦人数も日本からの投資額はもちろん、IT関連という旬な産業で注目される街である。
年2回開催されるJETROによるBJTビジネス日本語能力テストの試験地もニューデリー、バンガロール、ムンバイー、プネーとなっている。今年度において前者ふたつは2回とも実施、後者ふたつは交代で隔回実施となっている。つまり『ビジネス日本語市場』としては、ムンバイーよりバンガロールのほうが上位になっていることがここに端的に示されているのだ。独立以来、軍需産業や電機産業が隆盛しつつも、諸外国から見ればインドに数多くある工業都市のひとつにしか過ぎなかったこの街だが、今や経済を主とする日本とのつながりという点で非常に深いものがある。また港湾を持たず内陸に位置するこの地方都市がインドを代表する国際都市にまで成長していることは、まさにこの街をリードする産業が重たくてカサ張る『モノづくり』ではなく、『頭脳』やそこから生み出される『アイデア』であるという性格を顕著に表わしているようでもあり興味深い。
各都市と日本とのつながりはさておき、近年の急速な発展のもとで地域格差も大きく広がりつつあるインド。前例のない好調な経済成長を続ける都市は、内外の更なる投資を呼び込む。労働市場としても拡大するにつれて外部からの人口が流入するとともに、都市部や周縁の郊外地域が拡大していく。そのいっぽう、停滞を続けている都市、成長を記録しつつも低率で推移しているエリアへ内外の注目度は相対的に低くなっていく。インド国内での地域間、都市間のバランスも大きく変化しつつあるのが今の時代である。新しいインドにおいて、四大都市という言葉の示すものが入れ替わる日、あるいはその言葉自体が死語となる日もそう遠くないのかもしれない。

インドもの続々 ロンリープラネットのガイドブック

India, Northeast India, South India, Bhutan
いまや旅行ガイドブックの老舗となっているロンリープラネット社だが、いわゆるバックパッカーの先駆けであったトニー・ウィーラーとその妻モーリーンがアジア横断旅行後、1973年にオーストラリアにて創業。当時はオーストラリアやイギリスなどからアジア方面に出かけるヒッピー旅行者や安旅行者などの読者を相手にしたベンチャー企業であり、今日のように世界中の書店にLPのロゴが入ったシリーズもの旅行案内書を大量に供給するまでになるとは想像できなかったことだろう。
ガイドブック『India』の初版は1981年発行で、今年9月に出たものは12版目となる。さっそくこれを手に入れてパラパラめくってみた。いつもどおりシンプルなレイアウトで写真類が少ない分、情報がギュッと濃縮されている。従来の版が全部で1120ページであったのに対して、今度は1236ページと着実に増えている。ただし紙厚が変わったのか重ねてみると、わずかながら薄くなったように見える。(これまで私が使っていたものが繰り返しめくっていたおかげで背が広がってしまったのかもしれない)

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ついに発刊! Lonely PlanetのAfghanistan ?

しかしながら1978年以前そうであったように、これといった産業がない同国に治安の安定が訪れれば、観光業が国の基幹を支える重要な産業のひとつとなるべきであることは間違いない。国庫への歳入への貢献、外貨収入はもちろんのこと、同業への諸外国からの投資、関連する様々な業種で人々への雇用をもたらすことが期待される。
このガイドブックに取り上げられているAfghan Logistic & ToursGreat Game Travelといった旅行代理店などは、来るべき時代を見据えて着々と準備をしているのだろう。
ところで在日アフガニスタン大使館のサイトを覗いてみた。これがなかなか頑張っていて好感が持てる。
同国政府、経済、歴史、文化等々にかかわる様々な記事が和文と英文で用意されており、アフガニスタンを積極的にPRしていこうという姿勢が伝わってくる。駐日大使館が発行するニュースレターもPDF形式で公開されている。新興国においては若くして活躍する外交官、政治家が多いが、このサイトで紹介されている駐日大使もまだ30代後半。日本に赴任する前には駐米全権大使代理という職にあったそうだ。限られた予算の中で、先頭に立って色々前向きに取り組んでいるのではないだろうか。
サイトには旅行情報も掲載されている。各地の名所、主要都市間の距離を示した一覧表、航空会社やホテル情報へのリンクも含まれている。ここでもやはり国内事情さえ許せば観光業を振興させたいという強い意志を感じずにはいられないだろう。
ここからリンクが張ってあるアリアナ・アフガン航空だが、首都カーブルからデリー、イスラーマーバード、アルマトイ、テヘラーン、ドゥシャンベといった周辺諸国の主要都市からの便だけではなく、ドイツのフランクフルトへも毎週往復しているとは知らなかった。
同社によるデリー発カーブル行きは火・土の週2便だが、我らがインディアン・エアラインスはこのルートを火・木・土・日と4便も飛ばしている。デリーを朝9時40分に出て、3時間後の12時40分にカーブルに到着。
首都だけでもDarul-Aman PalaceBagh-e-BabulKabul MuseumBala Hissar、Mausoleum of Nadir Shah
OMAR Land Mine Museumといった見どころは多いので、比較的安全とされる首都市街地のみに数日滞在してトンボ返りするだけでも充分楽しめるかもしれない。
私自身は今のところ訪れる予定はないのだが、とりあえずガイドブックを眺めてあれこれ思いを馳せつつ楽しんでいる。アフガニスタンの人々が安心して日々送ることができる未来を願い、そこを気楽に訪れることができる日が近い将来訪れることを祈ることにしよう。
あまり売れそうにない(?)ながらも、意欲的かつ実際的な旅行案内書が出たおかげで、ページをめくりつつイマジネーションを働かせて脳裏に具体的な風景(・・・といっても想像力の乏しさから頭に浮かぶのはペシャーワル近辺そのままの光景でしかないが)を描き『紙上旅行』楽しむことができるようになっただけでも大きな進歩かもしれない。Lonely Planetに感謝!である。

素敵な図版満載のガイドブック

EYEWITNESS INDIA
『これはなかなかいいよ』
手にとって薦めてくれたのはインドに長く暮らす親友L君だった。彼にはいつも何かと世話になっている。
イギリス系の出版社DK (Dorling Kindersley)から出ているEYEWITNESS TRAVEL GUIDESというシリーズのINDIAという本である。表紙のデザインは凡庸だが、ひとたびページを開いてみれば、他の多くのガイドブックとの違いは明らか。エントリーされている土地の多さでは、LP(ロンリープラネット)のINDIAに匹敵する。しかしこれとはまったく性格が違う本なのだ。

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