どこで何を学ぶか

インド人居住者の増加が続く昨今、すでに東京都内にIndia International School in JapanおよびGlobal Indian International Schoolがある。横浜にも近く新たなインド人学校がオープンする予定がある。よく知らないが、おそらく関西その他の地区でもこうした動きがあるのではないかと思う。単身者ならともかく、家族連れで来日するインド人サラリーマンは多い。日本で暮らすにあたり、いろいろ気にかかることは多いだろうが、とりわけ切実なのは子供たちの教育問題であることは想像に難くない。しかし最近、こうした学校の簡介を手にしたのだが、授業料の案内の部分を目にして思わず唸ってしまった。

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学園の輸出 2

 だがひょっとするとインドに負けず劣らず注目を集めているのが中東の産油国かもしれない。オイルリッチな国々も『石油後』を見据えての人材育成に乗り出すようになってきているからだ。このほどサウジアラビア政府は先進各国に相当数の政府派遣留学生の送り出しに着手することになっており、もちろん日本もその受入国のひとつとなる予定だ。
 またカタールにはアメリカから複数の大学院が現地分校を進出しており、アラブ首長国連邦を構成する首長国のひとつドバイでは、知識と学問のセンターとして設立されたKnowledge Villageに様々な外国の大学が進出している。設置されている主なコースはビジネス・マネジメント、IT、薬学、建築、観光学、金融etc.といったいわゆる実学ばかり目に付くことから、まさに脱石油による知識経済化を目指すための人材を育成したいという姿勢が感じられる。
 ここで目を引くのは、インドの複数の機関が含まれていることだ。それらの名前は以下のとおりである。
Birla Institute of Technology & Science Pilani
Institute of Management Technology
Mahatma Gandhi University
Manipal Academy of Higher Education
 なお、このKnowledge Villageにはパキスタンから進出している教育機関もある
Shaheed Zulfikar Ali Bhutto Institute of Science and Technology
 英語による専門教育という強みはもちろん、地理的な近さと歴史的にインド人のプレゼンスが決して小さくないことからくる人的ネットワークの厚みなど、湾岸地域においてはインドに有利な部分が多いのだろう。昔から建設現場や工場などで働く単純労働者たちはもちろん、建築家、医師その他の高度な技能を必要とする職種のプロフェッショナルたちもインドから数多く渡っている。またインド人の語学(英語)教師の需要も少なくないと聞く。英語といえばインドの隣国ブータンの英語教育の礎を築いたのはインドから派遣された教員たちだというし、『インドの英語』の評判はなかなか良好らしい。
 地域に固有の学問ではなく、経済や工学といったユニバーサルな学問分野におけるインドの教育機関の海外分校設置という動きは、そのポテンシャルも含めて今後注目に値するのではないだろうか。

学園の輸出 1

 アメリカやオセアニアではかなり早くから教育をひとつの大きな産業ととらえて、積極的に外国からの留学生たちを誘致したり、海外分校を設置したりする動きがあった。1980年代後半から90年代初頭にかけて、日本各地にアメリカの大学の日本校が30校とも40校ともいわれる規模で進出したことを記憶している人も多いだろう。ちょうど当時の中曽根首相が音頭を取り、官民あげての『貿易黒字減らし』の風潮の中、またどこを向いても『国際化』のコトバが叫ばれていたこともあり、ちょっとしたブームになるのではないかと期待させるものがあった。
 だがそれらは日本の文部省(現文部科学省)の基準に適合しないため、卒業しても大卒の資格を得ることができなかった。アメリカの大学の日本校にしてみれば日本のスタンダードに合わせるつもりはさらさらないという設置形態の問題、そして入るのは難しくても進級して卒業するのは易しい日本違うスタンスを持つアメリカの『大学』に対する考え方があった。さらには学費の高さやアメリカの大学側の期待を大きく下回る日本校に入学した学生たちの英語力の問題等々、誘致した側にとっても進出したアメリカの大学側にしてみても決して将来が明るいものではないことがわかるまで長くかからなかった。
 その結果、9割ほどが10年あまりのうちに撤退。その中でも特筆すべきはワシントン州立エドモンズ大学日本校東京キャンパスで、なんと開校から2ヵ月あまりで閉校を決めるという逃げ足の速さはやはり『ビジネス』ならでは・・・と感じた人たちは少なくなかっただろう。
 しかし少子化がすぐ目の前に迫った大きな社会問題として認識されるようになった現在、日本の大学は生き残りのために外国人留学生獲得に躍起になっているところは多い。また良質かつ高度な知識と技術を持つ将来の労働人口を確保するためにも、留学生の誘致によるメリットは大きい。隣国の韓国においてもこの動きは同様だ。今や北米、オセアニア、東アジア、欧州の各国が世界のさまざまな国々から留学生たちの気を引こうと、留学フェアその他の機会を利用、あるいは現地に学生募集窓口を設置したりするなどして、留学生獲得に積極的に乗り出している。同時に現地にキャンパスをオープンさせるという動きも、アメリカ、イギリス、オーストラリアなどの大学が中心となって推し進めている。
 そうした中で、世界の成長センターであるとともに世界最大の若年者人口を抱えるインドを新たな市場として分校を狙う大学が増えてきている。これはまさにバブルの頃の日本にアメリカの大学が次々と上陸していたことを思い起こさせるものがある。

インドIT留学

インドIT留学
 もはや自他ともに認めるIT大国となったインドだが、近ごろ日本の留学斡旋業者たちもインドへ熱いまなざしを注いでいる。
 多くは数週間から1年程度のプログラムで、留学というよりも研修いった印象を受けるが、コンピュータ・プログラム関係以外に英語も学べるし、余裕があればヨーガやアーユルヴェーダ体験も・・・といった付加価値をつけることもできる。それなのに先進国に比較して費用が格段に安いというのがウリのようだ。
 日本からインドへの留学といえば、インドそのものに関わる学問、そして特定の専門分野に集中する傾向が強かったため、一般の人々にとってあまり馴染みがなかったかもしれない。しかし従来からインド周辺国やアフリカ諸国などからは経済学、工学、医学、法学、教育学その他いわゆる「実学」を学ぶ留学先として人気が高かった。 
 もちろんここでも先進国に比べて学費が安いこと、外交政策上インド政府が国費により各国から留学生たちを毎年多数招聘していることもある。つまりインドという国に何の関心も持たなくても、「インド留学」の動機はいくらでも転がっているのだ。
 それにしても途上国でありながら広範な分野で世界レベルの優秀な大学を多数抱えていることはまさに「知の国」の証であり、英語で専門教育を受けることができるのも大きな魅力である。
 今後日本でもインドの教育分野における「実力」について広く知られるようになってくるのだろうか。すくなくとも「悠久の大地」や「不思議の国」といった言葉で語られるのではなく、インドのより現実的な部分が身近になってくるのは喜ばしいことかもしれない。


▼ECCインド留学プログラム
http://www.eccweblesson.com/india/program.html
▼ソフトブリッジ
http://www.j2i.jp/
▼毎日留学ナビ
http://ryugaku.mycom.co.jp/ind/
▼グローバル・パートナーズ
http://www.gp21.co.jp/school/programs/it_india.html
▼World Tech
http://www.world-avenue.co.jp/wa_tec/ContentFrame.htm
▼Aptech Ltd.
http://www.world-avenue.co.jp/wa_tec/it_APTECH.htm
▼留学のグローバルスタディ
http://www.global-study.jp/IT/india_it.html

インド人学生は日本を目指すか?

 以前、ビジネス日本語能力をはかるJETRO TESTがついにインドでも行われることになったことを書いたが、今年から日本留学試験もインドのニューデリーで実施されるようになる。年2回、6月と11月に、日本国内では15の都道府県、国外では12か国・地域の15都市での実施が予定されている。ちなみにインドでの受験料は500ルピーとのことだ。
 この試験は、外国人留学生として日本の大学への進学を希望する人たちを対象に行われている。ふつう留学生たちが日本国内の大学に志願する際に、この試験を受けていることが必要で、学校によってはある一定のスコアをマークしていることが出願の条件になっている。
 もともとインド人の留学先は欧米志向であること、インド国内にも数多くの良い大学があり、様々な国々からやってくる留学生の受け皿にもなっていること、そして学費も非常に安い(インド人学生が自国で進学する分には)こともあり、以前もこの「つぶやきコラム」で書いたように、よほどのことがなければ日本での進学を選択する動機がないように思える。
 しかしこれら点ついては中国も同様だが、今年度の日本への留学生総数およそ11万7千人中の7万8千人近く、つまり66%を占める最大の「お得意さん」なのである。
 中国からやってくるトップクラスの学生たちは非常にレベルが高いのだが、全体を眺めるとピンからキリまで実にさまざまである。
 今のところ「海外遊学」は一般的でないにしても、政府が特に力を入れて重点的に予算配分する、いわゆる国家重点大学とされているところに入れなかった者の中で、経済的に余裕のある家庭の子弟が「国内の三流大学に行くよりは・・・」と海外留学へと流れるケースは何ら珍しいことではないのだから。
  IIT (インド工科大学)は海外の有力な工科大学と肩を並べるほどレベルが高く、相当な秀才でもなかなか入ることのできない超難関校として知られているが、「IIT(インド工科大学)入れなかったからMIT(マサチューセッツ工科大学に行く」なんていうのもあながち冗談とはいえないかもしれない。
 理系に限らずさまざまな分野の大学へ、インド国内で学ぶのとは費用が比較にならないほど高いことを承知のうえで、特に英語圏を中心とした欧米に進学するインド人学生はとても多く、アメリカの留学生の中核を占めているのはインド人と中国人だ。少子化による学生減に悩む日本の大学は、インドの「留学生送り出し大国」としての潜在力に期待したいところだろう。
 文化的な距離、日本語という新たな言語を習得する手間、苦労して得た学位に対する評価、卒業後住み続けた場合の将来への展望等々の不安は多く、関心はあってもなかなか踏み切れないのではないだろうか。すでに多数の同郷の人々が勉学目的で渡っていき、それなりの「ルート」ができあがっている国々と違い、決して少なくないデメリットを押しのけて、敢えて日本を選んでもらうにはそれらをカバーして余りある魅力が必要だ。それはいったい何だろうか?
 タダで学べる国費学生として留学生たちを引き寄せるのは簡単だ。しかし家庭の財布をこじあけ、私費学生として飛び出してもらうのは容易なことではない。たんなるイメージの流布や文化の紹介ではなく、わかりやすく具体的な「実利」が必要だ。
 実際、バングラデシュやスリランカから来日する学生の大部分を、学費がかからないうえ月あたり十数万円も与えられる文部科学省の奨学生たちが占めている。しかしわざわざ自腹を切ってやってくる学生はほとんどいないに等しいのだ。在学中に与えられる経済的な特典以外には特に魅力がないということだろうか。そもそもこうしておカネをバラまくやりかたについては大いに疑問に思う。
 はたしてインド人学生たちにとって、日本は有望な留学先のひとつになり得るのか。今年初めてインドで実施される「日本留学試験」の受験者数、その中から実際に日本へ留学する者がどのくらい出るかということが少なくとも現時点での答えになるだろう。
 その結果が「否」であったとしても、金銭でつって呼び寄せるようなやりかたにつながらないよう願いたい。