学園の輸出 1

 アメリカやオセアニアではかなり早くから教育をひとつの大きな産業ととらえて、積極的に外国からの留学生たちを誘致したり、海外分校を設置したりする動きがあった。1980年代後半から90年代初頭にかけて、日本各地にアメリカの大学の日本校が30校とも40校ともいわれる規模で進出したことを記憶している人も多いだろう。ちょうど当時の中曽根首相が音頭を取り、官民あげての『貿易黒字減らし』の風潮の中、またどこを向いても『国際化』のコトバが叫ばれていたこともあり、ちょっとしたブームになるのではないかと期待させるものがあった。
 だがそれらは日本の文部省(現文部科学省)の基準に適合しないため、卒業しても大卒の資格を得ることができなかった。アメリカの大学の日本校にしてみれば日本のスタンダードに合わせるつもりはさらさらないという設置形態の問題、そして入るのは難しくても進級して卒業するのは易しい日本違うスタンスを持つアメリカの『大学』に対する考え方があった。さらには学費の高さやアメリカの大学側の期待を大きく下回る日本校に入学した学生たちの英語力の問題等々、誘致した側にとっても進出したアメリカの大学側にしてみても決して将来が明るいものではないことがわかるまで長くかからなかった。
 その結果、9割ほどが10年あまりのうちに撤退。その中でも特筆すべきはワシントン州立エドモンズ大学日本校東京キャンパスで、なんと開校から2ヵ月あまりで閉校を決めるという逃げ足の速さはやはり『ビジネス』ならでは・・・と感じた人たちは少なくなかっただろう。
 しかし少子化がすぐ目の前に迫った大きな社会問題として認識されるようになった現在、日本の大学は生き残りのために外国人留学生獲得に躍起になっているところは多い。また良質かつ高度な知識と技術を持つ将来の労働人口を確保するためにも、留学生の誘致によるメリットは大きい。隣国の韓国においてもこの動きは同様だ。今や北米、オセアニア、東アジア、欧州の各国が世界のさまざまな国々から留学生たちの気を引こうと、留学フェアその他の機会を利用、あるいは現地に学生募集窓口を設置したりするなどして、留学生獲得に積極的に乗り出している。同時に現地にキャンパスをオープンさせるという動きも、アメリカ、イギリス、オーストラリアなどの大学が中心となって推し進めている。
 そうした中で、世界の成長センターであるとともに世界最大の若年者人口を抱えるインドを新たな市場として分校を狙う大学が増えてきている。これはまさにバブルの頃の日本にアメリカの大学が次々と上陸していたことを思い起こさせるものがある。

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