インド人学生は日本を目指すか?

 以前、ビジネス日本語能力をはかるJETRO TESTがついにインドでも行われることになったことを書いたが、今年から日本留学試験もインドのニューデリーで実施されるようになる。年2回、6月と11月に、日本国内では15の都道府県、国外では12か国・地域の15都市での実施が予定されている。ちなみにインドでの受験料は500ルピーとのことだ。
 この試験は、外国人留学生として日本の大学への進学を希望する人たちを対象に行われている。ふつう留学生たちが日本国内の大学に志願する際に、この試験を受けていることが必要で、学校によってはある一定のスコアをマークしていることが出願の条件になっている。
 もともとインド人の留学先は欧米志向であること、インド国内にも数多くの良い大学があり、様々な国々からやってくる留学生の受け皿にもなっていること、そして学費も非常に安い(インド人学生が自国で進学する分には)こともあり、以前もこの「つぶやきコラム」で書いたように、よほどのことがなければ日本での進学を選択する動機がないように思える。
 しかしこれら点ついては中国も同様だが、今年度の日本への留学生総数およそ11万7千人中の7万8千人近く、つまり66%を占める最大の「お得意さん」なのである。
 中国からやってくるトップクラスの学生たちは非常にレベルが高いのだが、全体を眺めるとピンからキリまで実にさまざまである。
 今のところ「海外遊学」は一般的でないにしても、政府が特に力を入れて重点的に予算配分する、いわゆる国家重点大学とされているところに入れなかった者の中で、経済的に余裕のある家庭の子弟が「国内の三流大学に行くよりは・・・」と海外留学へと流れるケースは何ら珍しいことではないのだから。
  IIT (インド工科大学)は海外の有力な工科大学と肩を並べるほどレベルが高く、相当な秀才でもなかなか入ることのできない超難関校として知られているが、「IIT(インド工科大学)入れなかったからMIT(マサチューセッツ工科大学に行く」なんていうのもあながち冗談とはいえないかもしれない。
 理系に限らずさまざまな分野の大学へ、インド国内で学ぶのとは費用が比較にならないほど高いことを承知のうえで、特に英語圏を中心とした欧米に進学するインド人学生はとても多く、アメリカの留学生の中核を占めているのはインド人と中国人だ。少子化による学生減に悩む日本の大学は、インドの「留学生送り出し大国」としての潜在力に期待したいところだろう。
 文化的な距離、日本語という新たな言語を習得する手間、苦労して得た学位に対する評価、卒業後住み続けた場合の将来への展望等々の不安は多く、関心はあってもなかなか踏み切れないのではないだろうか。すでに多数の同郷の人々が勉学目的で渡っていき、それなりの「ルート」ができあがっている国々と違い、決して少なくないデメリットを押しのけて、敢えて日本を選んでもらうにはそれらをカバーして余りある魅力が必要だ。それはいったい何だろうか?
 タダで学べる国費学生として留学生たちを引き寄せるのは簡単だ。しかし家庭の財布をこじあけ、私費学生として飛び出してもらうのは容易なことではない。たんなるイメージの流布や文化の紹介ではなく、わかりやすく具体的な「実利」が必要だ。
 実際、バングラデシュやスリランカから来日する学生の大部分を、学費がかからないうえ月あたり十数万円も与えられる文部科学省の奨学生たちが占めている。しかしわざわざ自腹を切ってやってくる学生はほとんどいないに等しいのだ。在学中に与えられる経済的な特典以外には特に魅力がないということだろうか。そもそもこうしておカネをバラまくやりかたについては大いに疑問に思う。
 はたしてインド人学生たちにとって、日本は有望な留学先のひとつになり得るのか。今年初めてインドで実施される「日本留学試験」の受験者数、その中から実際に日本へ留学する者がどのくらい出るかということが少なくとも現時点での答えになるだろう。
 その結果が「否」であったとしても、金銭でつって呼び寄せるようなやりかたにつながらないよう願いたい。

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