フェアローン・ホテル 2

壁に掲げられた家族写真や新聞の切り抜き

壁に飾られている家族の写真などを見ても、ここに植民地時代から続く白人系のファミリーの生活の様子を想像することができて、いかにもコールカーターらしい宿であるといえよう。壁には英国王室の安っぽいポスター的なものが飾られていたり、ここの宿について書かれた古い新聞記事の切り抜きが飾られていたりするのは俗っぽいのだが、それでもここの宿がどういう具合にメディアに取り上げられているかを見ることができて楽しい。

一応は「ヘリテージ・ホテル」ながらもゴチャゴチャと俗っぽい

部屋のクオリティから考えると、ちょっと割高な宿ではあるのだが、建物そのものの雰囲気は良く、植民地時代の白人の屋敷の雰囲気を感じられるのはいいと思う。

フェアローン・ホテルの一日は、すでに90歳を超えている女主人、ヴァイオレット・スミスさんの登場から始まる。やや朝寝坊の宿泊客たちが朝食を摂り始めるあたりで、宿のスタッフ(雇用されているのは、もちろんすべてインド人)に両脇を抱えられて、グラウンド・フロアーのテラスに置かれた専用チェアーに着席する。

足腰は弱っているものの、艶やかにメイクをした彼女は、宿泊客たちに実にしっかりと、そして堂々と応対しており風格がある。中高年の西洋人の滞在者が多いこともあり、彼女はすぐさま彼らに取り囲まれて、和やかな会話が始まる。こんなところが、この宿の人気が長く続いている理由のひとつだろう。今のインドにおいては存在しない、旧植民地の「欧州人クラブ」のような雰囲気があり、しかしながら欧州系ではなくても宿泊客は何の遠慮もなくその会話に加わることができるのは、現在の社会において当然のことであり、私たち日本人ももちろんその雰囲気を楽しむことができる。

非常に社交的ながらも下世話なトピックにも長けて、「下宿屋のおばさん」的な風情も漂わせるヴァイオレットさんがだが、家族経営ながらもこのホテルのスタッフがキビキビと宿泊客にスキのない対応をしているのは、人の出入りが多いこの時間帯に目を光らせているからであることは言うまでもない。

まさにそれがゆえに、そう遠くない将来に彼女がこのように存在感を示すことができなくなったときに、このホテルのありかたが大きく変わるのではないかという危惧を抱かせるものがある。やはりここに宿泊するならば、女主人のヴァイオレットさんが元気なうちに、ということになるだろう。

〈完〉

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