世界最古の『会社』

 歴史と文物の宝庫インドでは、東西南北どこに行っても由緒ある建物や街並みに出会うことできる。文化の多様性と重層性をヒシヒシと感じさせてくれるこの国は、いつどこを訪れても非常に興味をそそられるものだ。
 ところで我らがニッポンの『カイシャ社会』の中には、仰天するほど長寿な企業が存在していることに気がついた。それは起源を江戸時代にまでさかのぼる反物屋や百貨店といった程度の話ではない。なんと紀元578年創業なのだというからびっくり。
 イスラーム教の預言者ムハンマドが誕生したのが570年あたりとされるし、インドではアジャンターの石窟がまだ現役の僧院群として機能していた時代だ。玄奘三蔵がインドを訪問したのはさらに50年ほど経ってからだ。
 その『歴史的企業』金剛組は総合建設会社だが、特に寺社建築の設計・施工・文化財建造物の復元、修理等を得意としている。会社の沿革をひもとくと実に興味深いものがある。
 紀元578年に聖徳太子の命を受けて百済の国から三人の工匠が招かれ、この中のひとり金剛重光なる人物が興した宮大工集団が現在の金剛組のはじまりだという。そして『三人の工匠は仏への帰依の心をこめ、そのもてる技(わざ)のすべてをもって、四天王像をまつる寺院創建のために尽くしました』と同社のウェブサイトにある。四天王寺に続き法隆寺を建設したのだそうだ。
 以来日本の寺社建築とともに千四百年という気の遠くなるような長い時間を歩んできたのだから世界遺産みたいなものである。ウィキペディアによれば金剛組は現存する世界最古の企業(ただし株式会社化は1955(昭和30)年)だ。
 ただし今年1月に現代の当主である金剛重光氏により、中堅ゼネコン高松建設の子会社としての新たな『金剛組』に営業譲渡して社員の多くを移籍させ、もともとの母体である旧来の金剛組についてはケージー建設と改称したが、7月下旬に自己破産を申請している。
 これらの一連の動きにより、今年からは金剛組とそれを千四百年以上もの長きにわたって率いてきた金剛一族との縁は解消されたといえるが、歴史という視点から眺めると日本の会社社会もなかなか捨てたものではないようだ。
ケージー建設:大阪地裁が破産手続き 日本最古の建築会社
(毎日新聞)

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