金曜日の後には土曜日がやってくる

ウッタルプラデーシュ州では、「反社会的行為」への対応としての「ブルドーザー政治」がすっかり定着してしまっている。反ムスリムの姿勢を強く示すBJPの中でも1992年のバーブリー・マスジッド破壊事件で暴徒たちを組織して煽動したとされる「右翼の中の最右翼」ヨーギー・アーディティャナートがチーフミニスターを務めるのがウッタルプラデーシュ州。彼は「ブルドーザー・ババー」とも呼ばれるようになっている。いつもサフラン色の衣類を身にまとっているが、この人はゴーラクプルにある名刹ゴーラクナートの高僧でもある。

ムスリムによる暴動、ムスリムによる反政府的な運動があると、その首謀者とされる人物の家に政府が差し向けたブルドーザーやパワーショベル(これらをインドではまとめてブルドーザーと呼ぶ)が差向けられて、家屋であったり所有しているビルであったりを「違法建築である」「建物に違法な部分がある」として破壊してしまうのだ。

インドに限ったことではないのだが、このあたりの国々の家屋には屋上に鉄筋の柱がむきだしで突き出ているのをよく見かける。あたかも建築中であるかのように。ある程度お金が溜まってゆとりができたら、さらに上階を建て増すことができるようにしてあるのだ。また都市部の建て込んだ地域では、本来所有している地所から少しはみ出した構造物があったりすることもある。多かれ少なかれ多少の「違法性」のある建物は少なくないのだろう。

政府所有の土地に勝手に家を建てて占有している人々(スクウォッター)が集住しているようなところで、行政がブルドーザーを何台も送り込んで壊し、更地にするというようなことはしばしばあり、それらがニュースになるということは昔からあった。それでも事前に通告がなされて、その地域でひとまとめに実施するものであった。

その日になってから処分通知書とブルドーザーが同時にやってきて、該当家屋だけをピンポイントで破壊、というのはこれまでなかったので、あたかもその所有者である当人への処罰であり、見せしめでもあるかのように、家屋が破壊されるのが特徴だ。ゆえにこれを「ブルドーザー政治」と呼ぶ。

その様子はテレビニュースでもオンエアされ、人々が広く知るところとなるので、家屋の所有者は知らずとも、メディアには事前に知らせているのだろう。「先日の暴動の首謀者をやっつけている!ヨーギー政権はよく働いているじゃぁないか!」と印象付けるための広報活動と言える。

画像はウッタルプラデーシュ州チーフミニスターのヨーギー・アーディティャナートのメディア担当アドバイザーであるムリティャンジャイ・クマールによるツイート「ウプドラヴイー、ヤード・ラケーン・キ・ハル・シュクラワール・ケー・バード・エーク・シャニワール・ザルール・アーター・ハイ(反乱者どもよ、忘れるなよ、いつも金曜日の後には、ある土曜日が必ずやってくる)」という言葉。ここにあるのはまさにそのブルドーザーが家屋を破壊している様子だ。

金曜日の後は土曜日というのは当たり前のことなので、「だから何だよ?」と思われるかもしれない。

その意味だが、「イスラーム教の聖日金曜日の後には、ヒンドゥー教の凶事をもたらすシャニの神の日が来る」(イスラーム教徒が浮かれた後には、ヒンドゥー教の凶神が罰しに来る。だから覚悟していろよ)という脅しなのである。

なお「シュクラワール(金曜日)」「シャニワール(土曜日)」だが、単に曜日としての「ワール」ではなく、「イスラーム教徒の金曜礼拝の日」に起きた「ワール(攻撃)」と「シャニ」による「ワール(攻撃、打撃)」と掛けてもいるのだろう。「イスラーム教の礼拝の後に起こした暴動の後には、必ずヒンドゥー教の神による報復がある」というデュアルミーニングとなるけだ。このあたり、言葉の使い方は確かに上手い。

今後は、「ヤード・ラッケーン、ハル・シュクラワール・ケー・バード、エーク・シャニワール・ザルール・アーター・ハイ」を「覚えていろよ、借りはきっちり返してやるからな」として、あるいは「ハル・シュクラワール・ケー・バード・シャニワール・ザルール・アーター・ハイ」を「因果応報」の意味として、慣用句のように使用されることになりそうな気がする。

その語句の背景はやがて忘れられていくわけだが、そうした中でウッタルプラデーシュ州の「ブルドーザー政治」が故事として、その「慣用句」の成り立ちの理由として、その頃の物知りが「昔々、こんなことがあってね」と、若い人たちにその知識を披露したりするのだろう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


上の計算式の答えを入力してください