謎の公務員

前回に引き続き、今回も話はコーチンに戻る。

コーチンには大小のいくつものギャラリーがあるとともに、これまた大きなものから小さなものまでアートの展覧会が開かれている。こちらの絵はコッラム(クイロン)在住の女性アーティストによるもの。マハーバーラタをテーマに描いている。

ご本人はかなり高齢で、定年退職するまでケーララ政府のお役人さんだったそうだ。もともと描くことは趣味だったが、仕事を引退してから絵を本格的にのめり込み、ご主人や息子さんのサポートを得て、かなり離れたところで開催される展覧会にも精力的に出展するようになったそうだ。

ご本人は「老後の趣味ですよ」と謙遜するが、まったくもって趣味のレベルをはるかに超えている。在職時から長く絵に打ち込み、超絶絵の上手い謎の公務員だったに違いない。

テレビラジカセ

ふと思い出したので、話はコーチンに戻る。

フォートコーチンの骨董屋店頭で気になった商品。日本のナショナル製品だが、ラジカセにテレビが合体しているのが凄い。当時、「テレビラジカセ」と呼ばれていたものだ。こんな製品があったことはうっすら記憶にあるものの、身近なところにはなかった。当時いくらくらいする製品だったのだろうか。

今はスマホやPCでテレビ番組やラジオなども楽しめるが、当時は実物を器の中にそっくり作り込まなくてはならなかったので、相当な意欲作だったはず。しかも画面ときたら、時代からしてブラウン管だと思うけど、よくここまでできたな、という感じだ。まだ韓国のSAMSUNGやLGなどが         台頭する前、家電製品といえば日本がナンバー・ワンだった時代の品物だ。

そんなものが流れ流れてインドにあるなんて。この時代のインドのテレビのクオリティーは良好ではなかったため、こういう製品は、ちょっと値段のつけ難いスーパーハイテク商品だったのではないかと思う。国内のマーケットで流通していたものではもちろんなく、国外から持ち込んだものだろう。

紙パックに入ってしまったオールドモンク

宿の近くに酒屋があったのでオールドモンクのクォーターボトルを所望すると、小さいテトラパックが出てきた。「マンゴージュースじゃなくてオールドモンクを」と言うと、これがそうなのだと言うからびっくり。

近年、クォーター、ハーフといったサイズはプラチックボトルで出てくる酒もあるのだが、ついに、紙パックになったか・・・。

オールドモンクは安酒ながらもインドで長い歴史を持つブランドで、軍の基地にも大量に供給されている。私も昔々これには親しんだので、ごくたまに手にしたくなる。

しかし紙パックってのは、どうするのか?ストローでも差込んで、チューチュー吸えとでも言うのだろうか?

いやはや・・・。

IRCTCのケータリング

駅弁ならぬ社内販売飯。各地でゲリラ的に車両に乗り込んできて食事やスナックを売る「物販ゲリラ」も多いが、こちらはインド国鉄関連会社のIRCTCによる車内販売品。

IRCTCはネットによる乗車券販売及び予約管理、各種パッケージ旅行の販売、鉄道車両での飲食物販売等を包括して引き受ける。こういう組織は汚職や不正の温床になったりしやすいものだが、やはりいろいろ黒い噂は少なくない。

こんな巨大利権が入札手続きなどを経ることなく、長年ずっとIRCTCが丸ごと引き受けていること、国鉄の業務とは関係のないパッケージ旅行(タイ、ドバイ、ネパール、ブータン等の海外旅行など)も販売していること、パントリー車での調理環境に非常に問題があることをメディアが取り上げ、保健省の調査が入ったりするなど話題に事欠かない。たぶん現場の業務なども孫請け会社に丸投げしたりもしているのだろう。

車内で注文した1回目の「チキン・ビリヤーニー」これをビリヤーニーと呼べるのか大いに疑問。
中をほじってもこんな具合。いやはや・・・。

車内ケータリングサービスで面白いと思うのは、ラージダーニーやジャダーブディーなど特別急行で、ひところまではIRCTCではなく、ホテルチェーンに委託していたケースもあった。だが今ではIRCTCによる取り扱いに戻っている。

車内で2回目のチキンビリヤーニー。他になかったので仕方ない。時間的にこれが本日の夕食、目的地着いたらチェックインしてそのまま寝る時間。

この列車で2回目のチキン・ビリヤーニー。こちらのほうが少しはマシだった。

おやつに食べたものとは味付けも何もずいぶん違った。異なる業者が異なる駅でIRCTCに納めているので当然だが、ケーララ州からカルナータカ州に入っているからということもあるかもしれない。私がトリスールから乗り込んだ列車はマンガロール駅に着くところ。急行停車駅で一つ先のウドゥピまで行く。

私の車両はどこ?今どこを走っているの?

かつてインド国鉄は、予約してある車両がどこにあるのかわからないと、車両が長大で編成数も多いため、停車わずか1〜3分程度だとたいへん焦ったものだ。今では各種インド国鉄関連アプリやウェブサイトなどで該当列車の「Rake Information」を調べると、ちゃんとこんな具合に出てくるので助かる。

Rake Information

また「Running Status」で、今どこを走っていて、どのくらい遅れているのか、遅れていないのかもわかるので、とても便利になった。駅で列車を待っていても、乗車して到着を待つ場合でも、大変ありがたい。

Running Status

こうしたものがなかった時代、駅に着くとまずは駅員かポーターに列車名を伝えて、私の車両がどのあたりに停車するのか質問、答えを聞いてからも念のため別の駅員かポーターにも同様の質問をしてクロスチェツク。

そして乗り込んでからは、他の乗客との会話の中で、列車がほぼ定刻で進んでいるのか、遅れているのかを知っていた。夜行列車で深夜過ぎとか未明とか、多くの乗客が就寝しており、車内の照明も消してあるような時間帯に到着予定であると、ホームでの駅名表示は多くないため、「この駅は私の降りる駅なのか?」と気が気ではなかったりもした。

今やこうした心配がまったくなくなっているため、インドの汽車旅の利便性は格段に向上していると言える。