YouTubeで大物政治家の映画人時代を観る

ジャヤラリター
冒頭の写真は、今年2月に還暦を迎えたジャヤラリター。タミルナードゥを代表する大物女性政治家というよりも、インド政界でも有数の女傑といったほうがいいかもしれない。
1981年にタミルナードゥの地域政党AIADMK(All India Anna Dravida Munnetra Kazhagam)に加入し、1988年に同党の創設者M.G.ラーマチャンドランが亡くなってから現在まで20年の長きにわたりリーダーシップを発揮し、同州の首相も務めた。彼女の行政手腕を高く評価する声も多いいっぽう、その強権ぶりと数知れぬ汚職疑惑から数多くの非難もある。
ジャヤラリターは、M.G.ラーマチャンドラン同様に、政界入り前は映画人として高い人気を集めた人物である。タミル映画およびカンナダ映画に多数出演し、この地域の民族的アイドルであった。80年代後半から『元人気女優』としてではなく、実力派政治家として社会に大きな影響を与えるようになってからも、大輪の花を思わせる華やかな風貌にはまた格別の存在感があった。
元有名女優とは知っていても、彼女が出演する映画を見たことがなかったが、近年YouTube他の動画投稿サイトが普及するにつれて、Sakti LeelaiKannan En Kadhalanといった彼女の出演作のひとコマを簡単に目にすることができるようになってきた。前述のM.G.ラーマチャンドランも同様で、Nadodi Mannanのワンシーンを眺めることができるのはうれしい。
インターネット上に新旧さまざまな映画作品が投稿されていることについては、著作権云々ということもある。しかしインド国外ないしはインド映画圏外からでも、自宅にいながらにしてその映像にアクセスできること、必要に応じて参照できることについては、肯定的に評価できる部分も少なくないのではないかと思う。
ネット上のインド映画については、作品を最初から最後までまるごと見ることができてしまうものもあるが、後日そうした事柄について少し考えてみたい。

キリノッチはどうなっているのか?

今年後半に入ったあたりから、インドのニュース雑誌その他のメディアでしばしばスリランカの内戦にかかわる情勢が取り上げられる機会が増えたように思う。それはすなわち戦況に大きな転機が生じているためだ。
昨年春にLTTEがコロンボにある国軍施設に空爆を加えた際、世界でも珍しい反政府軍所有の航空機による政府側に対する攻撃として注目を集めたとき以上のものがある。
2000年以降、政府との間の停戦、2003年の和平交渉においては、それまで堅持してきた分離独立を求める姿勢を改め、連邦制を敷くことに合意するなど、後に紆余曲折はあれども、内戦の終焉へと向かうのではないかという観測もあったが、そうはならなかった。
2004年にはLTTE内での分裂により、それまで9,000名を数えるとされた兵力が半減し、相対的に弱体化の様相を見せる中、2005年に現在のマヒンダ・ラージャパクセ大統領就任直後から連続したテロ攻撃をきっかけに内戦が再燃、しばしば報じられているとおり、今の大統領はLTTE掃討について積極的な姿勢で臨むようになっている。
LTTEは、最盛期にはスリランカの北部および東部のかなりの部分を制圧しており、その地域はスリランカ北西部からぐるりと海岸沿いに、彼らの本拠地である国土の北側沿岸地域を経由して、東部海岸地域にまで至っていたものだ。しかし現在ではかなり縮小しており、ジャフナ半島付け根の南側地域を実効支配するのみだ。
近ごろ政府軍が有利に展開を続けていることを背景に、大統領はLTTEを軍事作戦で壊滅させることに意欲と自信を深めているようだ。
大統領は、LTTEとの戦闘状態について、『内戦ではない。テロリストへの掃討作戦である』という発言をしていることからもわかるとおり、従前の和平交渉での相手方当事者としてではなく、『犯罪者』として相対していることから、そこに妥協や交渉の余地はなく、力でもって叩き潰すぞ、というスタンスだ。
いよいよLTTE支配地域の事実上の首都であるキリノッチへの総攻撃も近いとのことで、インディアトゥデイの11月10日号に関連記事が掲載されていた。
Cornering Prabhakaran (India Today)
ところで、この『首都制圧作戦』は、すでに昨日11月23日に開始された模様だ。
S Lanka attack on rebel ‘capital’ (BBC NEWS South Asia)
その情勢については、Daily Mirror他スリランカのメディアによっても伝えられることだろうが、そうした政府側とは対極にあり、LTTE地域の内側からの情報を伝えるTamilNetに加えて、近隣のメディア大国インドからの関連ニュースについても関心を払っていたいところだ。
正直なところ、スリランカの政府軍についても、LTTEについても個人的にはさほど関心がないのだが、こういう大きな軍事作戦が展開していることについては、とても気にかかっている。
後者について強制的に徴用された少年兵の存在もさることながら、同組織による支配地域に住んでいるからといって、すべての住民たちが心の底からLTTE支持というわけでもないだろう。政府に不満を抱きつつも、LTTEに賛成という訳でもない・・・といっても、自分の居住地が彼らの支配下にあれば、その権力に従うほかにないのだ。
もちろん国情、経済状態その他によってその度合いや政治への参加意識はかなり違ってくるにしても、日本人である私たちも含めて、世の中の大多数の人たちにとって、最大の関心ごとといえば自分自身の将来、家族、友人、恋人、学校、仕事、趣味等々いった、自らの身の回りのことだ。
政治云々についてはそれを仕事にしているのでない限り、自分や家族のことよりも、国や地域の政治が優先、寝ても覚めても政治のことで頭が一杯なんてことは普通ありえないだろう。
そもそも人々がまともに暮らしていくために政府や政治というものがあるはずだ。その『政府』による武装集団、つまり軍隊が自国民の町を襲う、『政治』が人々の平和な暮らしやその命までをも奪うという事態が進行中であることについて、またこの『内政問題』について各国政府が黙認していることを非常に残念に思う。

King is pinched

1週間近く前の記事だが、ネパール王室についてこんな記事があった。
Nepal ex-king told to pay bills (BBC South Asia)
22ヶ所の宮殿や屋敷の過去数年間にわたる電気料金100万ドル超を11月7日までに期限内に支払わなければ彼らへの電気供給をストップさせるというもの。
元国王は、この膨大な金額を支払うのか、電気を止められるという屈辱に甘んじるのか、それとも何か他の手立てがあるのかどうかわからないが、5月に王室が廃止されてから身分上は普通の『国民』となった元国王とその家族。
最終的な王室廃止に至る過程の中で、王室財産はかなり処分されているはずだが、それでも海外に隠した『埋蔵金』の話もあるし、そもそも王や王族が経営にかかわる有力企業も少なくなかったようだが、そのあたりはどうなっているのだろう。
まだそれなりの財力があるようだが、政治的な権力を失い丸裸になった元国王一族に対する圧力は相当なものだろう。今までのところ、彼自身は国外への亡命は否定しているものの今後どうなるか。
現在与党の座にあるマオイストにしてみても、それと協力関係にある他の勢力にしてみても、王室の廃止により不人気だったギャネンドラ元国王が民間人になったとはいえ、今でも旧王党派や王室にシンパシーを抱く人々が皆無というわけではないし、そこを基盤にして政治活動に乗り出す元王族やその縁者が出てこないとも限らない。
現政権にとっては、後に憂いを残さないために、旧王室のさらなる弱体化を進めたいところではないだろうか。更には本音では国内から退去して欲しい、地理的にも遠い場所に行ってくれればなお幸い・・・といったところかもしれない。今後も様々な形での締め付けは続くことだろう。
政府からさまざまな『弾圧』を受ける旧王族たちは、この国でどこまで持ちこたえることができるのだろうか。

地元主義!

また近ごろメディアでラージ・タークレーと彼が率いるMNS (Maharashtra Navnirman Sena)の暴れん坊ぶりがメディアを賑わせている。
ラージ・タークレー逮捕に抗議してマハーラーシュトラ州内各地で繰り返されたMNS活動家たちの乱暴狼藉ぶりもさることながら、それに先立ち、彼が今月半ばにジェット・エアウェイズの合理化計画の一環としての大規模な人員整理に係わる争議に介入したことについての報道に注目した人も少なくないだろう。
以前、『総体としてしっかり』という記事で触れたとおり、ラージ・タークレーに関わるニュースを専門に収集したRaj Thackeray Newsというサイトがあり、近ごろの彼とMNSの動向を垣間見ることができる。

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勝ち目はあるのか?

テレビニュースを見ていたら、『ハウラー駅で爆発物』という速報が出ていた。ウェブサイト上でもこの件について以下のような記事が掲載されている。
Box with ‘explosives’ found in train at Howrah station (NDTV.com)
なんだか最近ずいぶん多いなと思う。
そういえば、お隣りパーキスターンの首都のイスラーマーバードでも、ほんの数日前に大きな爆破テロがあった。標的となったマリオットホテルはグローバルに展開するアメリカ資本のホテル。ニュースによると建物は全焼とのことで、ホテルとしての機能は停止している。メディアで報じられていたホテルエントランスのパーキングエリアに大きく空いたクレーター状の穴が爆発のすさまじさを物語っているようだ。
ホームページ上にも事件により無期限で休業する旨記されている。同サイト上に用意されているPhoto Tourで豪華な施設設備等が紹介されているが、首都一等地の特にセキュリティが行き届いているはずのエリアに立地する国際的なホテルがこのような攻撃に遭うこと、そもそもザルダーリー新大統領がテロ対策を交えた演説を行なった直後にこうした事件が起きることについて、こと治安に関する新体制の能力に大きな疑問を抱かざるをえない。
こうした中で、インドにとっては腹の底まで信用はできないものの、国軍の支持を背景に内政面ではそれなりの安定をもたらし、近隣国に対しても一定の筋が通った対応をしてきたムシャッラフ大統領の辞任後対する不安は、後任のザルダーリー氏の選出でますます先行き不透明なものになった。このたびのテロ事件は、同国の今後の迷走ぶりを予見するかのようで実に気味が悪い。
パーキスターンにおける近年の過激派の浸透には、ジア・ウル・ハク大統領時代にさかのぼるこれまで歴代の政権がとってきた政策に要因があるとよく指摘されている。利用するほうも利用される側も互いの利益のために手をたずさえていても、まさに同床異夢で腹の奥で考えていることは違う。風向きが変わればあっという間に縁遠くなってしまうどころか、敵対してくることだってありえる。『傀儡政権』だってスポンサーにいつまでも忠実というわけではないように。また国内において比較的リベラルな傾向のある東部と、より厳格な北西部の文化的差異に基づく地域対立の関係もあるようだ。
また政府自身についても、ISI(パーキスターン統合情報部)に対する文民統制の欠如が長年指摘されているところであるし、北西辺境州の中のFATA (Federally Administered Tribal Areas)のように中央政府の管理がほとんど及ばないエリアがあるというのも、パーキスターン国内的にはそれなりの歴史的経緯と合理性をもって認識されているとしても、外国から眺めれば明らかに治安対策上問題が大きい。
従来、インドではテロが起きるたびにパーキスターンの関与を疑い、これを強く非難してきたが、国内しかも首都の中心でこうした事件が起きることを防ぐことができない政権自体にそもそも当事者能力は期待できるのだろうか。
だが『外国による関与』のみらならず、今年7月にバンガロール、アーメダーバード、そして9月にデリーで起きた連続爆破テロにあたり、犯行の主体がインド国内にある地下組織のインド人メンバー、つまりテロの国産化が進む傾向が大いに懸念されている。
社会の様々な面でいやがおうにもグローバル化が進む中、過激な思想やテロはいとも簡単に国境を越えたネットワークを形成していき、既存の統治機構はいつも後手に回っているようだ。事件に対する対症療法に終始しているようだ。国境という境目ごとの『タテ割行政的テロ対策』ではもはや封じ込めることはできないのではないだろうか。
テロ対策、治安対策は厳格になっていくいっぽうだが、その反面誰もが『叩くだけではダメだ』ということはとっくに気がついている。なぜテロが起きるのか?彼らの行動をどうやって防ぐことができるのか? テロリストたちはどうやって生まれてくるのか? こうした人々が出てこないようにするにはどうすればいいのか? 私たち人類に与えられた試練といえるだろう。
現象面に限って言えば、インドもパーキスターンも国内で頻発するテロに苦慮している。
『敵の敵は味方』というわけではないが、テロという共通の敵に対して地域で『共闘』していく必要があるようだが、それをできない時点でテロリストたちに大きく先んじられている。進化を続ける21世紀の『都市型ゲリラ』であるテロリズムに対して、果たして政府はついていくことができるのだろうか?