悪いだけの草じゃない

大相撲の幕内力士若ノ鵬が大麻取締法違反で逮捕されたことがきっかけとなり、9月2日に十両以上の力士を対象として、尿検査が抜き打ちで実施されたところ、西前頭三枚目の露鵬(大嶽部屋)と東十両六枚目の白露山(北の湖部屋)から大麻の陽性反応が出た。この騒動は日本各マスコミで大きく取り上げられているので皆さんご存知のとおり。
昨年以降、朝青龍問題(私には相撲界とスポーツメディア寄ってたかっての外国人力士イジメとしか思えなかったが・・・)や若手力士が稽古場で兄弟子たちに暴行を受けて亡くなるなど、トラブル続きだった角界。今回はひとつの不祥事を受けて、迅速に対応した形だったが、意外にも相撲協会理事長を務める北の湖親方の足元に火が点いてしまい大わらわだ。
おそらく今後、各種メディア等で『大相撲大麻汚染』『退廃の角界』などいった記事がスポーツ紙を中心に多数掲載されるのだろう。先述の露鵬は大麻を六本木の繁華街で外国人から手にいれたと供述していることから、力士だけではなく他競技の選手の名前も今後取り沙汰されるようになってくるのかもしれない。

続きを読む 悪いだけの草じゃない

トイレの博物館

museum of toiletのウェブサイト
デリーにちょっと珍しい博物館があるのをご存知だろうか。Sulabh International Museum of Toiletsというもので、文字どおりトイレの博物館だ。インド各地の便所ばかり取り上げているわけではなく、世界のトイレと公衆衛生の歴史の博物館である。
 
この博物館は、Sulabh International Social Service OrganizationというNGOが運営するもので、同じ敷地内にある。この団体は、主に排泄行為にかかわる公衆衛生の普及と発展、トイレ清掃にかかわる業務に従事する人々への差別意識解消などを目指すものだ。博物館を通じて世界のトイレの歴史や公衆衛生に関する客観的な視点を説き、理解を広めようという狙いのようである。
屋内の展示部分では、人類の歴史の中で排泄行為がどのようになされていたか、そこからどういう問題が発生してきたのか、ちゃんとしたトイレの出現により、これがどういう具合に解決されてきたのか、といったトイレの存在意義が図版等で解説されている。またトイレに関するウンチク、カラフルな色使いの欧州の貴族用(?)高級トイレの写真なども掲げられており、グローバルなトイレ文化に関する知識を学ぶことができるようになっている。
屋内展示
屋外では、インドで使用されている様々なタイプのトイレの実物が展示されており、設置形態や構造などがわかるようになっている。実際にしゃがんでみたり、その姿をカメラで撮っているオジサンなどもいたが、記念写真としてはあまり格好良くないように思う。
屋外展示
展示物を眺めながら館内を歩いていると、そこに勤務している学芸員の方にこの博物館を紹介するCDをいただいた。コンテンツはホームページ上で公開されているものとほぼ同じもののようである。彼女から勧められて初めて知ったのだが、日本人が書いたトイレに関する優れた本があるとのことだ。英訳されたものが日本国外で販売されているそうだが、日本語の原著は『ヨーロッパ・トイレ博物誌新装版』らしい。
さて、この博物館のロケーションについても簡単に触れておこう。国際空港を横目に見ながら更に西に進んだあたりのドワルカという新興タウンシップ近くのマハーヴィール・エンクレイヴにある。冒頭に記したとおり、Sulabh International Social Service Organizationという団体の施設内に設置されている。道路に面して『×××博物館』と大きな看板が掲げられているわけではないので、ちょっとわかりにくいかもしれない。博物館の定休日は日曜日である。
 
 

怖い病

最近、狂犬病について書かれた本を2冊読んだ。以下の2冊である。
『ヒトの狂犬病』および『狂犬病再侵入』
書名:ヒトの狂犬病
著者:高山直秀
出版社:時空出版
ISBN:4-88267-029-1 C0047
書名:狂犬病最侵入
著者:神山恒夫
出版社:地人書館
ISBN:978-4-8052-0798-7 C0047
前者は、『忘れられた死の病』というサブタイトルがついていることが示すとおり、1950年代までは、日本国内でも恐ろしくも身近な病気であった狂犬病だが、『撲滅』してから50年になろうとしている現在となっては、その病に怖さを実体験として知る者が少なくなり、正しい知識と警戒心が欠如している現状に警鐘を鳴らす目的で書かれたもののようだ。
後者は、同様のコンセプトのもとに、いつか日本に狂犬病が再上陸したら・・・という想定で様々なシミュレーションを展開している。日本が「狂犬病のない国」という状況は、かなり危うい土台の上にあることが明らかにされている。
どちらも医学専門家(前者は医師、後者は獣医師)によって書かれた書籍で、日本での狂犬病の歴史、現在の狂犬病事情についての海外での豊富な事例なども含まれている。もっと実際的な部分、つまり感染や発病のメカニズム、狂犬病が疑われる動物から咬まれた際のワクチン接種を含めた処置、各国の狂犬病対策の比較等々がわかりやすく説明してある。
別に私や家族が犬に咬まれたわけではないのだが、たまたま手にとってページをめくってみたら、なかなか興味深い記述が多かったため、一気に読み進むこととなったのだ。ただ『興味深い』といっても、発病したら必ず死に至る怖ろしい病気の話であることから、予備知識として仕入れておきたかった。間違っても楽しい内容なんかではあり得ないことは言うまでもないだろう。
以前、狂犬病にかかった犬の様子、同様にこれを発病した人間の状態を捉えた映像を目にしたことがある。特に後者についてはあまりに残酷かつ悲惨な様子がまぶたに焼き付いて離れない。それでもこれまで私自身には『咬まれたら医者に行って何回かワクチン打ってもらえば大丈夫なんだろう』という程度の知識しかなかった。
イヌ以外にもコウモリなどちょっと意外な動物からの感染例が多いこと、ワクチン接種の失敗例(その結果として発病)は少なくないこと、ワクチンにもいくつかのタイプがあり命に関わる副作用の可能性、そして力価つまり効き目にも相当な差があること、国・地域により用いるワクチンや接種方法にかなり広い違いがあること等々、私のような素人にとってはまさに目からウロコの新鮮な情報が多く、万一の場合のためいい勉強になった。
残念ながら、インドはこの病気で命を落とす人々が毎年およそ3万人という世界一の狂犬病大国でもある。自身の身を守るために、またこの国に関する予備知識の一部・・・といっては言いすぎかもしれないが、こうした本を読んでおくのは意味の無いことではないと私は思う。何しろひとたび発病すれば、確実に、しかもほんの数日以内に死に至るとても危険な病気である。

E-タバコ

嫌煙権と言うコトバが生まれたのは30年くらい前のことだという。もちろんその背景には、世間でタバコの害について認知が進んだことが背景にある。非喫煙者の副流煙による間接喫煙を原因とする健康被害にあいたくないという、ごくまっとうな意見が静かにしかし着実に浸透し、分煙化が進んでいくことになった。
確かに古い映画、ドラマ、報道番組などを目にすると、事務所内がタバコの煙でもうもうとたちこめていたり、デスク上の灰皿がてんこ盛りになっていたりして、画面から匂ってくることはないとはいえ、今とはずいぶん違う雰囲気を感じる。
当初は交通機関や多くの人々が利用するスペース等に『禁煙車両』『禁煙コーナー』といったものが設けられ、煙がくることを望まない人が特別にしつらえた環境下でそれを避けることが可能となったが、その後さらに喫煙規制が進んだ結果、『喫煙車両』『喫煙所』という形で、タバコを吸う人たちを特定の場所に囲い込むことになる。つまりスタンダードな立場が喫煙者から非喫煙者たちのほうに移ったわけで、地道に進められていった喫煙規制運動の勝利といえる。
もちろんこれは日本に限ったことではなく、世界中でほぼ共通の現象であり、特に規制の進んでいる地域に比べて、日本では人々の所得水準に比してまだまだタバコの小売価格が安いが、喫煙率も同様に比較的高い水準にあるのもそのためだろう。
日本のメディアのウェブサイトに、以下のような記事があった。
…………………………………………………………..
世界のたばこ事情
価格水準 先進国の中では低め

(北海道新聞)
…………………………………………………………..
そういえば、インドもそうだが諸物価に比してタバコが高い国々では、しばしば10本入りパッケージが売られている。あまりにお金がかかるので「やめよう」と思いつつも、『この小さい一箱で終わりにしよう』なんて手を出してはそのままズルズル・・・という姿や、禁煙3日目あたりの人が『ちょっとだけ、この小さなパッケージだけ・・・』なんて妥協しては元の木阿弥なんていう人の姿が目に浮かぶようだ。
だが一本ずつのバラ売りというのは、それ以上に注意を要する存在である。やめるつもりでも日に数回禁煙を『いとも簡単に中断』できるし、『スパッとやめたぜ』などと公言しつつも、ポケットからコインを出して一本買っていたりする。それでも箱で購入していないので、禁煙の誓いに負けたなんていう気がせず、『オレはタバコやめた』という自信が揺るがないのが不思議だ。しかし手元にあるタバコの数を制限できるので、節煙になることは間違いないが。
現在の私自身はといえば、喫煙者とも非喫煙者ともいいがたいものがある。たとえばどこかで酒を飲むときはタバコが欲しくなって吸うし、自宅をしばらく離れて旅行するときには一時解禁ということにしている。もちろん帰宅するとスパッとやめているつもりだ・・・とはいえ、やはり未練が残っているので完全にタバコから縁が切れたとは言い難い。
ところで『オレは止めないぞ』と喫煙意思の固い人たちも決して少なくはない。そういう人たちは、禁煙時代の飛行機での移動、とりわけ国際線の利用となるとかなり困るらしい。ターミナルビルの外で吸いだめしてみたところで、出発2時間ほど前にチェックインし、目的地にもよるが概ね長いフライト時間、到着してからも行列しての入国手続きや両替等を済ませ、ようやく外に出てからタバコに点火。『やれやれ、これだから飛行機は嫌だなあ』といった具合なのだそうだ。
何かと便利なモノが次から次へと出現して、あの手この手で消費者の懐をうかがうこの世の中、そういう人にピッタリ(?)な商品がすでに出ているようだ。電子タバコなる代物で、その名もSUPER SMOKER。どんな味なのかよくわからないが、どうせならもうひと捻り加えて、世界的にメジャーな銘柄のテイストを選択できるようにすると、かなり好評を得るのではないかと思ったりもする。
電子タバコ「Super Smoker」がヘビースモーカーの命を救う!? (MSMデジタルライフ)

因果な遺伝子

イギリスに暮らすインド系・インド人住民たちの間では、心臓病にかかる割合が白人よりもかなり高いのだそうだ。在米の南アジア系の人々についても、同様の事柄について書かれた記事を複数見かけた記憶がある。別に欧米の風土がインド系の人々の健康に良くないというわけではもちろんない。だが世界総人口のおよそ四分の一を占めるインド人、2020年には世界の心臓血管にかかわる病気の患者の四割を占めるであろうとの予測もある。こうした状態を招く諸悪の根源は肥満であるとのことだ。
その理由について、食生活やライフスタイルに求める論調も多いが、同時に持って生まれた資質に言及するものも少なくない。このたび肥満を引き起こす可能性を高める遺伝子を持つ割合が、インド系の人々の間で高いことが発見された。食欲や体内に取り込んだエネルギーの消費や保存などをつかさどる機能に影響を与える。その遺伝子に書き込まれたプログラム次第で、現代の食生活や生活パターンでは栄養過多になってしまう。
人の生活は自然環境に大きく左右される。自らが暮らす土地で採れたものを食べて自給自足していた時代には、それぞれの土地に適合した作物が栽培あるいは採集され、そこでの暮らしにおいて持続可能な形での食生活が営まれていた。ふんだんな食料に恵まれていた土地もあれば、恒常的に飢えと隣り合わせの状態で人々が代々暮らしてきた土地もある。気が遠くなるような膨大な時間の流れの中で、人々はそれぞれの土地の食糧事情にうまく合った体質を作り上げてきた、あるいはそういう形で淘汰されてきたということになる。
南太平洋の島々などもその良い例らしい。熱帯とはいえ、四方を海洋に囲まれた珊瑚質の土壌の島での生活は、こと食料事情に関しては非常に貧しかった。そうした住環境に適合するために、わずかな食料から最大限の栄養を吸収できるような体質が形成されていったと考えられている。加えて不足がちな食料を高いカロリー値となる調理法で処理する傾向があり、滅多に口にできない祝祭時のご馳走は往々にしてそれに輪をかけてボリューム満点で豪華な料理となる。
だがそうした地域にあって、第二次大戦後の復興期を経て、西側諸国が急速な経済成長を遂げると、リゾート地として注目されるようになり、盛んに資本が投下されて開発が進み、そのインフラを基に以前は存在しなかった観光という一大産業がその地域に住む人々に大きな収入をもたらすようになった。同時にこれは人々の食生活を大きく変化させる引き金となる。食糧事情の飛躍的な向上により、以前の世代の人々が普段口にできなかったような贅沢品が毎日でも食べられるようになり、当然の結果として人々の身体は巨大化。長い歴史の中で築き上げられてきた『燃料効率の良い体質』が、飽食の時代では仇になってしまうのだ。
カロリー過多の傾向は結局のところインド系の人々の間でも同様らしい。伝統・文化・歴史どれをとっても『豊かな大地』インドでは食文化もまたバリエーション豊富かつリッチだ。しかし概ねこの地域はもともと食べ物について量的にさほど恵まれていたわけではない。むしろ大規模な飢饉にしばしば襲われる食糧難の土地であったといえるだろう。緑の革命はパンジャーブ州をインドの穀倉地帯に変えたがこれは農業の現代化の賜物だ。近代以前のパンジャーブの農村風景は、今とはずいぶん異なるものであったはず。インド系の人々は、どちらかというと食料の窮乏への耐性が高い体質らしい。それを裏付けるのが、このたびの遺伝子云々ということになる。
もちろん程度の差こそあれ肥満はインド系の人々に限らず、今の時代に生きる私たちの健康にかかる共通の問題だ。『地産地消』とは程遠い生産・消費パターン、季節感のない食卓といった点も考え合わせたうえで、可能な限り自然の理にかなった食生活をこころがけるようにしたいものである。
Genes ‘up Indians’ obesity risk’ (BBC NEWS)