チベット 酸素 ヘモグロビン

高い所はどうもダメなのである。高所恐怖症というわけではないが、高地で酸素の薄い状態が苦手だ。
特に飛行機で、海抜3000 m以上のところに降り立ってしばらくすると一両日は動けない。ちょっと二日酔いに似た症状となる。頭が痛くてダルくて、ベッドから立ち上がる気もしない。
いつだかデリーからのフライトでラダックのレーに着いたときもそうだったし、ペルーでリマからクスコに飛んでみたときもそうだった。到着してから宿に荷物を置き、少年たちのストリートサッカーに加わると、空気の薄さからやけに息が切れると感じた。
リマで同じ日系宿に宿泊していた人たちが同じ宿に泊まっており、近くのペーニャ(フォルクローレのライブハウス兼飲み屋)に出かけたのだが、アルコールが入ると強烈に効いた。
翌日、翌々日と部屋でノビていた私に、彼らが『コカ茶が効くらしいよ』と駅前のマーケットに出かけてくれたが、その日本人3人が羽交い絞め強盗に遭ってしまい、非常に申し訳ない思いをした。相手は10人くらいいたそうだ。
以降、高所に弱いという自覚が出来たため、そうした場所に着いたばかりでいきなり身体を動かしたり、酒を飲んだりしないようにしている。
もちろんその程度の高度ならば、しばらく安静にしていると順応するし、日数をかけて高度を上げていけば、こうした症状は出ない。それでも山道や斜面を上ったりすると息が切れるし、ちょっと走ったりするだけでもとんでもなく苦しい。どうやら私は登山にはまったく向いていないらしい。
酸素が薄い状態に対して、人の身体とはうまく出来ているもので、血液中のヘモグロビンを増やすことにより、低酸素状態で効率良くこれを体内に循環させることで対応する。だがそうした高地に順応した状態は高血圧を招くなど、決して人体に好ましい状態ではないこともよく知られている。
高度による影響は個人差が大きく、トレーニングによりその体質を変えることはできず、結局時間をかけて高度に順応させていくしかない。その他、本来は緑内障やてんかん等の治療薬であるアセタゾラミドというが高山病対策に有効であるとされる。商品名『ダイアモックス』として知られており、高地でのトレッキングに出かける人による利用も多い。だが高山病の症状が出て重症化した場合は『死なずに済む』ためには低地に移動するしかない。
海抜3,000 mを越えたあたりから、高山病を発症する人が出てくる(本当に高地がダメな人の場合、2,000 mでも辛いそうだ)というが、その程度の高さでも重篤化した例、さらには死亡例もかなりある。
だが海抜3,000 mから4,000 m超の高地でも、ごく普通に暮らしている人たちもあり、チベット高原やアンデス山脈などはその典型だ。
そんな高地に暮らしているチベット人たちの体質について、最近見かけたニュースが興味深かった。

チベット人の遺伝子は高地生活に適応
(ナショナル・ジオグラフィック)
The Genetics of High-Altitude Living (Science)
低地で暮らす人々に較べて、チベット人たちは呼吸回数が多く、血管も太いのだという。つまり体内に酸素を巡らすための効率に優れているということになる。
面白いのは、私たちが高度に順応するために血液中のヘモグロビンを増やすのに対して、高地で生活してきたチベット人たちには、これとは逆にヘモグロビンの増加を抑制する遺伝子を持っているというのだ。そのため高地に暮らしていながらも、ヘモグロビンが増えることによる負の影響を受けずに生きていくことができる。
長い歳月、幾世代にも渡って高地で生活してきたため獲得した体質ということになるのだろうが、やはり私たち人類の身体も時とともに環境に合わせて進化を続けていることを思い出させてくれる。
※『彼方のインド4』は後日掲載します。

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