クラーンティ(革命)!

 かつては地域によりブロードゲージ、メーターゲージ、ナローゲージと軌道の幅が異なる路線が混在していたインド国鉄だが、着々と進められてきたゲージ幅の統一(ブロードゲージ化)が進んだことにより、ずいぶん使い勝手がよくなったと思う。昔はいちいち乗り換える必要があったルートでも、今では直通列車が走るようになってきている。たとえばデリー発ジャイサルメール行きの急行などもその一例だ。
 近年着々と進化を遂げているインド国鉄。2002年から新しい特別急行路線を導入している。それは長距離を走るサンパルク・クラーンティと短い距離をカバーするジャン・シャターブディーだ。サンパルク(接続、連絡)のクラーンティ(革命、前進)とは、なんとも大げさなネーミングだが、日本の新幹線やフランスのTGVのような超特急が導入されたわけではもちろんない。
 従来から少ない停車駅とスムースな走行で国内各地を結んできた長距離特別急行ラージダーニーや短距離のシャターブディーのルートと一部重なる部分があるのだが、これらとは少々性格が異なるようである。新しい特別急行にはエアコン無しの二等車も連結しており、鉄道による高速移動の大衆化がはかられている。
 またこの新しい特別急行の路線の一部には、以前メーターゲージ区間であった部分も含まれているようで、前述のブロードゲージ化を進めてきた恩恵のひとつともいえるだろう。


 サンパルク・クラーンティは目下18路線の運行が予定されているが、現時点すでに走行しているのはまだほんの一部。しかしデリーのハズラト・ニザムッディーンからマドゥライ行き、あるいはマルガオ行きの便など、旅行にもなかなか便利かと思われる。
 ジャン・シャターブディーは相当数の便が走行しており、ムンバイからマルガオ、エルナクラムからティルヴァナンタプラム、バンガロールからフブリー等々、これまた役立ちそうな路線が多いのだ。
 
 例をひとつ挙げてみよう。タミルナードゥ・サンパルク・クラーンティ急行は、デリーのハズラト・ニザムッディーン駅を午前7時に出て、最終目的地マドゥライには翌々日の午前5時15分に着く。
 本来はデリーを発ってからボーパールやヴィジャヤワダー等にストップすることになっているようだが、当面は停車せずチェンナイまでノンストップ。早朝出発後、次の停車駅が翌日の夕方午後6時過ぎのチェンナイ・ビーチ駅だというのはオドロキである。 
 これが反対の上り方面だったりすると、チェンナイでうっかり寝過ごしてしまえばはるか彼方のデリーまで連れて行かれるため、寝坊助にとってはかなり危険な列車かもしれない。
 もっともこの列車、物理的にずっと走りっぱなしというわけではない。乗務員の交代、車両のメンテナンス、食料や水といった乗客が必要とする物の積み込み等のために幾度か停車するようだ。興味深いのは、途中そんなにスッ飛ばすのにタミルナードゥ州に入ってからは9か所も停車すること。しかしこれによって同州の内陸部からデリーへの接続はかなり良くなるはずだ。
 昨今の安い国内航空路線の登場は、長い間全国各地をつなぐネットワークの要を自負してきたインド国鉄に強力なライバルが現れたことになるとともに、高速道路網建設の関係も近年話題にのぼっている。鉄道も特にアッパークラスでの長距離移動、あるいは短・中距離間での列車の頻度や速度といった面で、今後は他の輸送手段との競争にさらされることになる。
 加えて景気が良いと社会に余裕が生じるため、物事の移り変わりが速くなっているということも、鉄道の発展に拍車をかけることになっているのかもしれない。
 ・・・とはいうものの、すべてが等しく進化するわけではない。駅のプラットフォームに停車中の急行列車、ジェネラル・コーチ(一般車両)と呼ばれる予約なしの一番安い座席車両の中では、暗い照明の中に大荷物とともにギュウギュウ押し込まれた貧しい人々の姿がある、なんて様子は昔から同じだ。
 こういう「窓付き貨物車」が「ジェネラル・コーチ」と称されていることもまた皮肉なことである。変わるところは大きく変わるが、変わらないところはちっとも変わらないインドの一面を垣間見るような思いがする。
 それだけではない。いろいろと速い急行その他列車の本数が増えて便利になるのは良いが、年間通してみると相変わらず大事故が散発して多数の人命が失われており、そのたびに人為的なミスが指摘されている。運行に関してまだまだアナログな部分が多いのは仕方ないかと思うが、利便性だけではなく安全面こそ革命的な進歩をとげて欲しいと願う。

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