2006年ドイツで開催されるW杯アジア一次予選・対日本戦で大敗してしまったインドだが、すでに水面下では、次の2010年本大会出場を目指して動き始めている。
もちろん勝利への第一歩は、若手プレーヤーのレベル向上、未来へ希望をつなぐサッカー少年たちの育成だが、世界第2位の人口(若年者人口では世界一?)という圧倒的なスケールメリットを生かすために、競技人口の拡大が期待されるところ。
ヨーロッパの人口をみても、フランスは約6000万人、オランダは約1500万人、スウェーデンやデンマークなどは数百万人足らず、なおかつ高齢者の占める割合が高い。そのような国ぐにが、ワールドカップに繰り返し出場しているのだ。
サッカー発祥の地イギリスの人口はおよそ5900万人だが、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドのサッカー協会はそれぞれ個別でFIFAに加盟している。おのずと「代表チーム」もその数だけ生まれ、力が分散してしまうにもかかわらず、押しも押されもせぬ欧州の強豪の一角を占めている。一体インドの人口はこれら国ぐにの何カ国分にあたるのだろうか。
大きな国が強いわけではない。娯楽、大衆文化として、国民にどれほど強く支持されているかが、「サッカー」というスポーツ文化を支える大きな柱となる。
競技普及の背景には、気候、文化的背景、伝統、そのほか土地固有の要素が作用する部分は大きい。(ジャマイカのボブスレーみたいな例外はあるが)スリランカのような常夏の国でウィンタースポーツ選手を、サウジアラビアで女性競泳選手を見かける機会はまずない。エジプトに柔道選手はいても、相撲の世界に飛び込む人がいるとは思えない。
インドにおけるサッカーはどうだろうか。クリケットに圧倒され、競技人口も人気も少ない。普及には地域的な偏りが大きく、全国規模の娯楽というにはほど遠いのが現実だ。
マナーといい、プレースタイルといい、紳士的雰囲気が漂うクリケットと違い、フィールドを息つく間もなく駆け回るなんて上品じゃないというイメージがあるのかもしれないが、サッカー同様にハードな「ホッケー」も、インドの人気スポーツのひとつだ。
また、酷暑期のこの国でサッカーなんて、想像しただけで目眩がしそうだが、アラビア半島やアフリカなど非常に暑い地域でも人びとはサッカーに興じている。
マレーシアのプロサッカーリーグ=Mリーグで活躍するインド系選手やレフェリーは多く、インド文化がサッカー普及を阻んでいるということはあまりなさそう。要はキッカケだろうか?
いくらチーム強化に力をいれたところで、あと6年ほどでW杯本大会に出場できるようになるとは到底思えないが、もっと長い(とっても長〜い)視点で見れば、先日行われた日本戦にだって、ちょっと明るい兆しを見つけられる。スコアに大差がついたものの、FIFAランキングで120位分の差があることを思えば、インドの戦いぶりは悪くなかった。良いパスワークも散見されたし、自陣ゴール前という危険地帯で無理にボールキープしようとする愚を犯さなければ、あれほど大量失点せず試合終了のホイッスルを聞くことができたはず。結果はともあれ「豊かな資質を感じることができた」と言っては褒めすぎか。
ファッションも娯楽も、おおむね豊かな層から周囲へと広がるもの。私は、インドサッカー普及のカギはパンジャーブにある!と勝手に推測している。身体能力が高いタレントの宝庫からスター選手が誕生すれば、「後に続け!」とこれまで不毛の地だった北西インドでもサッカー人気が高まるかもしれない。パンジャーブでブレイクすれば、その熱は人口稠密なヒンディーベルト地帯にも広く波及するはずだ。
色白でハンサムなスタープレーヤーの誕生も重要だ。人口の半分は女性。テクニックだけではなく、彼女らを魅了するカッコ良さも兼ね備えた選手が登場すれば、サッカーそのものにさほど興味がなくても、足しげくスタジアムに通うファンが出てくるのは万国共通である。インドサッカー界の星、ブティヤー選手には申し訳ないが、モンゴロイド系マイノリティ出身の選手が、「国民的英雄」として全国的に支持を集めるのは難しいだろう。
1980年代まで、欧州のプロリーグで活躍する選手がいても、ブラックアフリカのサッカーに注目する人はあまりいなかった。キラリと光る選手の存在はあっても、代表チームとしては大した成績を残せず、アルジェリアやモロッコなどアラブ系のマグレブ諸国ほど関心を集めることはなかったのだ。
それがどうだろう。90年代に入ってからは、イタリアで開かれたW杯でカメルーンの大躍進、アトランタオリンピックでナイジェリアがブラジルを下し優勝するなどといった出来事が続き、ブラックアフリカは一躍脚光を浴びるようになった。
もちろん、インドに同様の劇的な転機が起きることはないにしても、娯楽・文化として、サッカーがそれなりの地位を築くようになれば、国内リーグや代表チームの実力も着実に向上していくことだろう。ここ10年あまり、ライフスタイルや価値観が大きく様変わりしたインド。今後、クリケット一辺倒から抜け出す兆しはあるはずだ。
人びとのしゃべる言葉がそれぞれ違うように、スポーツ…とりわけチーム競技には、その国ごとのリズムやスタイルがある。
正確なチームプレーで緻密な試合運びをするドイツのような国があれば、ブラジルのように個性的プレーヤーたちがミラクルを連発する派手な国もある。隣り合うラテンヨーロッパの国でも、先制点を挙げた後は手堅い守りで逃げ切るイタリアとは対照的に、華やかに攻めながらも夏の連戦でパワーを消耗してしまうスペインのような国もある。
いつか「インドのサッカーは…」と、サッカーファンの口から語られる日が来るだろうか。
▼目指せ!2010ワールドカップ
http://server1.msn.co.in/sportsinstyle/jan_week1/sports7.asp
サウジアラビア2006年のワールドカップにでますか?