ダーラーヴィー 5

ダーラーヴィーのツアーで訪れた場所では、想像していたとおりの風景があった。例えばgoogleの画像検索でキーワードを『Dharavi』と入れると出てくる画像に見られるような景観などはその典型だろう。
だが同時に、やはりここは地理的な条件からやむなく都会の真ん中にみすぼらしい姿で出現せざるを得なかった『郊外』という部分もあるのかもしれないという思いも強くした。
ムンバイーといえば、インド有数の大都会であり、様々な就業機会を、より高い賃金とともに人々に提供する街だ。その魅力に惹かれてやってくる人たちは、同時に世界でも指折りの不動産価格の高い都市であるという現実にも直面しなくてはならない。そうした就業機会と住宅難が衝突した結果、落ち着いた先はこのスラム、ということもあるのではなかろうか。
同時に、亜大陸随一の商都では、そこから生じる廃棄物の処理を行なったり、リサイクルできるものは再生したりといった事柄を含めた社会的ニーズを満たす機能を必要としている。それらの活動はもとより、その他様々な産業、社会的サービスに従事する相応の労働人口も欠かすことはできない。
そこにきて、ダーラーヴィー?で述べたとおり、『ムンバイーが半島に立地しているがゆえに、インドの他の大都市と異なり、海に囲まれて周囲に広がる余地がない限られた都市空間しか持たない』というボトルネックがある。それがゆえに、今のムンバイーで一等地となり得るロケーションでありながらも、かつては漁村が点在するだけで、低湿地帯であったことに由来する排水の悪さ等から正式に開発されることなく、スラムとして『発展』するままに放置されてきた。そのダーラーヴィーが、結果的に『郊外としての機能』を担うことになっているとしても決して不思議ではないだろう。
ここから先は、あくまでも私の想像に過ぎないが、ダーラーヴィーの再開発がこれまで幾度も頓挫してきたことの理由のひとつに、ダーラーヴィーに代わってこの都市の『郊外機能』を担うことができるエリアが見つからないという点もあるのではないかとも思うのだ。
このスラムを訪れるツアーには参加したが、それでこの地域のことが判るなどとはもちろん思わない。そこに居住しているわけではないし、日常的に出入りしているわけでもない。案内人とともに、ただ数時間歩いてみただけで理解できることなどタカが知れている。
そもそも4時間半のツアーで、行き帰りにかかる時間、加えてカーマーティプラー、ドービーガートなど他の見学先での時間を差し引くと、ダーラーヴィーを見学したのは正味3時間くらいでしかなかった。
NGOをも運営する組織の収益部門としての旅行会社が、『参加者に見せたい部分』をピックアップしていることも了解しなくてはならない。当然のことながら、彼らが安全面での確信が持て、かつ人々が懸命に働いている現場で外国人を見物させるだけの顔が効くエリアということになる。
しかしながら、そういう部分を差し引いてみても、いろいろ思うところはある。確かに人口密度がやたらと高く、職住環境は劣悪であることは間違いないにしても、訪れた範囲では意外にごく普通の人々が働いており、これまたごく普通の暮らしがあり、スラムの外の世界と同じくごく普遍的な空間があることはわかった。最初は、何か仕込みでも用意されているのかと思ったくらいだ。忙しい雑踏の中で、物乞いの姿を見かけないのもちょっと意外であった。
このツアーは、参加希望者があれば毎日催しているとのことだが、ガイドによれば休日には作業場の大半が閉まっているため、日曜日や祝日は避けたほうが良いとのことである。
行きの車内やツアーの行程中は、ガイドの説明に対して、私を含めて様々な質問を投げかけていた参加者たちだったが、帰りはそれとは打って変わって、静まり返っている。各自ダーラーヴィーで見たものを各々反芻しているかのようである。
このツアーで何か判ったわけではないが、これまで以上にこの地域に関心を抱くきっかけにはなりそうだ。今後、ダーラーヴィーに関わる報道や書籍などを見かけたら、マメにチェックしていくことにしたいと思う。

<完>

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