グローバル化は善なのか?

だいぶ前に『グジャラート州 酒類解禁への道』と題して、グジャラート州でアルコール解禁の動きがあることについて触れてみたが、その3年後も相変わらず禁酒州であるという事情は変わらない。
そんなわけで、他州ではバーザールに普通にある酒屋は見当たらず、私たち外国人はパーミットを得て特定のホテルで購入することはできるようにはなっている。しかしグジャラートに居住しているのならばともかく、休暇で訪れているときくらいは、大切な肝臓に休暇を取ってもらうのもいいかもしれない。
だがアルコール類は適度に供給されている軍関係者からの横流しはともかくとして、この禁酒州が絶海の孤島にあるわけではなく、普通に酒類が販売されている隣接州と地続きであることからも、闇酒事情は相変わらずらしい。
新聞を広げていると、州内各地で取り締まりの憂き目に遭い、逮捕されたうえに大事な品物を没収された人たちの関係の記事が毎日出ている。こうした記事になるのは、個人が自己消費のために持ち込むといった程度ではないので、相当大掛かりな『密輸組織』が背景にあることが覗える。
実際、クリスマスや新年といったパーティー等を開く口実の多い時期には、自宅やホテルなどで半ばおおっぴらに飲む人々が少なくないこと、そうした酒類の流通が闇に潜ってしまうことから、行政から見れば事実上『免税』に等しい状態(政税収をもたらさないという意味で)で、結果的にマフィアの収益になっていること、また外資の誘致はもちろん外国からの観光客へのアピールにも障害になる(?)という意見がある。
これに対して、保守系の新聞では、飲酒という行為は様々な犯罪の引き金になる、健康にも悪い、ガーンディーの生誕地としての誇りとともに、禁酒という我々の財産を次代に引き継ぐべきだという論調があるようだが、精神論に偏りすぎており、説得力に欠けるようだ。
ところで、外資の誘致に際しての障害としては、つい先日こんな事例があった。
Chinese engineer held for smuggling liquor in Kutch (newkerala.com)
上記で引用したのは、地元グジャラート紙系のウェブサイトではなく、ケーララ州のメディアによるものである。記事中にあるように、現地で働く中国人労働者のためのものということだ。中国人による密輸という事例よりも、むしろ同州で中国人たちによって発電所建設が進められているということ自体が、私にとっては意外な事実であった。
確かに近年のインドでは、日用雑貨や玩具類など、中国製品が大量に出回っているし、中国大陸から企業や個人などがビジネス機会を求めてやってくる例は少なくないのだが、インドでこうした大掛かりな工事等を受注した中国企業が他にもあるのか、機会があれば調べてみたいと思う。
別の中国人の酒密輸事件がグジャラートの禁酒解除につながるとは思わないし、飲酒の是非について云々するつもりはないが、いわゆるグローバル化とやらが進む中、人々のライフスタイルは当然のごとく変化していくとともに、周辺地域や外国とのバランス等についても、これまで以上に考慮される必要が出てくる。そのため地域が独自のカラーを維持していくことについては、内部的にも対外的にもそう簡単ではなくなってきていることは確かなようだ。
グローバル化の進展とともに、地域や国境を越えた相互依存が深まるにつれて、内と外の境がだんだんボケていくことから、『ウチらのことはウチで決める』ということがなかなか難しくなってきていることは、世界共通の現象だ。そうした動きの中で、地域の伝統にしても文化にしても、他と競合したり吸収されたりといった流れが出てくる。
そのひとつの例が言語だ。現在、世界では6,000あまりの言語が存在しているものの、世界人口の約半分は、わずか10ほどの大言語を使用していのだとか。いっぽう、この6,000あまりの異なる言語の中の四割前後が、どのくらいの話者人口を持っているかといえば、悲しいことに千人以下であるという。
あまりに話者人口の規模が小さなものであると、それを通じて教育を受けたり、生活を営んだりすることさえままない。すると言語を次世代が受け継ぐことも困難で、結果として周囲のより有力な言語に乗り換えてしまうことになったり、あるいは近隣にあるより話者人口が大きく、かつ有力な言語の方言という位置づけになっていったりといったプロセスが控えている。
そんなわけで、現在世界で話されている言語のうちの半数ほどは、私たちの世代あるいは次の世代あたりで、およそ半数ほどが姿を消すとさえ言われているのだが、言語に限らずグローバル化の進展を背景に、失われようとしている私たちの貴重な財産は他にもいろいろあるように思う。
世界がひとつになること、みんなが一緒になることは、諸手を挙げて『良いことだ』と言えるのか、常々疑問に思うところなのである。

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